写真上=記者会見で舌戦を繰り広げるデゲール(左)とユーバンク
Getty Images
★スーパーミドル級12回戦
ジェームス・デゲール(イギリス)対クリス・ユーバンク・ジュニア(イギリス)
デゲール:33歳/28戦25勝(15KO)2敗1分
ユーバンク:29歳/29戦27勝(21KO)2敗
この試合にはメジャー4団体を密かに追うIBOの世界タイトルがかけられるが、そういう肩書きはさしたる問題ではない。人気者ジョージ・グローブスの突然の引退、ロッキー・フィールディングがカネロに惨敗しても、それでも層の厚いイギリスのスーパーミドル級だ。この両者にとってはライバルをかき分けて、WBSSチャンピオンのカラム・スミスとの頂上決戦に駒を進めたいのが本音だろう。
デゲール、ユーバンクとも実はあとがない。ソウル五輪ミドル級金メダリストで元IBF王者のデゲールは左右両スタイルを使い分ける変則派で、意外性と切れ味を身上としてきた。ただ、このところはもうひとつ元気がない。ライバルのバドゥ・ジャック(スウェーデン)には最終回にダウンを食って追いつかれて引き分け。さらに中堅どころのカレブ・トルアックス(アメリカ)に敗れてIBF王座を失う。再戦で王座を取り戻したが、「もっと自由に対戦相手を選びたい」と指名防衛戦の縛りがきついIBF王座を放棄した。
一方のユーバンクは同名のスターボクサーだった父が築いた財産とテレビのリアリティ番組のヒットで悠々自適のボクサー生活を過ごしてきた。だが、グローブスには完敗。大胆なビッグパンチ・スタイルを読まれ、あしらわれてしまう。今回の試合のためにラスベガスに飛んで、フロイド・メイウェザー・ジムでトレーニングして準備を積んできた。
細かいところで雑な処理が目立つユーバンクだが、パワーでは大きく上回る。もともと自身のボクシングもトリッキーな一面があるだけに、デゲールとの攪乱戦に必要以上に付き合わなければ、ペースを奪い取る公算が強いとみる。
◆セルビーが再起戦、ジョイスは初めてのテストマッチ
同じカードにはIBF世界フェザー級タイトルを4度も防衛したリー・セルビー(イギリス/32歳/26勝9KO2敗)が12回戦に出場する。昨年5月、ジョシュ・ウォーリントン(イギリス)に敗れて同タイトルを失って以来の再起戦はライト級になる。相手はオマー・ダグラス(アメリカ/28歳/19勝13KO2敗)。ハイセンスなボクサーパンチャーとして売り出されたが、世界上位の一歩手前で連敗し、大きく後退した。敵地でベテランに勝って、勢いをつけたいところだが、セルビーの手堅いボクシングは健在だ。
リオ五輪スーパーヘビー級銀メダリストのジョー・ジョイス(イギリス/33歳/7戦7勝7KO)が元WBCチャンピオンバーメイン・スティバーン(カナダ/40歳/25勝21KO3敗1分)と対戦する。身長は198cm、体重も120kg近い巨体で、とにかく攻めまくるジョイスの圧勝が見込まれるも、ややもすると一本調子になることも。15ヵ月ぶりのリングとなるスティバーンの一発はやはり怖い。
また、4回戦にはクリス・ユーバンク・ジュニアの弟セバスティアン(イギリス/27歳/1戦1勝)も出場する。
★WBC世界スーパーミドル級王座決定戦12回戦
アンソニー・ディレル(アメリカ)対アブディ・イルディリム(トルコ)
ディレル:34歳/34戦32勝(24KO)1敗1分
イルディリム:27歳/22戦21勝(12KO)1敗
デビッド・ベナビデス(アメリカ)が薬物違反によって剥奪されたタイトルの決定戦。
みどころはディレルの出来だ。2015年、バドゥ・ジャックに0-2判定で敗れて失ったタイトルへ4年ぶり復活をかける。悪性リンパ腫の治療のため、2011年から2年間ブランクを作ったディレルは、無冠になってからも5度しか戦っていない。兄アンドレ(元IBF世界スーパーミドル級チャンピオン)が均整の取れたボクサー型なのに対し、アンソニーはKOをどん欲に狙うパンチャースタイトルで売り出した。このところ、その迫力が見えないのが気になるところ。
