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2023-04-07

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第8回「食に賭ける執念」

平成27年名古屋場所3日目、豊ノ島は旭秀鵬に敗れて3連敗を喫した

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一年を通じてなにがあっても、いや、なにかがあったときこそ、めげずにもりもり食うヤツは最後に笑います。
究極の成功の秘訣、勝利の原動力は食うことであります。これに尽きます。とりわけ、体力勝負の力士はそうです。
だから、食うことに人一倍こだわり、神経を使い、その労力たるや、たいへんなものです。
そんな力士たちの食うことに賭けた執念のエピソードを紹介しましょう。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

ニンニクの効果

元気が出る食材はいろいろあるが、その代表的なものがあの強烈なにおいのするニンニクだ。料理に入れてよし、そのまま食べてもよし。手軽に手に入ることもあって、ニンニク愛用者、いや、ニンニク信奉者は多い。
 
平成27年(2015)名古屋場所、西前頭7枚目の豊ノ島は初日から3連敗を喫した。最悪のスタートだ。しょんぼりしている豊ノ島に、東京で応援している元歌手で、妻の沙帆さんから電話が入った。

「どうしたの。テレビ画面で見てもわかるけど、今場所のあなたは顔に元気がないわよ」
 
さあ、豊ノ島は困った。いきなり顔に元気がない、と言われても、元気を出す方法がわからない。でも、こういうときは、とりあえずニンニクだ。その夜、豊ノ島はニンニクを丸ごと、ホイル焼きにして食べ、さらに翌4日目の朝もニンニクをすりおろし、鍋にたっぷり入れてたいらげた。きっと息はすさまじい匂いだったでしょうね。
 
すると、どうだ。この4日目、玉鷲を際どく引き落として初白星をあげたのだ。ニンニク効果、てきめんだ。

「こんなもので元気になるワケはないんだけど、こうやって現実に勝つと、そのパワーを信じたくなる。よし、今夜も食おうっと」
 
と豊ノ島はご機嫌で支度部屋をあとにしたが、翌5日目からまたまた4連敗して元の木阿弥。終盤、盛り返したものの、7勝8敗と負け越してしまった。どうしてこんなことになってしまったのか。きっと豊ノ島が初白星を挙げた秘密を知ってしまった相手の力士も、よし、それじゃオレも、とニンニクを食べたんじゃないでしょうか。こういうことはしゃべらないで、内緒にしておかないと。でも、あの匂いじゃ隠したくても隠せませんよね。

月刊『相撲』令和元年11月号掲載

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