close

2019-03-30

【海外ボクシング】ウィークエンド・プレビュー 木村翔が上海で再起戦。小原佳太もアメリカ登場

木村翔が昨年9月、熱戦の末に田中恒成(畑中)に敗れWBO世界フライ級王座を失って以来のカムバック戦に臨む。中国での試合になるが、木村にとってこの国は敵地ではない。2017年、攻めに攻めて、五輪連覇のゾウ・シミンをTKOに打ち取って以来、中国の拳闘王は、この木村が取って代わっている。その人気は絶大。このイベントも日本を中心にした外国人軍対中国軍の対抗戦の色合いが強いが、木村はしっかりと中国側だ。

写真上=きょう上海で再起戦を行う木村翔
BBM

3月30日/普陀体育館=プートウ・スタジアム(中国・上海)

★フライ級10回戦
木村翔(青木)対ウィチャー・プライカオ(タイ)

木村:30歳/21戦17勝(10KO)2敗2分
ウィチャー:37歳/72戦60勝(24KO)10敗2分

 木村の相手はベテランのプライカオ。ピグミー・ゴーキャットジムというリングネームのほうがなじみ深い。もともとはミニマム級で世界に2度挑戦した経験も持つが、これが1年ぶりのリングとあって、木村との戦力差はとうてい埋めがたい。しかも、前日計量で1.2kgオーバー。試合当日の増量次第では試合実現も危ぶまれる。

 あまりに小柄な相手だけにかえってやりにくい面もあるのだろうが、木村はこの仕事、さっさと片づけなければならない。

◆今野裕介ら日本勢も続々と登場

今野裕介
BBM

山内涼太
BBM

 この日は日本選手も多数出場する。スーパーライト級では日本2位の今野裕介(角海老宝石/34歳/14勝7KO4敗)がバイシャンボ・ナスイウラ(中国/24歳/15勝6KO2敗1分)と。また、フライ級の山内涼太(角海老宝石/24歳/4戦4勝4KO)がウラン・トロハツ(中国/26歳/10勝5KO3敗1分)と、中国西域ウルムチ出身のボクサーと対戦。とくにナスイウラは日本で内藤律樹(E&Jカシアス)に1-2の判定で惜敗した後、アメリカのリングにも挑戦した難敵。スタイリッシュなボクサーパンチャーだ。今野としてはかき回していきたい。

 さらに2年半ぶりの試合になる前川龍斗(K&W/23歳/11勝7KO1敗1分=フライ級)、宇津木秀(ワタナベ/24歳/4戦4勝3KO=スーパーフェザー級)、五十嵐康次(UNITED/34歳/4勝3KO3敗=スーパーライト級)、安井誉(森岡/19歳/3勝3KO1敗=ウェルター級)らも出場する。対戦相手の実績を考えるなら、この4人とも勝利を収めることも十分に考えられる。

3月30日/2300アリーナ(アメリカ・ペンシルベニア州フィラデルフィア)

★ウェルター級12回戦
クドラティロ・アブドカハロフ(ウズベキスタン)対小原佳太(三迫)
※ESPNで全米中継

アブドカバロフ:25歳/15戦15勝(9KO)
小原:32歳/24戦20勝(18KO)3敗1分

小原佳太
BBM

 IBF世界ウェルター級挑戦者決定戦となる12回戦は、もちろん小原にとってきわめて大事な戦いになる。このクラスのIBFチャンピオンはあのエロール・スペンス・ジュニアだ。マイキー・ガルシアに勝ち、すでにビッグマッチ路線に入っているスペンスだけに、小原が挑戦権を奪っても、すぐにチャンスがめぐってくるかどうかは分からないが、人気選手の結集するウェルター級に一定以上の存在感は示せるはずだ。

 ただ、今度の相手はきわめて危険。アブドカハロフは地元でプロ入り後、マレーシア、シンガポールをサーキットして強味を見せつけた。巧技のチャールズ・マニュチ(ザンビア)を初回TKO、やはり技が売りのドミトリー・ミハイレンコ(ロシア)を大差判定で下した。10ヵ月ぶりとなるこの試合がアメリカ・デビュー戦となる。11歳で初めてアマチュアのリングに立ち、ナショナルタイトルを4度獲得したほか、多くの国際大会に優勝。170勝(80KO)10敗のレコードを残した。攻撃的かつ技巧的。ややパワー面に物足りなさもあるが、その期待度の大きさは老舗専門誌『The Ring』の『NEW FACE』コーナーで採り上げられたことでもうかがい知れる。

