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2022-12-08

【アメフト】ドラマ再び 富士フイルムQB鈴木、試合残り10秒で逆転TDパス決めた

【富士フイルム vs サイクロンズ】試合残り10秒で逆転TDパスを決め、勝利の雄たけびを上げる富士フイルムのQB鈴木=撮影:小座野容斉

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世界最高峰のNFLであろうと、日本のXリーグあろうと、アメリカンフットボールのQBにとっての最高の見せ場は、第4クオーター(4Q)の逆転ドライブだ。それも、試合残り時間1分未満から、パスでタッチダウン(TD)を奪って逆転。QBならだれもが夢想するドライブを、1人のQBが、この1カ月で2度もやってのけた。X1エリア、富士フイルムミネルヴァAFCのQB鈴木貴史だ。

富士フイルム ミネルヴァ 24-21 名古屋サイクロンズ
(2022年11月26日、マルヤス岡崎龍北スタジアム)
【富士フイルム vs サイクロンズ】4点をリードされた試合最終盤、QB鈴木のパスをキャッチしたWR安達が逆転のTD=撮影:小座野容斉


  ドラマは再び起きた。10月30日のアズワン戦、残り18秒で劇的な逆転TDパスを決めて勝利した富士フイルムのQB鈴木が、今回も主役となった。

 この日の富士フイルムは、4Q途中まではディフェンスが支えていた。オフェンスとキッキングのミスで、2TDを奪われ、3-14とリードされていた2Q最終盤、DE武田敬峰がQBサック、ファンブルフォースからのターンオーバー。3Q、DB茂木雅人が絶好のポジションでのインターセプト。ディフェンスの2つのビッグプレーを、いずれもTDに結びつけて、富士フイルムがいったんは逆転した。

 そのディフェンスが、最終盤で失速した。サイクロンズオフェンスを後半3回で計50ヤードと押さえていたが、 この試合で勝たないと入れ替え戦出場となるサイクロンズは、4Q残り4分から執念のドライブを見せた。

 4thダウン10ヤードのギャンブルでは、QB神谷壮哉に17ヤードのパスを決められた。そして試合時間残り48秒で逆転のTDを許した。

【富士フイルム vs サイクロンズ】富士フイルムは試合残り48秒でいったんは逆転された=撮影:小座野容斉

「焦る気持ちは全くなかった」

 17-21。

 勝つためにはTDが必要な4点のビハインド。しかし、富士フイルムのサイドラインは、落ち着いていた。4週間前に、残り1分36秒から、7点差を逆転した自信が大きかった。

 QB鈴木「絶対に、TDまで持って行こうと思っていた。全員が『勝てる。逆転できる』と信じていた」

 鈴木はリズムよく、クイックに、パスをヒットしていった。WR安達絹心、桑原司、TE森章光へ3本のパスを成功させ、30ヤードをゲインした。

 「時間がないからと、ヘイルメアリーのようなパスを投げるのではなく、確実にボールを落として、得点圏までボールを進めようと思っていた。焦る気持ちは全くなかった」

 1stダウン、試合残り20秒。パスは4回程度は投げられる時間だったが、レッドゾーンに入るとディフェンスの密度も上がって決めにくくなる。ゴールまで32ヤードの、このポジションが狙い目だった。

 QB鈴木のパスはコーナーポスト。左に固めた3人のレシーバーのうち、大外のWR別府紘行がサイクロンズのパスカバーをタテに引っ張り、2枚目のWR安達が、DBの裏、絶妙の位置に走り込んだ。

 「最後のパスは、練習で何度もやってきた。向こうのディフェンスに対して、こちらのオフェンスのコールがちょうどはまってくれた」


 完璧なコントロールとタイミングで鈴木のパスが決まった。捕った地点はゴールまで10ヤードほど残っていたが、安達はタックルを1人かわして、2人引きずってエンドゾーンに飛び込んだ。

 「僕は、自分が走って何とかできるQBではない。レシーバー、RB、OLを信頼して、ボールを託すことしかできない。その信頼が、逆転のスコアにつながったと思っている」

 残り時間は10秒。サイクロンズにはもう跳ね返す力はなかった。
【富士フイルム vs サイクロンズ】4点をリードされた試合最終盤、QB鈴木のパスをキャッチしたWR安達が逆転のTD=撮影:小座野容斉

負傷を機にパサーとして一段と成長

 鈴木は、法政大学の出身。1年生から出場し、3年時には16TDパスを決めるなど、4年間通算34TD。秋季リーグ戦だけの数字としては、元オービックの菅原俊・現法大コーチと並んで法大史上最多タイというQBだった。

 ただ、彼がXリーグ入りした2017年は、どのチームも米国人QBがエースという状況だった。鈴木は2年間、アサヒビール シルバースターでプレーしたあと、ミネルヴァAFC(当時は富士ゼロックス)に移籍。初戦で、古巣のシルバースター相手に金星を挙げるなど、チームの中心となってきた。

 ランの能力も優れていた鈴木だが、2年前に左ひざに重傷を負って以来、ランの比重を落とし、パスに一段と磨きをかけてきた。
 
 鈴木の今季パス成績は7試合で1140ヤード、10TD・4INT。電通の米国人QBアーロン・エリスに数字では劣ったが、中味は濃かった。

 パサーとして、ゲームマネージャーとして、今季一段の成長を遂げたのは間違いなかった。そして、富士フイルムも昨シーズンの1勝5敗から、5勝2敗の単独3位と大きくステップアップした。

【富士フイルム vs サイクロンズ】4点をリードされた試合最終盤、逆転TDパスを決める富士フイルムのQB鈴木=撮影:小座野容斉
 「来シーズン、もう目標は一つしかない。全部勝ってX1スーパーに上がる。今季は、今日のように、最後に噛みあってギリギリで逆転とか、なんとか勝てた試合が多かった。圧倒的な力があるわけではなく、来年もどうなるかわからない。気を引き締めてしっかりやっていきたい」

 そう語る鈴木の眼は、もう来季を見ていた。

【富士フイルム vs サイクロンズ】2Q最終盤、DE武田敬峰がQBサック、ファンブルフォースからのターンオーバー=撮影:小座野容斉

【富士フイルム vs サイクロンズ】3Q、DB茂木雅人が絶好のポジションでのインターセプト=撮影:小座野容斉

【富士フイルム vs サイクロンズ】3Q、4thダウンギャンブルで、力強い走りでファーストダウンを奪った富士フイルムRB井岡=撮影:小座野容斉

【富士フイルム vs サイクロンズ】今季最終戦で劇的な逆転勝利。5勝2敗としたチームを拳を振り上げて称える朝倉HC=撮影:小座野容斉

【小座野容斉】

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