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2022-09-17

【ボクシング】両者2度ダウンの壮絶ファイト! 坂晃典が奈良井翼に逆転TKOでV2

パワーブローを浴びせる坂

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 17日、メルパルク大阪で行われた日本スーパーフェザー級タイトルマッチ10回戦は、チャンピオン坂晃典(さか・こうすけ、30歳=仲里)が3位・奈良井翼(22歳=RK蒲田)に2度ダウンを奪われたものの、2度倒し返して6回55秒逆転TKOに下し、2度目の防衛に成功した。


写真_石井愛子

 一瞬先をまったく読めない、目まぐるしい攻守交替の連続。ボクシングの原点とも言うべき、駆け引きなしの壮絶な殴り合い。そんな死闘を制したのは、キャリアに優る坂だった。

「逆転なんですか? 逆転なんですね。あんまりよく憶えてない」

 笑顔も交えて勝利者インタビューに応じた坂だが、彼にも深いダメージがあったことは明らかだった。

後退し、坂を呼び込み、一転して右を突き刺した奈良井
後退し、坂を呼び込み、一転して右を突き刺した奈良井

 初回、前進する坂を、挑戦者・奈良井は明らかに“呼び込んで”いた。坂がほんのわずか、ゆとりを持ったように見え、そのまま若干緩んだプレスをかけていく。奈良井はそこを見逃さなかった。
 突如ワンツーを繰り出す。この右ストレートで坂が瞬間よろめくと、奈良井は前腕の角度を変えた右をふたたび突き刺して、早々にダウンを奪った。

軌道を変えた右を突き刺して、初回にダウンを奪った奈良井
角度をほんのわずかに変えた右を突き刺して、初回にダウンを奪った奈良井

 立ち上がった坂は、ダメージに加え、ショックも大きかったはず。だが、今度は奈良井が心を落ち着かせ過ぎた。坂の強力な反撃を警戒した、まだ初回だった、いつでも倒せる……様々な思いがあったのかもしれない。一気に決めに行くことはせず、距離をキープしながら、淡々とチャンスを窺った。そうしてこのラウンドは終了する。
 究極の戦いの中で、冷静さを保つのは大切だが、この大チャンスを結果的に逃した。挑戦者側にとって、悔やまれる選択だったかもしれない。

 2回に入り、圧力を強めた坂は、左ジャブをボディに散らしたり、ワンツースリーから左ボディブローと連打したり、攻めのバリエーションを惜しげもなく披露し始めた。しかし奈良井は坂の打ち終わりに右を合わせる。またしても右が決まって坂がヒザを着いたかに見えたが、レフェリーはスリップダウンと裁定した。

 互いに真正面からワンツーを飛ばし合う。強い右を打ちこむためのフックやアッパーを混ぜ込む坂と、右ストレートに加え、左フックも決めようとする奈良井。ともに「当てれば相手は倒れる」想いが真っ向からぶつかり合う戦いへ。両者交互にヒザを揺らすような展開に没入していく。

徐々に追い込んでいった坂だが、奈良井もその都度反撃し、試合はもつれた
徐々に追い込んでいった坂だが、奈良井もその都度反撃し、試合はもつれた

 しかし、ラウンドが進むごとに、坂の圧力、パワーブローが奈良井から少しずつ余裕を削り取っていく。4回、奈良井は鼻血を流し、ダメージも溜まり始めていた。が、その都度反撃し、坂をグラつかせる。そして奈良井のワンツーが決まると、坂はふたたびダウンを喫した。

 立ち上がり、今度こそ詰め切りたい奈良井と、クリンチに逃れたい坂。両者はもつれ合いながら、ロープにもたれかかり、ともに場外へと落ちるシーンにつながる。幸い、リングが平面に設置されていたため、大きなトラブルにはならなかったものの、両者、疲労以上のダメージを抱えていることを窺わせる一幕だった(5回にももう1度、同じように両者は場外に倒れ込んだ)。

 5回、先に仕掛けたのは奈良井だった。右が決まり、坂がよろめく。しかし、ワンツーの相打ちがカウンターとなると、今度は奈良井がキャンバスにヒザを着いた。この右カウンターは、壮絶な展開の中、坂が虎視眈々と狙っていたブローだ。奈良井も気力を振り絞って反撃するものの、ダメージのある坂も、このダウンで気持ちが上向いたのは明らかだった。

ストップの瞬間。最初から最後まで、両者ともギリギリの戦いを演じた
ストップの瞬間。最初から最後まで、両者ともギリギリの戦いを演じた

 続く6回、すっかり追い込まれた奈良井も、右カウンターで再逆転を狙ったが、坂は左ボディブローも入れたコンビネーションを見舞い、ワンツーをヒットして奈良井を倒す。そして辛くも立ち上がった奈良井に連打を仕掛けると、レフェリーが割って入り、この死闘をストップしたのだった。