 小原としては、どうあってもアブドカハロフのチャージに直面したくない。きちんと距離を取り、管理しきってペースを守りたい。中間距離から内側に戦地の中心が置かれるようなら、ちょっと苦しくなる。むろん、タイミングをはかった小原のカウンターがヒットしやすくなるのも事実だが……。

★WBC世界ライトヘビー級タイトルマッチ12回戦
オレクサンダー・グボジアク(ウクライナ)対ドゥドゥ・ヌガンブ(コンゴ/フランス)

グボジアク:31歳/16戦16勝(13KO)
ヌガンブ:37歳/38勝(14KO)8敗

オレクサンダー・グボジアク
Getty Images

 昨年、敵地カナダでアドニス・スティーブンソンを痛烈なKOで破ったグボジアクの初防衛戦になる。

 グボジアクは五輪銅メダリストらしく、堅調なテクニック、そして右ストレートを中心に重いパンチを持つ。やや堅さもあるが、かなりのハイレベルと評価していい人材だ。王座復活のセルゲイ・コバレフに豪打ナンバーワンのアルトゥール・ベテルビエフ、ドミトリー・ビボルのロシア勢に新星マーカス・ブラウン(アメリカ)、さらにはスーパーミドル級から上がってきたヒルベルト・ラミレス(メキシコ)と魅惑の強豪で密集しつつあるライトヘビー級でも、グボジアクはいずれビッグファイトに絡んでいきそう。

 ヌガンブはフランスをベースにする大ベテラン。戦力、実績とも強烈にアピールするものはない。グボジアクの豪快KOに期待したところ。

◆ニュー・レイ・ロビンソンに地元ファンは注目か

レイ・ロビンソン
Getty Images

 上記のメインイベント、セミファイナルはフィラデルフィアにとってはお客さんばかり。以前は倉庫だった建物を改装し、今ではアメリカ東部有数の格闘技のメッカとなった2300アリーナで、地元のファンの声援がもっとも飛ぶのはレイ・ロビンソン(アメリカ/33歳/24勝12KO3敗)かもしれない。20世紀のあまりに偉大なウェルター、ミドル級王者と同姓同名だが、縁もゆかりもない。これが本名なのだが、わざわざ『ザ・ニュー・レイ・ロビンソン』と名乗っている。アマチュア時代はナショナルチームに選抜されたエリートも、プロ入り後は線の細さを払拭しきれず、なかなか芽が出なかった。2011年から時間をかけて13連勝をマークしたが、それも前戦でストップした。対戦するのは21連勝17KOのパワーパンチャー、エギディウス・カバラウスカス(リトアニア/30歳)。ロビンソンにとっては厳しいマッチメイクだが、生き残るには勝つしかない。徹底的に距離を取られるとやや単調さも目立つカバラウスカスだけに、辛抱強く戦えばノーチャンスとは言えない。

 ほかにも注目選手が多数出場するが、そのなかからとくにピックアップしたいのは、ミドル級6回戦に出場するクリスティアン・ムビリ(フランス/23歳/13戦13勝13KO)。カメルーン生まれながら、フランス代表としてリオ五輪に出場し、ベスト8に勝ち残った。プロ入りはカナダの地。その後フランスに舞い戻り、今回初めてアメリカのリングに立つ。持ち味は一にも二にもパワフルなアタック。174cmとこのクラスとしては小柄ながら、際だった馬力を見せる。経験豊富なメキシカン、ウンベルト・ギテレス・オチョア(30歳/33勝22KO7敗2分)相手にその強打のほどが試される。

まだまだあるぞ!注目カード
ガルシア、アコスタ、ロペス…

◆ハンサムパンチャー、ライアン・ガルシア

ライアン・ガルシア
Getty Images

 今週、日本のDAZNでも中継されるライト級のニュースター、ライアン・ガルシア(アメリカ/20歳/17戦17勝14KO)に注目。30日、アメリカ・カリフォルニア州インディオのファンタジースプリングス・カジノでプエルトリコのホセ・ロペス(25歳/20勝14KO3敗1分)と対戦する。

 超高速連打に切れ味鋭いパンチ、さらに童顔美形のガルシアは、一般人気もかなりのもの。まだ現役ばりばりのトップとは戦っていないが、そのすぐ下の分厚い中堅層と戦い続けてキャリアを積んでいる。ジェイソン・ベレス(プエルトリコ)やブラウリオ・ロドリゲス(ドミニカ共和国)を破った星は評価されてしかるべし。ここにきてやや伸び悩むロドリゲスには圧倒して勝ちたい。

