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2019-04-09

【ボクシング】 八重樫東、8ヵ月ぶりのリングは鮮やか2回TKO 「最後の花道を盛大に。それができることを信じて歩むのみ」

8日、東京・後楽園ホールのリングで、昨年8月以来の試合となるスーパーフライ級10回戦に臨んだ元3階級制覇王者・八重樫東(36歳=大橋)は、タイ・スーパーフライ級8位のサハパープ・プンオップ(23歳)を2回に3度倒して2分25秒TKO勝ち。「4階級制覇というのも大きな目標だけど、燃えるような相手との試合をしたい」と、想いを語った。

上写真=2回に3度倒した八重樫は、物足りなそうな表情。しかし、すべて異なるパターンでダウンを奪ったのは見事だった

 いまやWBC王者に君臨し、あのローマン・ゴンサレス(ニカラグア)を2度倒しているシーサケット・ソールンビサイ(タイ)は、八重樫が2009年3月に3回TKOで下しているという因縁がある。そこにこだわるシーサケット陣営から「去年の10月にタイ、今年の3月に東京、4月にロサンゼルスで」(大橋秀行会長)と八重樫に挑戦の打診は再三再四来ていたという。八重樫もすっかり挑戦モードとなり、昨年1年は対サウスポー仕様のトレーニングに終始した。8月に向井寛史(六島)と対戦したのも、“仮想シーサケット”の意味合いがあったから。

 しかし、WBCからの指名試合指令がシーサケットに下され、この話は流れることになってしまった。

「オーソドックス用に修正するのに苦労した」と八重樫は言うが、いちばんの懸念は、シーサケット・モードの思考を変えることだったはずだ。
 今回の相手は完全に格下。そういう相手に対し、知らぬ間に気を緩めてしまうことがいちばん怖いもの。頭では把握していても、無意識に……ということも往々にしてある。だから、思わぬ拙戦や、まさかの敗戦という事態も起こりやすくなるのだ。

「左ジャブでボディを打てたのは収穫」と八重樫

 しかし、八重樫は自分本位のボクシングを繰り広げた。フリッカージャブを突き上げ、左をストレートのようにボディに突き刺す。ステップでリズムを整え、攻防に生命を吹き込む。これが八重樫のボクシングを評価する上でのバロメーターだ。
「出入りを意識した」というとおり、打っていくバランス、打ち終わりのバランス、いずれもがしっかりしており、反応もいい。下から上、上から下と攻めていく速射連打が次々に繰り出されていくのも、下半身のリズムによるものだ。

 フットワークにリズムがあれば、上体も連動する。腕でリズムを取る動作は、自然とフェイントにもなり、相手を確実に捉えることができる。スピード感も格段に増す。

 2回、連打を打ってプンオップを下がらせると、追撃の右ストレートをジャストミートして倒す。立ち上がった相手を左ボディから右アッパーでふたたび倒し、最後は左ボディから左アッパーで沈めた。ボディが効いての終幕だったが、倒すコンビネーションがそれぞれ違うことに価値がある。

「もっと試したいことがあった」と、早すぎる試合に苦笑した八重樫だが、短い中にも攻防に丁寧さとシャープさが見えたことが大きい。

「もちろん、4階級制覇という大きな目標を掲げているけれど、もっと大事にしたいのは、戦いたいと思う相手と戦うこと。僕は記録の人間ではなく、良く言えば記憶の人間。そういう相手と戦えば、みなさんの記憶にも残るいい試合をできるかもしれないし、僕も燃えるような思いになれば、ボクサーとしてこんなに幸せなことはない」

「会長とやってきたからこそ、いまの自分がある。だから、最後まで会長に付き合ってほしい。最後の花道を盛大につくっていただけると信じて……」。大橋会長、八重樫ともに大勝負を決して辞さない生粋の勝負師だ

「今日勝ったことで、まだまだボクサー生活を続けられる。それはすごく幸せなこと」と、心底嬉しそうに表情を緩めた。

 八重樫東、36歳。その幸せをかみしめながら、またこだわりのトレーニングに没頭する日々が続いてゆく。

文_本間 暁 写真_小河原友信
Text by Akira Homma
Photos by Tomonobu Ogawara

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