「応援してくれる人、頑張ってきた自分のため、ここで終わるわけにはいかなかった」と王者
「応援してくれる人、頑張ってきた自分のため、ここで終わるわけにはいかなかった」と王者

 気力、攻撃力を激しくぶつけ合う戦いは、心を大いに揺さぶった。けれども、壮絶な身の削り合いが、より心を深く抉った。

 坂の戦績は28戦22勝(19KO)6敗。奈良井の戦績は10戦8勝(7KO)2敗。

千本瑞希がOPBF王座V2/田村亮一は判定ながら圧勝

強烈な左ボディブローをヒットする千本
強烈な左ボディブローをヒットする千本

 セミファイナルで行われたOPBF東洋太平洋女子ミニマム級タイトルマッチ8回戦は、チャンピオンの千本瑞規(ちもと・みずき、28歳=ワタナベ)が、挑戦者パク・ヘス(34歳=韓国)を76対76、78対74、78対74の2-0判定で退け、2度目の防衛に成功した。
 スピードとパワーに勝る千本はジャブの差し合いを制し、グイグイとプレッシャーをかけて、左腕1本で早々に試合をコントロールし始めた。左フックのトリプルでパクの攻撃を断ち、左ボディブローを突き刺して挑戦者を下がらせていく。が、世界挑戦経験があり、プロでのキャリアに勝るパクは、前に出続けることをやめない。足を止めて力強い1発を当てようとする千本に対し、ショートの連打から右ストレートをコツコツとヒットし返す。距離ができると、長いリーチを生かした右からの左ストレートも入れていった。

長短とタイミングを変化させたパクのストレートも厄介だった
長短とタイミングを変化させたパクのストレートも地味に厄介だった

 4回終了時の公開採点ではジャッジ1者がイーブンとしていた。パクの手数を評価したのだろう。
 かつて右拳に重傷を負った千本は、その不安を抱えていたのか──。そんな心配をしてしまうほど、それまで強い右をほとんど出してこなかったが、5回に入り、ようやく強い右を数発繰り出した。そして6回には、パクをロープに詰めて右を決め、さらにワンツーの右ストレートをヒットさせたが、試合全体を通して、強い右を出したのは数えるほどだった。

地力の差を見せつけて勝利した千本
地力の差を見せつけて勝利した千本

 試合を通じてステップを使わず、正面に位置取り、右はグローブでのパーリングや腕でブロックするなどに使うことがほとんど。さらに、強い左へつなげるために右を使うことに終始していた。パワーでは劣るパクの、長短を使い分けたストレート攻撃に、やや戸惑いを見せた場面もあった。
 それでも千本は要所で左ボディと左フック、突き上げるジャブを決めて上回り、地力の強さを見せつけた。
 千本の戦績は5戦5勝(1KO)。パクの戦績は18戦6勝(1KO)9敗3分。

左ボディブローを再三叩き込んだ田村
左ボディブローを再三叩き込んだ田村

田村はいつもながら精力的な攻撃で、1階級上の横川を圧倒した

田村はいつもながら精力的な攻撃で、1階級上の横川を圧倒した

 元日本スーパーバンタム級王者で、現同級1位の田村亮一(35歳=JB SPORTS)は日本フェザー級16位・横川聡也(よこがわ・としや、37歳=ミツキ)と56.0kg(スーパーバンタム級リミット+700g)契約8回戦を行い、78対74、79対73、79対73の3-0判定勝利。前日本王者・古橋岳也(34歳=川崎新田)との2度目(前回は2019年9月=古橋の判定勝ち)の日本王座最強挑戦者決定戦に歩みを進めた。
 グイグイと前進して左ボディブローを中心に左右を叩きつけていく田村に、横川は始めから終わりまで煽られ続けた。展開を変えようと、田村が距離を取って、ロイ・ジョーンズばりのパフォーマンス(両グローブを後ろに隠す)や、ダンスまがいのステップを見せようとも、挑発に乗らず、自ら仕掛けることをしない。田村の入り際に右から左フックのカウンターを狙う。それに徹していた。しかし、受け身の姿勢は田村の勢いを助けるのみ。多少被弾しようとも、田村は自らの戦い方を止めず、圧倒的な手数を横川に叩きつけ続けた。
 田村の戦績は22戦15勝(7KO)6敗1分。横川の戦績は28戦12勝(10KO)13敗3分。


文_本間 暁(ABEMA視聴=坂対奈良井、田村対横川)、西村華江(ABEMA視聴=千本対パク)

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