柔道が初めてオリンピックの正式競技となった1964年東京大会から2016年のリオ五輪まで、“柔道王国”日本は史上最多のメダルを獲得してきた。そして、その長い歴史の中で燦然と輝くのは卓越した技量で他を圧倒し、表彰台の頂点を極めた金メダリストたちだ。ここでは、各階級のレジェンドからリオ大会の大野将平、ベイカー茉秋、田知本遥まで、『日本柔道オリンピック金メダリスト列伝』として1人ずつ紹介。今回は、1976年モントリオール大会93kg級・二宮和弘をクローズアップする。(※文中敬称略)
※写真上=金メダルを手に、会心の笑顔を見せる二宮和弘
写真/BBM
◆柔道をやめることを翻意した先に待っていた猛稽古と五輪金メダル
二宮和弘は長身を生かした右大外刈りや払い腰を主武器に、世界選手権とオリンピックを制した。全日本でも3位2回、準優勝1回という戦績を残している。1976年のモントリオール五輪は、好きなビールも断って過酷な9kgの減量に成功した成果でもあった。
1回戦は不戦勝。2回戦はクウェート、3回戦は北朝鮮の選手に寝技で「一本」。4回戦では、この4年後のモスクワ五輪無差別で優勝するローレンツ(東ドイツ)と対戦した。青白い冷たそうな表情の選手で、担ぎ技と関節技の名手。だが、二宮は得意の大外刈りから巻き込み、「技あり」を奪って圧勝した。
準決勝はスイスのロースリスベルガーを片羽絞め「一本」。決勝は双手刈りと横捨て身技などサンボ由来の技を駆使するハルシラーゼ(ソビエト)を、大外刈り「有効」に「警告」を加えて撃破。金メダルに輝いた。当時29歳。選手としては晩年の踏ん張りだった。
小学3年の頃から町道場で柔道を始めた二宮だが、中学、高校では目立った成績はない。伸びのびとした柔道生活だった。だが一度だけ、柔道から離れる決心をしたことがある。中学のときに自分より年下の選手にぶん投げられて、父親に「やめる」と訴えたのだ。
後に二宮は語った。「ものすごく怒られました。『自分でやると言って始めたのに、今さらやめるとは何事だ』と。母からも『筋が違うよ』ってね」。これがショック療法になり、以降は、どんなにつらくても柔道をやめると言うことはなかった。五輪の金メダルは、この“事件”があったからこそ実現したといっても良い。
金メダル獲得に起因したことは、これ以外に4つほど考えられる。まず、天理大入学時は貧血に悩まされていたが、当時の松本安市師範が長身で筋肉質の素質を見抜いたのか、「毎日ほうれん草とレバーを他の人より多く食べなさい」と言って貧血を克服させたこと。そして、とにかくよく走ったことだ。「坂道を駆け上がるんですが、毎日頂上で松本先生が竹刀を持ってにらんでいる。否応なしに、スタミナは誰にも負けないようになりました」と二宮は述懐する。
3つめは、先輩たちにかわいがられることもあったが、「めったに絞め落とされたことはありませんでした。というのも、寝技に移行しないから。必死に立ち技で勝負したので、立ち技は上達したし、寝技に引き込まれても必死に防いだので、逆に寝技でも対等に勝負できるようになりました」
そして4つめ。天理大を70年に卒業して入門した正気塾(64年東京五輪80kg級金メダリストの岡野功が開いた柔道私塾)での猛稽古だ。ここでの2年間が、二宮の柔道を一回りも二回りも大きく逞しくした。
「一日9時間の稽古。1000本の打ち込み。それに耐えて修業したことで、精神的にも鍛えられました」と二宮。前述の“中学で柔道をやめなかったこと”に加え、これらの4つのことが、二宮を歴史に名を残す柔道家に押し上げる大きな要因となった。

※写真上=モントリオール五輪で共に金メダルを獲得した上村春樹(写真中央=無差別)、園田勇(左=80kg級)と喜びを分かち合う二宮和弘
写真/BBM
Profile にのみや・かずひろ 1946年11月28日生まれ、福岡県福岡市出身。博多高-天理大。主な戦績は1970年アジア選手権優勝、72年ソ連国際優勝、73年フランス国際優勝、ローザンヌ世界選手権優勝、全国警察選手権優勝、74年全日本選手権2位、75年ウィーン世界選手権2位、76・77年全日本選抜体重別優勝、76年モントリオール五輪優勝など。
文◎木村秀和
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