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2018-03-30

話題は帰化選手だけじゃない!韓国を盛り上げた日本人プレーヤー。

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今季のデミョンを押し上げた(左から)石岡、坂田、鈴木雄大。チャンスをくれたチームに報いようと、懸命のプレーを見せていた 写真/山口真一

 アジアリーグはプレーオフファイナルの3試合を終えてハルラの2勝1敗。この週末、王子との決戦がクライマックスを迎える。今季は平昌五輪の準備期間のためレギュラーリーグが2017年12月いっぱいと短めで、あっという間に終わってしまった感があるが、その中で最大級のサプライズは、昨季限りでバックスを退団したFW鈴木雄大が得点王(17ゴール)に輝いたことではなかったか。

 11月に現地取材の機会に恵まれたが、鈴木雄大をはじめ、チャイナドラゴンから加入したFW石岡敏、日本製紙から移籍のDF坂田駿が、いずれもエネルギッシュに動き回っていたのが印象的だった。もともと坂田は運動量の多い選手だったが、鈴木は味方がパックを奪うたびにムダ走りになることをいとわず前線へのダッシュを繰り返し、今季34歳になる石岡もF1としてOゾーン深くからニュートラルまで執拗にパックを追っていた。

デミョンのホーム・仁川ソンハクアリーナの当日券売り場。価格は安めに設定されているものの、観戦スポーツとして市民に浸透するのはこれからか 写真/山口真一

 3人が口をそろえたのが、コンスタンチン監督の圧倒的なカリスマ性と、選手の忠誠心のすさまじさだ。鈴木はそれを徴兵制度がある国ならではの事象だと説明してくれた。「上からの命令は絶対ですし、選手は監督からの指示通りに一生懸命やる。少しでも抜いたらもう使ってもらえません。基本、彼らはアーミーなんです」。石岡は「1試合やると本当に疲れます。懸命に走っていた? だって走らないと使ってもらえないですから。年齢とか、外国人だとかは、ここでは関係ないんです」。坂田もまた、痛む両足を氷でぐるぐる巻きにしながら、「たとえば日本だと、負けると遠征の疲れとかを言い訳をしますが、韓国にはそういう考えはない。毎日、必死です」と苦笑い交じりに教えてくれた。

デミョンのスーベニアショップでは選手のフォトパックを販売中。11月の時点で鈴木の分は完売していた 写真/山口真一

 このプレーオフにおけるハルラもそうだが、今季は助っ人よりもむしろ、ネイティブの韓国人選手の活躍が目立っている。もともと学習能力が高く、肉食系で体が強い民族だ。外国人や日本チームから学んだことを栄養にしてぐんぐん力をつけ、彼らはついに日本を凌駕してしまった。デミョンの日本人3選手もキャリアは十分に積んでいるはずだが、石岡をして「リンクには自転車通学です。通勤じゃありません。僕らはここに勉強しに来ている」と言わしめるだけの刺激が韓国のホッケーにはあり、それが鈴木の得点王につながったとも解釈できる。

ハルラの一員としてプレーオフファイナルに臨んでいる鈴木雅仁。リーグ一恵まれた環境に感謝しつつ、チーム内は競争が激しいとあって余裕はなかった 写真/山口真一

 ハイワンの高陽リンクでは、ルーキー・FWの川村一希に会うことができた。明治大学4年時には主将としてインカレ優勝。同期の羽生ゆずれない(DF相木健太)に知名度では劣るものの、開幕直後から活躍、シーズン途中でケガに泣いたが、持ち前の視野の広いプレーと決めでチームに貢献した。大学4年時には、大手一般企業の内定ももらっていたが、秋のリーグ戦期間に「やはりホッケーを続けたい」という気持ちが強くなり、ハイワン入りのチャンスをつかんだ。

「もともと僕は、ホッケーがすべてではないという考えがあって、だからこそ一般就職を希望したのですが、ホッケーがすべてではないからこそ、ホッケーで見られる景色はきっちり見て、それを次の人生に生かしたほうがいいんじゃないかと思いました。今、トップリーグに行くか就職かで迷っている学生がいたら、チャレンジできるなら絶対にしたほうがいいよって言いたい。アジアではホッケーはマイナースポーツと言われますが、誰もがトップリーグに行けるわけではありません。この景色を見られるチャンスがあるのなら、絶対にトライすべきですよ」

大学4年時に一度は一般企業への就職を決めたものの、アイスホッケーを続けたい気持ちが頭をもたげてハイワン入りした川村。話をする表情からも終始、充実ぶりがうかがえた 写真/山口真一

 同学年の石岡と同様、チャイナドラゴンから韓国に渡ったFW鈴木雅仁とは安養のリンクで会えた。「チャイナドラゴンがなくなって、なかなかチームが決まらなくて、一度はホッケーをやめかけました。ハルラには拾ってもらったと思っていますし、(主力選手がチームを離れる時期が長い)五輪シーズンでなかったらどうなっていたか」。リーグの中でも、ハルラの競技環境はトップクラス。しかし、そこに満足している余裕はないと鈴木はいう。「来年の保証はないですからね。今(11月時点)はケガがあって自分らしいプレーができていない。正直、不安です」。レギュラーリーグは14試合出場で2ゴール。このファイナルは3戦目まで1度もベンチ入りしていないが、なんとか光を見出してほしい。

広大なキャンパス内にある高麗大学リンク。1階にスケートショップ、スタンド下には採暖エリア、ホットドッグなどを販売するスナックが併設されている 写真/山口真一

 アジアリーグの合間を縫って、高麗大学リンクで大学生の試合を見る機会もあった。設備は新しくないが、非常に使い勝手が良さそうで、高麗、延世という伝統校に続く勢力が台頭していることが感じられた。印象的だったのは、リンクに貼られていたジュニアチームのポスター。どのチームも、今の日本では考えられないほど選手の数が多かった。一方で仁川と高陽のリンク周辺は、トップリーグが開催されているとはとても思えない寂れっぷりで、費用対効果の低さを感じさせた。日本が1998年の長野五輪を境に苦しい時期を迎えたように、来季以降の韓国ホッケー界も予断を許さない。日本人選手も伸ばしてくれた彼らのエネルギーを萎えさせない努力が、これからのリーグには必要になってくる。

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