上写真=練習終了後、帝拳ジムのスタッフ、メディアにきちんと挨拶をしていくチュプラコフ
最近でこそ、日本人同士による世界タイトルマッチが増加してきたが、“世界”と冠が付くのだから、「国際試合感」が濃いほうが、それらしい雰囲気はもちろん出る。これは自分が古くからのボクシングファンだからなのかもしれないが。そして、そんな“国際試合的世界タイトルマッチ”で楽しみなのが、まったく異国の様子に触れることができる、という点だ。
もちろん、「ボクシング=BOXING」は万国共通のもの。言葉や風習は違えど、やることは同じ。でも、そこに対する臨み方や生活、種々の所作は、それぞれの“癖”が出たりするからおもしろい。国内の選手の場合、普段の取材等で確認すれば済む話だが、一期一会に近い海外の選手の場合、試合外の公式行事は数少ないチャンスなのである。だから、練習以外の何気ない行為も、決して見逃すことができないのだ。
25日に公開練習を行ったエフゲニー・チュプラコフ(ロシア)は、実に几帳面だった。
練習前の会見中、じっと自分のジャージ下を見つめ始めたチュプラコフは、「もう我慢ならん」とばかりに、何かをつまみ始めたのだ。
おそらく毛玉か糸くずか小さなホコリだったのだろう。近くで見ていてもわからないくらいの大きさの“それ”を3つ4つつまんで終了した。
トレーニングで使ったのは、日本のウイニング社製14オンスグローブ。
「帝拳ジムで借りたのかなぁ。でも、それにしちゃずいぶん年季が入ってるなぁ…」と思い、帰り支度をしているチュプラコフに、「これ、キミの?」って訊く。すると、「そうです。ボクの。WINNING is GOOD!」。そう言って、ウインクをしてくれた。少々値は張るとはいえ、やはり品質に絶対的な信頼のある「ウイニング・プライド」。さすがである。
使ったTシャツを何枚も、器用にパッパと几帳面に畳んでリュックにしまっていく。そしてウイニングのグローブの紐をこれまた丁寧に結び、リュックのサイドへくくりつける。
「なんか見たことある光景だなぁ」と記憶をたどった。木村翔がヘッドギアをリュックの外側にぶら下げた図だった。チュプラコフも木村も、パッと見は豪快な行為。でも、ふたりとも“几帳面”だからこそ、こうしているのである。中に入れると、潰れてしまうから。
何気ない、どうでもいい話かもしれないが、こんなちょっとしたことにも人間味があふれる。
試合とともに、頭の中の記憶のノートにメモられる。
文&写真_本間 暁
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