ヒッティングによる右目上のカット、鼻血……。人生初(…というのも驚きだが)のハンディを、あの大舞台で乗り越え、WBSS(ワールドボクシング・スーパーシリーズ)優勝を果たした井上尚弥(大橋)。その“傷”を最小限で食い止め続け、縁の下で支え続けたひとりが、佐久間史朗トレーナー(48歳)だ。かつては星野敬太郎をWBA世界ミニマム級チャンピオンへ、そして引退するまで伴走。現在は、井上浩樹(日本スーパーライト級チャンピオン)、ホープの桑原拓らを指導するトレーナーだが、今回のように、止血をするカットマン、バンデージ巻き、果ては荷物運びなど、マルチに働く名バイプレーヤー。くだんのノニト・ドネア(フィリピン)戦については、『ボクシング・マガジン』の12月発売号で取り上げる予定だが、ここでは2016年12月30日、有明コロシアムで奔走した佐久間トレーナーを書いたコラム(※2017年1月19日、ボクシング・マガジンFacebook初出)を再度紹介したい。また、本誌2019年7月号の「それぞれの“グラスゴー決戦” 井上尚弥を支えた人たちが感じたこと」もぜひ読み返していただきたい。
上写真=わずか1分という限られた時間で処置をする。「あと少しで骨が見える状態。そうなっていたら、試合を止められた可能性も……」と井上尚弥。その後の被弾を最小限で食い止めた本人も凄いが、傷の処置をした佐久間トレーナーの貢献度も計り知れない 写真/山口裕朗
1ラウンド3分(女子は2分)、インターバル1分。これはプロボクシングの世界共通ルールで、ファンなら誰もが知っている当たり前のこと。で、観戦者の目は当然、戦っているボクサーに行ってしまうのだが、「試合」という括りでいけば、「インターバル」も試合の範疇のことだし、「セコンド」もボクサー同様に戦っているということになる。
試合中のセコンドの声は多種多様。“名匠”のひとり、田中栄民トレーナー(※『ボクシング・マガジン2017年2月号』87ページ「丸山幸一のヒッティングポイント参照)は、ラウンド中にはまったく声を発さず、インターバルでもポイントを1点に絞って、ひと言ボソッと伝えるだけ。かと思えば、ず~~~っとダメ出しをしている人や、「行け行け!」と応援団化してしまっている人もいたり。
海外のトップ選手の名前を暗号として使用しているジムもチラホラ。かつては「チャベス!」、「レナード!」、「タイソン!」なんてのが流行だったが、今では「ロマチェンコ!」、「パッキャオ!」、「ドネア!」なんていうのがよく聞かれる。ここにも時代の流れを感じさせられて、物思いに耽ってしまうこともある。
また、アルファベットと数字を組み合わせた暗号を使用しているジムもある。これはこれで面白いのだが、「自分だったら覚えきれるか不安……」なんて、妙に緊張してしまったりもする(笑)。でも、この暗号を自分なりに解読しようと試みるのも、ボクシング観戦のひとつの楽しみ。たとえば、「パッキャオ!」だったら、「左回りからの左ストレートだな」とか、「B2!」だったら、「右ダブルだな」とか。。。正解かどうか定かではないが、「考える」、「楽しむ」のが大切なのだ。
共に戦ってきたからこそ、勝利したときの喜びは格別なのである Photo/Getty Images
セコンドの指示は、相手の選手にもよく聞こえているようだ。だから、「ボディ!」なんて指示が飛ぶと、相手が反応してボディブローを打って、またそれが効いてしまうなんて面白いことも稀に起きる。かと思えば、とある策士のトレーナーは、「相手に聞こえることを見越して、試合前に選手と打ち合わせておいて、『ボディ!』と言ったら、違うのを打たせたりする」ということも……。
いずれにしても、選手個人個人の特性、性格をいちばんよく知っているのはセコンド。だから、一概にどれが正しくて、どれが間違っているかなんて、おいそれとは言えない。でも、指示系統がハチャメチャなのだけは、よろしくない。セコンドの3人はおろか、ジムメイトまで含めて指示がバラバラでは、「ただの自己満足」と言われても仕方がない。会長の指示を全員で統一するのか、それともチーフトレーナーのアドバイスを徹底させるのか。いずれにしても、「指示を一本化する」ことこそが必須となる。
2016年12月30日、有明コロシアム。メインイベントは井上尚弥vs.河野公平(ワタナベ)のWBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ、そしてセミファイナルは八重樫東vs.サマートレック・ゴーキャットジム(タイ)のIBF世界ライトフライ級タイトルマッチ。予備カードも無事に終え、ホッと一息、すっかり脱力していたのが大橋ジムの佐久間史朗トレーナーだ。村田諒太(帝拳)の試合を除く、7試合中6試合でセコンドに就き、さらに4試合でチーフを務めた“凄腕”である。これには裏事情があった。
佐久間さんは現在、井上浩樹、そしてこのホープ、桑原らを“熱血”指導している 写真/本間 暁
1試合目の原隆二は、佐久間さんが指導している選手だが、2試合目の井上浩樹、3試合目の松本亮、4試合目の清水聡はいずれも松本好二トレーナーが抱える選手。さらに、その後の村田を挟んで再び松本さん指導の八重樫東が登場となると、松本さんは自分の選手たちのバンデージを巻き、相手方のバンデージチェックをしに行き、各選手のアップに付き合い……と、てんてこ舞い。だから当然、ずっと各選手のセコンドに付いているわけにはいかない──というわけで、「あれ? 松本さん、ずいぶん恰幅が良くなったなぁ」なんて、どこかのインターバル中に気づいたファンもいたでしょう。そう、佐久間トレーナーが、1ラウンド、もしくは2ラウンド後のインターバルから浩樹、松本、清水の“チーフ”になり代わっていたのである。
「持ち場を離れるというのは、選手にも佐久間にも申し訳ないんですが……」と、責任感の塊の松本さんは心を痛めていた。そして責任重大の佐久間さんは、持ち前の気合で乗り切った。スター選手を総登場させられるジムならではの悩みであり、事前の綿密な段取り、準備、そしてこれまでの経験がなければ、到底かなわないこと。そして一番大事なのは、日ごろからの意思疎通。会長、トレーナー同士、そして、担当以外の選手とのもの。大橋秀行会長、松本トレーナーが技術的な部分を占めれば、佐久間トレーナーは精神的支柱として、選手たちの信頼が厚い人。それぞれの役割分担が普段からできているからこそ、本番でもそれを発揮することができるというわけ。
全試合を終え、ようやく緊張感から解き放たれた佐久間さん。「隆二が……」と、ようやく原のボクシングについて振り返ることができた。納得のいくボクシングではない、ということで苦言を聞くことになったが、でも、佐久間さんの表情は実に穏やかだった。
大橋ジムはこの日、7戦7勝6KO。この快勝劇の陰には、こんな裏方さんの奔走劇があったのだ。
文_本間 暁
“気合”の男、佐久間さん。だが、厳しくも優しい、実に繊細な人で、取材者もいつも頼ってしまう“アニキ”なのである 写真/本間 暁
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