9日、大阪・住吉区民センターで行われたWBOアジアパシフィック・バンタム級タイトルマッチ10回戦は、チャンピオンの西田凌佑(25歳=六島)が、挑戦者14位・アルジュム・ペレシオ(24歳=フィリピン)に100対90、100対90、100対90のフルマーク3-0判定勝ち。同王座の2度目の防衛を飾った。※フィリピン・ボクシング・コミッション(GAB)が、ペレシオのキャリアを考慮して12回戦を認めなかったため、この試合は10回戦で行われた文_本間 暁
写真_石井愛子
打たせず打つ。誰がどこからどう見ても、完璧なボクシングだった。けれども西田は「倒したかった」と悔し気な表情を崩さなかった。
試合を作るのは右リード。この日もズバズバと決めまくった ポイントを着実に積み上げ、相手のタイミングも完全に掌握していた中盤以降は、慎重な西田にしてはめずらしく、再三再四ペレシオにロープを背負わせて左強打を叩き込んだ。しかし、その都度セコンドから「行くな!」、「KOせんでいい」の声が飛んだ。
「今までの相手の中でいちばんパンチが強かった」(西田)。万が一リターンブローを貰っては元も子もないことがひとつ。加えて「3週間前まで絶不調。それまでは足も体もまったく動かなかった」ことによる調整不足を憂慮して。「会場の雰囲気を感じて、行かなくちゃという気持ちになった」という西田だったが、“石橋を叩いて渡る”思考のセコンドに背中を呼び戻された。これもまた、西田の強みのひとつなのである。
打ったらかわす。ペレシオのリターンを決してもらわなかった 立ち上がりから、サウスポーの西田の右のリードブローが冴えまくった。オーソドックスのペレシオの左腕の内側を突き、抉り、グローブと上体によるクイックのフェイントを織り交ぜて、右フックを外から巻く。そのフックは、速いもの、敢えてスローに打つものと自在に操って意識を外に向けさせて、ガラ空きになったペレシオの体の中心を左ストレートで射抜く。これも上下に打ち分けており、それだけでもペレシオを混乱させたが、さらにオーバーハンドも混ぜるため、ペレシオは右をまったく出せない状態に早々に追い込まれた。「相手はもっと右を打ってくると思ったし、前に出てくると思った」と西田は謙遜して語ったが、自らの打つ手で、そういう状態に追い込んだのだ。
攻め手を奪われたペレシオは、相打ちを狙ってきたが、これも外す 前の手の右ジャブ、ストレートでタイミングと間合いをつかむ。顔面を捉える。ペレシオの左ガードが上がれば右リードでペレシオの左半身に突き刺す。次の段階は左ストレート。そしてワンツー、さらに右右左、右左右フックと徐々に手数とコンビネーションを増していく。3発目は速く打ったり遅く打ったりとタイミングをずらす。ペレシオはその間隙に左フック、あるいは右を合わせにかかるものの、パターンを変えられるためジャストミートできない。また、西田はパンチの打ち終わりがきめ細やかで、退いたり頭の位置をずらしたりするため、ヒットを奪えない。決してバランスも乱れないから、ペレシオはパンチをかすめることはできても、まともに浴びせたブローは皆無に等しかった。
中盤以降はロープを背負わせて強烈に攻めたが、セコンドに制された 中盤を過ぎて、大劣勢を悟っていたペレシオは、時折大胆な飛び込みを見せたが、西田はそこへ左カウンターをヒット。ラウンドが終わるごとに、ペレシオは首を傾げてコーナーに戻るばかり。まったく打つ手なしの状態が最後まで続いた。
傷ひとつなく試合を終えた西田 西田の攻撃は右ジャブと左ストレート。打ったらバックステップや頭をずらすなどして動く。ボクシングの基本中の基本だが、これがなかなか難しく、誰もが四苦八苦するもの。けれども彼はそれらを磨き、レベルアップさせ、細かいフェイントを積み重ねて肉付けしていく。派手な動きはまったくなくともこれだけのことができる。そういういつもながらのお手本のようなボクシングだったが、「いつもより余裕があったから、(相手が)よく見えた」と西田は、調整不足ながら進化した姿を披露したのだった。
西田の戦績は6戦6勝(1KO)。ペレシオは13戦11勝(6KO)2敗となった。
☆その他の試合結果☆
右ストレートボディをカウンタ―する山﨑起き上がれないアディレークを心配そうに見つめる山﨑フェザー級8回戦○山﨑海斗(24歳=六島)日本フェザー級19位
●アディレーク・ミーシーダー(25歳=タイ)
KO1回1分14秒
右ストレートボディをいきなり決めた山﨑は、右カウンターも決めてアディレークをたじろがせると、ふたたびいきなりの右をヒット。これでよろめいたアディレークに左ボディブローも混ぜた左右の連打を追加。アディレークはドッとキャンバスに沈むと、苦悶の表情を浮かべながらテンカウントを聞いた。
「今後はもっと技術を上げていって、倒すチャンスが来たら倒せるボクサーになりたい。強い選手と戦っていきたい」(山﨑)
大阪商業大時代、主将を務めていた山﨑の戦績は4戦4勝(2KO)。アディレークは3戦2勝(2KO)1敗。
右を強振して攻める井上
ストレートとフック。左ボディブローでピヤを弱らせたフライ級6回戦○井上彪(いのうえ・たける、24歳=六島)
●ピヤ・チャイチョート(18歳=タイ)
TKO6回2分26秒
日章学園高時代に全国大会2冠。近畿大でも活躍した後に、大阪府警に勤務していた井上のプロデビュー戦。打ち終わりに果敢に右、左フックを合わせてきたピヤに、ヒヤヒヤさせられるシーンもあったが、右から左ボディブローにつなぎ始めてからは、はっきりと優位に立つことができた。最終回、ボディ連打を受けて手が出なくなったピヤを見て、レフェリーが試合を止めた。
「どういう選手かわからなかったので、手を合わせてみて探ろうと思った。タフでパンチがある選手でした」と井上。初戦から長いラウンドを戦えたのはいい経験になるはずだ。
井上の攻撃に、まったく怯むことなく戦い続けたピヤの戦績は2戦1勝(1KO)1敗。