 インディオでのトップカードはWBO世界ライトフライ級タイトルマッチ。チャンピオンはアンヘル・アコスタ(プエルトリコ/28歳/19勝19KO1敗)、挑戦者はガニガン・ロペス(メキシコ/37歳/35勝19KO8敗)。ともに日本にはなじみの選手。サウスポーのロペスの粘りは捨てがたいが、世界戦連続KO防衛のアコスタ相手ではいかにも厳しいか。アコスタが唯一倒せず、完敗を喫したのは田中恒成。田中の強さをこの試合をとおしてあらためて実感したい。

 さらに期待はメキシコで脚光を浴びるスーパーフェザー級のハードヒッター、エデュアルド・エルナンデス(21歳/27戦27勝24KO)のアメリカ初登場だ。ここまで5ラウンド以上戦ったのは6回判定勝利の2度のみ。残りはすべて試合序盤で対戦者をKOパンチの餌食にしている。無名のタンザニア人、イブライム・ムゲンデル(28歳/22勝17KO5敗)相手の戦いで、強打の本領はどこまで示されるか。

 不敗のジョエト・ゴンサレス(アメリカ/25歳/21戦21勝12KO)、世界初挑戦で敗れてからのカムバック戦になるアントニオ・オロスコ(メキシコ/31歳/27勝17KO1敗)、ヨーロッパのジュニアチャンピオンからプロ入りしたアーロン・マッケーナ(アイルランド/19歳/6戦6勝4KO)と、機会があるなら見てほしい選手はまだまだ登場する。

◆DAZNは大忙し。イギリスからも中継

 エディ・ハーンは毎週のようにカードを提供している。また、一度の敗戦で見限るわけではなく、セカンドウィンドをつかむチャンスもどんどん与え続ける。30日、リバプールのエコーアリーナからDAZNで現地に配信されるこのカードもそんなひとつ。

リアム・スミス
Getty Images

 目玉はリアム・スミス(イギリス/30歳/26勝14KO2敗1分)とサム・エジントン(イギリス/25歳/24勝15KO5敗)の一戦。元WBO世界スーパーウェルター級チャンピオンのスミスが、かつてホープのひとりに数えられたエジントンと戦う。

 スミスはカネロ・アルバレス(メキシコ)のボディブローに沈み、ハイメ・ムンギア(メキシコ)にも大差判定負けながら、まだまだ諦めるつもりはない。弟のカラム・スミスがWBSSのスーパーミドル級で優勝を飾り、いよいよ張り切っていることだろう。

 ロビー・デービス・ジュニア(イギリス/29歳/17勝12KO1敗)はミハル・シロワトカ(ポーランド)とダウン応酬の末に最終12回逆転TKO負け。再戦では3度のダウンを奪って面目を保った。ヨーロッパとイギリスのスーパーライト級タイトルをかけてジョー・ヒューズ(イギリス/28歳/17勝7KO3敗1分)との対戦になるが、一度は立ち止まったデービスが再び一歩を踏み出せるか。

 ライバルのオハラ・デービス(イギリス)にTKO負けしているトム・ファーレル(イギリス/29歳/16勝5KO1敗)は、その後に3連勝して復調の兆しが見える。そして、この日は英連邦スーパーライト級チャンピン、フィリップ・ボーエンス(イギリス/34歳/19勝3KO3敗)に挑む。このふたつのカードは、デービス対ファーレルのライバル戦実現へと機運を高めたい意図も感じる。

デビッド・プライス
Getty Images

ポール・バトラー
Getty Images

 トップレベルに何度負けても人気が衰えないのがデビッド・プライス(イギリス35歳//23勝19KO6敗)だ。今回は若いカシ・アリ(イギリス/27歳/15戦全勝7KO)が相手となる。また、元IBF世界バンタム級チャンピオンのポール・バトラー(イギリス/30歳/27勝14KO2敗)も6回戦で調整試合。 もうひとり、2012年女子世界選手権ライトウェルター級銅メダリストのナターシャ・ジョーンズ(イギリス/34歳/6勝5KO1敗)も出場する。勇躍、プロ入りして連勝を重ねたが、昨年8月の前戦で、格下と思われたビビアン・アベナーフ(ブラジル)に3度のダウンを奪われて無念のTKO負け。仕切り直しの戦いは、内容面も問われる。

アンソニー・フォーラー
Getty Images

 この夜、ただひとつの不敗ライバル対決はスーパーウェルター級10回戦のアンソニー・フォーラー(イギリス/28歳/9戦9勝8KO)とスコット・フィッツジェラルド(イギリス/27歳/12戦12勝9KO)だ。ともに2014年の英連邦大会の金メダリスト。先に階段を登るためにともに負けられない戦いになる。

