上写真=4位の黒田だが、指名挑戦者としてムザラネに挑む。同席したIBFのアニバル・ミラモンテス氏(右)も黒田の権利を認めている
前日本フライ級チャンピオンで、現IBF世界同級4位の黒田雅之(32歳=川崎新田)の2度目の世界挑戦が18日、発表された。挑むのはIBF同級チャンピオン、モルティ・ムザラネ(36歳=南アフリカ)。試合は5月13日(月)、東京・後楽園ホールで行われる。
昨年11月、タイでエクタワン・クルンテープトンブリとIBF挑戦者決定戦を行う予定だった黒田は、前WBO同級王者・木村翔(青木)とともにタイ・キャンプを敢行。アウェーでの挑戦権獲得に向け、心も体も準備を進めていたが、エクタワンの負傷により試合がキャンセル。交渉の末、黒田陣営はIBFから王座挑戦権を認められていた。
年末大晦日にマカオで坂本真宏(六島)を10回TKOで退け、初防衛に成功したムザラネに、黒田が晴れて挑戦する運びに。
「(ムザラネは)優しそうな目をしていますね。スタイルはどっしり構えて、ガードもしっかりしている」と印象を話し、その上で「かみ合うかみ合わないは問題じゃない。勝機は十分にある」と自信のほどをみせる。
思い返せば2006年、全日本新人王ライトフライ級を制した当時の黒田は、才能あふれる左フックを武器に、相手を次々に倒してきたが、その後はひとつ歯車が狂うと、立て直せない。感情が表に出てしまうという“欠点”を抱えてきた。
そこを克服しなければ、と常々語ってきた新田渉世会長は、黒田の“人間力”を高めようと、「数々のいじわる」(新田会長)を仕掛けてきたという。
「たとえば、寝ているときに連絡してきて、行く気になったら、『やっぱり来ないでいい』とか(笑)。翌日の予定が、当日になってみたら、全然変わっているとか(笑)」(黒田)
傍から見ていて、頑固で短気に見えた黒田だったが、会長の仕掛けの連続に慣れ、まったく動じない心を徐々に手に入れていったのだという。
同時に、真面目で実直そうな外見とは裏腹に、“自分”というものを強く持つ黒田に、広い活動を強いたのも新田会長の作戦だった。事あるごとに、公の場に黒田を連れて回る。
「自分の芯を曲げないことも大事ですが、様々な分野の人と交流して、お話を聞くことで、『これ、ボクシングにも通じるな』とかいろいろなヒントを得ることができました」(黒田)
2度目の日本王座に返り咲いた2017年2月以降、黒田の試合ぶりにも変化が現れ始めた。特に昨年3月(vs.長嶺克則=マナベ)、7月(vs.星野晃規=M.T)の試合にそれは顕著に表われている。2試合とも、黒田はダウンを喫しているのだが、笑顔すら見せて立ち上がった黒田は、その後、冷静にジャブで立て直し、勝利をものにしている。かつての“焦って空回りする”精神の脆さは感じられなくなった。
「想定外のことが起きても平常心で。逆に、自分が相手に想定外のことをしてやろうと思うようになりました」(黒田)
頭が柔らかくなれば、体も柔軟になる。かつては「ガードして固まってしまう」(黒田)ガチガチのスタイルだったが、リラックスして体を振ることができるようになった。
「昔のスタイルと、いまのスタイルをミックスさせたボクシング」に手応えを感じ、それを大舞台で披露すべく、取り組んでいる。
「ラストチャンスだということも、切羽詰っていることも楽しみたい」。
満面の笑みに、迷いはひとつも感じられなかった。
文_本間 暁 写真_山口裕朗
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