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2024-07-25

【連載】田中希実の父親が明かす“共闘”の真実 Vol.8 遠慮のない意見のぶつけ合い。娘はそれを「ケンカ」と呼ぶ

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親子ならではのケンカのような意見交換。娘・田中希実と父・田中健智氏は現状を良くしようとの思いの中で互いに交わる“点”を探し求めた(Photo:Getty Images)

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【Vol.1はこちらから】

田中希実。日本女子中距離界に衝撃を与え続けている小柄な女王。その専属コーチは実父・田中健智である。指導者としての実績もなかった男が、従来のシステムにとらわれず「世界に近づくためにはどうしたらいいか」を考え続けてきた。そんな父娘の共闘の記憶を、田中健智の著書『共闘』から抜粋しお届けする短期連載。

前回の『【連載】田中希実の父親が明かす“共闘”の真実 Vol.7 心掛けたのは、一般的な「親子」のようには接しないこと』を読む

第8回目は、父娘だからこそ生まれる「ぶつかり合い」と、その根底に流れる田中健智氏の想いについて触れる。

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親子で取り組むメリット、と聞かれると難しいのだが、私たちの場合は、解決しなければならない時は遠慮せずに言葉で伝え合うようにしている。指導者や選手の中には、互いの顔色をうかがい、"本当に言いたいこと"を飲み込んでしまうことが多いように感じている。指導者と選手の関係といえども、そこには越えてはいけない一線があるのだろう。しかし、私たちは父娘だからこそ受け入れられる、許される言葉があり、思いを飲み込むのではなく、妥協せずに意見を交わすことができる。娘はそれを「ケンカ」と呼ぶのだが…。

確かに、関西人で言葉遣いがきついからか、言葉をぶつけ合っているのを傍から眺めたら、親子ゲンカのように見えるのかもしれない。だが、それはお互いに現状を「良くしよう」と思ってストレートにぶつかり合っているのであり、単純に「ケンカ」と言うのは違うような気がしている。平行線に見えるようで、互いの意見が交わる「点」を探しているのは間違いないこと。最終的に交わっているからこそ、これまでの結果に結びついてきた。

仮に議論が平行線のままだったらそれっきりになっているだろうし、それこそ選手とコーチの関係性は破綻していてもおかしくない。これまで何度も「最大級」の衝突を繰り返してきたが、互いに親子というより「人」として認めあい、尊重しているからこそ、5年が経った今も、父と娘、コーチと選手という変わった関係性が何とか続いているのだろう。

【田中希実の父親が明かす“共闘”の真実Vol.9に続く】

<田中健智・著『共闘セオリーを覆す父と娘のコーチング論』第3章-覚醒-より一部抜粋>


レース以外では仲の良い親子の表情に戻る2人。お互いに人として認め合う関係性を築いている(写真提供:田中健智/陸上競技マガジン2020年10月号掲載)

田中健智
たなか・かつとし●1970年11月19日、兵庫県生まれ。三木東高―川崎重工。現役時代は中・長距離選手として活躍し、96年限りで現役引退。2001年までトクセン工業で妻・千洋(97、03年北海道マラソン優勝)のコーチ兼練習パートナーを務めた後、ランニング関連会社に勤務しイベント運営やICチップを使った記録計測に携わり、その傍ら妻のコーチを継続、06年にATHTRACK株式会社の前身であるAthle-C(アスレック)を立ち上げ独立。陸上関連のイベントの企画・運営、ランニング教室などを行い、現在も「走る楽しさ」を伝えている。19年豊田自動織機TCのコーチ就任で長女・希実や、後藤夢の指導に当たる。希実は1000、1500、3000、5000mなど、数々の日本記録を持つ女子中距離界のエースに成長。21年東京五輪女子1500mで日本人初の決勝進出を果たし8位入賞を成し遂げている。23年4月よりプロ転向した希実[NewBalance]の専属コーチとして、世界選手権、ダイヤモンドリーグといった世界最高峰の舞台で活躍する娘を独自のコーチングで指導に当たっている。

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