イルディリムはデビュー当初からトルコ系ドイツ人のアーメト・オネルに英才教育を受け、大胆に売り出されてきた。クリス・ユーバンク・ジュニアには痛烈に倒されて、WBSS制覇の夢を絶たれたが、馬力はホンモノだ。その若さでディレルを追い回す展開を作れば、2度目のアメリカ登場で世界の頂を奪うかもしれない。ただ、予想するなら、ディレルの懐の深さに分があるとみるのが妥当なところだろう。
試合はFOXスポーツ1でアメリカに中継される。
◆身長196cmのスーパーウェルター級が登場
前座カードには賑やかな若手が盛りだくさん。オールアフリカゲームズで2度の銀メダルに輝いた怪力クルーザー級エフェトボー・アポチ(ナイジェリア/31歳/6戦6勝6KO)、2016年世界U-19選手権銅メダリストでアマチュアにとどまっていれば五輪メダル確実とも言われたスーパーウェルター級の俊才マニー・パウエル4世(アメリカ/21歳/8戦8勝4KO)らの行方から目を離してはいけない。
もうひとり、スーパーウェルター級のレオン・ローソン3世(アメリカ/19歳/8戦8勝4KO)は身長なんと196cm。ディレル兄弟とはいとこにあたる。2017年の全米ゴールデングローブで優勝してプロに転向してきた。キャリアはまだまだ準備段階だが、体ができてくればおもしろい存在になる。
◆バンバン・リオスが10年ぶりにルーツの地で戦う
2度にわたるオーバーウェイトでWBA世界ライト級タイトルを手放して8年、今はウェルター級からスーパーウェルター級で戦っているブランドン・ “バンバン” ・リオス(アメリカ/32歳/35勝26KO4敗1分)だが、人気はいまだに高い。23日にはルーツのあるメキシコのティファナに飛んでリングに立つ。メキシコでの戦いは10年ぶり3度目になる。対戦するのはウンベルト・ソト(メキシコ/38歳/68勝37KO9敗2分1無効試合)。こちらもメジャーな世界タイトルから縁がなくなってやはり8年になるが、バリバリの現役だ。
派手な打ち合いが身上のリオスに、中間距離の攻防に手際の良さを見せるソト。まだまだリオスのパワーが上とみる。
前座のフライ級8回戦には、リオ五輪ライトフライ級代表ホセリト・ベラスケス(メキシコ/25歳/7戦7勝6KO)が18歳の強打者ケビン・ビラヌエバ(メキシコ/10勝9KO1敗2分)と対戦する。
リオでは2回戦で優勝したハッサンボーイ・デュスマトフ(ウズベキスタン)に敗れているベラスケスだが、パンアメリカンゲームズでは2011年にジョバニー・ベイティア、2015年にはジョニー・アルヒゴラスとアマチュア世界チャンピオン経験のあるキューバ人を撃破して優勝。セミプロリーグのWSBでも9勝3敗のキャリアを持つ本格派だ。
◆ロシアの精鋭がアイスホッケーアリーナにずらり
ロシアのボクシングはだんだんと熱を帯びている。なかでも西南部の都市エカテリンブルクでは、ここを本拠にするRCCボクシングプロモーションが定期的に興行を展開する。22日には初めてアイスホッケー場KRKウラレッツを会場にして、期待の選手たちを続々と登場させる。
5つ組まれた10回戦のなかでも目玉はライト級のザウル・アブダラーエフ(24歳/10戦10勝6KO)、ヘビー級のエフゲニー・ロマノフ(33歳/11戦11勝8KO)、スーパーウェルター級のマゴムド・クルバノフ(23歳/16戦16勝11KO)。ティーン時代はロシア選手権の上位を独占したアブダラーエフは多彩なレフトが持ち味の技巧派。前戦ではアメリカのベテラン元コンテンダー、ヘンリー・ハンク・ランディに勝っている。ロマノフはアマチュアのロシア・チャンピオンで、あのデオンテイ・ワイルダーをKOしたこともある。クルバノフもすでに世界ランクに名前が見える有望株だ。
さらに注目はエフゲニー・ティシチェンコ(27歳/3戦3勝2KO)。リオ五輪ヘビー級(90kg級)金メダルのティシチェンコは身長196cmもあり、アメリカ・デビュー戦を含むここまで3戦すべてヘビー級で戦ってきた。今回はクルーザー級に下げて適性を測る。相手は19戦(17勝2敗)のキャリアを持つ26歳のアルゼンチン人ホセ・グレゴリオ・ウルリッヒ。さて、どんな結果が出るだろうか。
文◎宮崎正博
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