◆女子スター、ベルムデスに大きなチャンスはくるのか

 WBO世界バンタム級チャンピオンのダニエラ・ロミーナ・ベルムデス(アルゼンチン/29歳/24勝KO3敗3分)はアルゼンチンのトレスアローヨスにあるクラブウラカンでイルマ・サンチェス(メキシコ/19勝3KO3敗1分)と2度目の防衛戦を行う。

 安定感抜群のボクシングで数限りなく世界タイトルをかき集めるベルムデスに対し、ガルシアはメキシコのトップスター、マリアナ・フアレスとクロスファイトを演じた実力派。試合への興味もなかなかだが、この試合のプロモーションに注目。アルゼンチンのオスバルド・リベロ率いるORと、メキシコのフェルナンド・ベルトランのサンフェルの共同開催になる。女子ボクシングが活気づいている昨今だ。勝ったほうを大々的に売り出すねらいがあるのだろう。

◆ジェイソン・マロニーが再起戦

ジェイソン・マロニー
Getty Images

 昨年10月、WBSSバンタム級トーナメント初戦で健闘及ばずエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)に敗れたジェイソン・マロニー(オーストラリア/28歳/17勝14KO1敗)が、早くもリングに復帰する。30日、オーストラリア・ニューサウスウェールズのツィードヘッズでクリス・パウリノ(フィリピン/26歳/19勝8KO3敗)と戦う。パウリノは2015年、日本で江藤光喜(白井・具志堅スポーツ)に、次戦で古豪ビック・ダルチニャン(オーストラリア)にと連続ストップ負けしてしばらく休んでいたが、再起してからは5連勝と波に乗る。ただ、やや体力的に心細い一面もあり、後半にぐんぐんと調子を上げてくるマロニー優位は動かない。

◆マルロ・デルガドはエクアドルのヒーローとなれるか

 30日、エクアドル・キトでスーパーミドル級のマルロ・デルガドがいきなり8回戦デビューする。ロンドン五輪代表となったデルガドは25歳。南米を代表するアマチュアボクサーで、AIBAプロで長丁場のラウンドも経験している。満を持してのプロ入りだが、オルランド・バスケス(メキシコ/30歳/10勝8KO4敗)は初戦の相手としては楽ではない。早い時期に大きな勝負をもくろんでいるのだろうか。

 エクアドルには昔から能力が高いボクサーが多く出現しているが、どうしても”世界”の高いハードルを乗り越えられず、中堅ヒーローで終わってしまうケースがほとんど。デルガドがその壁を乗り越えてほしいもの。

◆ファルカン、コンセイサンがブラジル凱旋

エスキバ・ファルカン
Getty Images

 ブラジルのオリンピック・ヒーローで、いずれもアメリカを主戦場とするミドル級のエスキバ・ファルカン(29歳/22戦22勝15KO)とスーパーフェザー級のホブソン・コンセイサン(30歳/11戦11勝5KO)が31日、リオデジャネイロで凱旋ファイトを行う。ともにプロになって初めての帰郷ファイトになる。

 村田諒太(帝拳)とロンドン五輪決勝を争ったファルカンはこれまでのところ二線級以上との対戦はない。ときとしてまどろっこしい戦いになるなど、不安定感がミドル級という人気クラスとして物足りない。ここらで大胆な攻撃力も見せてほしいもの。対する35歳のアルゼンチン人、ホルヘ・ダニエル・ミランダ(56勝22KO17敗1NC)は2年ぶりの試合。ファルカンには楽すぎる相手かもしれない。

 リオ五輪のライト級チャンピオン、コンセイサンは奇抜な距離感覚、タイミングで一部からの評価はすでに高い。問題は決定力か。ここ3試合は連続して判定勝負になっている。こちらの相手も33歳のアルゼンチン人、セルヒオ・アリエル・エストレラ(20勝11KO16敗3分)。ここ5戦で1勝しか上げていない。ファルカン、コンセイサンともにただの顔見せファイトになるのかも。

 この日はもうひとりオリンピック・メダリストが6回戦に出場する。女子選手のアドリアーナ・ドスサントス・アラウヨ(ブラジル/37歳/2戦2勝)。ロンドン、リオと五輪に連続出場し、ロンドンではライト級銅メダルにも輝いた。2017年にプロ入りしたが、これが1年半ぶりの試合。この3人のそろい踏み。やはり記念興行と言うことになるのだろうか。

文◎宮崎正博

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事