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2024-07-21

【相撲編集部が選ぶ名古屋場所8日目の一番】ケガの影響感じさせず。尊富士が復帰の土俵でホープ阿武剋を圧倒! 

右足首のケガの影響も感じさせず、十両では指折りの実力者の阿武剋を圧倒。3月場所のヒーロー・尊富士は鮮やかな土俵復帰を見せた

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尊富士(寄り切り)阿武剋

チョンマゲ姿で3月場所に歴史的な新入幕優勝を遂げた男は、大銀杏姿で土俵に帰ってきた。
 
優勝した3月場所の14日目に負った右足首のケガのため、5月場所は全休し、十両に番付を落としていた尊富士だ。初めての大銀杏が、むしろ不在だった時間の長さを示しているようでもあったが、「出たいという気持ち、それだけですね。師匠には自分から出たいと言いました」と、出場を直訴し、いよいよこの日から本場所の土俵に登場した。
 
関取との稽古は、「熱海富士関と多少は」という程度だったとのことで、師匠・伊勢ケ濱親方(元横綱旭富士)は「賛成な感じではなかったんですけど、〝出るからには勝たないといけない。意識して、出るからには勝て〟と言われました」(尊富士)というだけあって、かなり集中力を持っての土俵であったことは想像できる。

そして、この日の「復帰戦」は、相手も阿武剋と役者がそろった。阿武剋は最後の幕下15枚目格付け出し力士で、デビューした昨年11月場所以来一度も負け越しなしで、幕内目前の十両筆頭まで上がってきたホープ。尊富士の日大とはライバル関係にある日体大の出身で学年は尊富士の1つ下。ちなみにアマチュア時代の対戦成績は1勝1敗とのことだ。
 
この好取組に、館内は十両の取組とは思えないほどの歓声に包まれた。尊富士も「すごい声援だったので、優勝した時より注目されてるなと感じた。今まで、土俵に上がって聞こえなかった一人一人の声が自分に届いた。〝お帰り~〟とかいう声が聞こえました」と、取組後に振り返ったほどだ。
 
だが、「その分、硬くなりましたけど、自分を信じてやりました」という尊富士の相撲に狂いはなかった。
 
立ち合い、3月場所を思い出させる、低く、強い当たりで立ち、当たり勝った。少し突いて距離ができたところで左四つ。ケンカ四つの阿武剋に差し勝った。相手の阿武咲は今場所、前傾姿勢での攻めが目立っていたが、立ち合いの勢いで勝ったことで、ある程度相手を起こすことに成功していた尊富士は、右上手が取れないと見るや、サッと右も巻き替えてモロ差し。これで相手の上体を浮かせると、一気に寄って快勝。阿武剋に「立ち合いで四つに組み止め、安心してしまった。すぐに攻めればよかった。ひと呼吸おいて中に入られてしまった。(学生時代とは)全然違いました」と舌を巻かせた。
 
土俵入りのときは何もつけていなかった右足首には、取組のときには白いものが見られた尊富士だが、この日の動きを見る限りでは、ケガの影響のようなものは全く感じられなかった。
 
もちろん、まだ突き合い、押し合いで激しく動き回るような相撲は見ていないので、この一番だけで判断するのは早計だが、今、十両の中で最も幕内に近い男の一人と思われる阿武剋に圧勝したという事実は、今後に明るい展望を持たせるものだといえる。「ケガをしてまだ半年もたっていない。無理をせずにやるだけです」と本人は慎重で、かつ今場所は7休からのスタートで、残り全勝しなければ番付の上昇はないため、番付上はすぐに、というわけにはいかないが、すでに幕内で戦えるだけの状態に戻っていると見た。

「大銀杏じゃないほうがむしろ慣れているんですけど、髪は伸び続けるので、結うしかない」(尊富士)と、頭はチョンマゲから大銀杏に変わったが、立ち合いの鋭さは優勝した場所と変わらない。尊富士が再び快進撃を始める日は、そう遠くないはずだ。

文=藤本泰祐

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