プロレス団体と商店街がタッグを組み、地域活性化に成功している事例があるのをご存知だろうか? プロレスと地域活性化の相性は抜群にいい。これから書くのは、大日本プロレスと横浜商店街が協力し合い、すでに7年目を迎えた「商店街プロレスシリーズ」についてである。
もともと大日本は横浜に根を置くプロレス団体で、商店街プロレスの元祖と呼ばれる六角橋で初開催した2004年から、交流をスタートさせた。これは、映画『お父さんのバックドロップ』に大日本が協力し、そのロケ地が六角橋だったことで生まれた縁。六角橋大会は夏の恒例行事となり、翌2005年を除き、毎年1回は必ず大会を実施して今日に至る。
同地から発展したのが、2012年に始まった現行の「商店街プロレスシリーズ」だ。大のプロレスファンだった横浜市商店街総連合会(市商連)事業部長の加藤剛さんは当時、新たに立ち上がった地域交友活性化事業の一環で、商店街振興を促すためのコンテンツを模索していた。そのなか、白羽の矢が立ったのがプロレス。加藤さんは、04年から六角橋で商店街プロレスをおこなっていた大日本に相談し、普段はデスマッチファイターとして大流血戦を闘っている“黒天使”沼澤邪鬼と、2人でプロジェクトの中心を担い「商店街プロレスシリーズ」を始めた。
初年度は加藤さんの市商連が全額負担。「それなら」と市内の多くの商店街から開催の立候補があり、じっさいおこなってみたところ…これがハマった。まず、商店街の一角にリングがある非日常はたくさんの通行人を引きつけ、人の足を商店街に止める効果があった。プロレスファンである加藤さんの「子供たちに見てほしい」との思いから、同シリーズは無料が基本。たくさんの人が長時間に渡り商店街に留まることで、商店街側は自然と集客につながり、大日本としては無料で試合を見てもらい新規ファンの獲得につなげる、ウィンウィンの関係が構築されたのだ。
2年目に開催費用は市商連の一部負担に変わり、3年目からは各商店街側の全額負担に。「それでもやりたい」という商店街がほとんどだったといい、現在も同様のスタイルで継続して7年目を迎えているわけだから、文句なしに“成功事例”と言えるだろう。
例年15大会前後、商店街プロレスはおこなわれており、2018年の今後の日程は以下の通り。
★8月4日(金)=神奈川・六角橋商店街食品館スーパーあおば裏駐車場(有料)
★8月22日(水)=都筑区・えだきん商店会
★8月26日(日)=保土ヶ谷区・千丸台商店会
★9月22日(土)=西区・戸部大通り商店会
★9月23日(日)=港南区・野庭団地ショッピングセンター会
★10月13日(土)=鶴見区民文化センターサルビアホール大会(有料)
★10月27日(土)=保土ヶ谷区・天王町商店街協同組合
★10月28日(日)=瀬谷区・いちょう通り商店会
★11月3日(土・祝)=金沢区・金沢文庫ふれあい商店街
※六角橋、鶴見区以外は無料。
つい先日、7月16日に開催された今年の第3戦、プララ杉田に足を運んだが、今回も盛況。多くの人たちがプロレスを楽しんでいた。また、本興行とは一味違う選手の脱力した姿が見られるのも商店街プロレスの魅力。この日は記者が写真を撮ることになっていたのだが、試合のなかった団体の看板選手であるアブドーラ・小林が「撮りますよ!」と“週プロカメラマン”に名乗り出て、協力してくれる珍事が発生。「地区隊長」なる謎の腕章を巻き、巨体を揺らしながら撮影に勤しむ姿を、ファンも微笑ましく見つめていた。
プララは2012年の初年度、同シリーズ開幕戦の会場。沼澤は「プララに来るたび、一番はじめにやって無料でお客さんが来るとなった時の不安が忘れられない」という。
「いくら無料とはいえ、どれだけの人がウチらを見に来てくれるのか。ところがどっこい、たくさんの人が来てくれた。孫と一緒に来ていたお婆さんも『力道山の頃から見ていて、プロレスが好きだった』と言ってくれたのを聞いたり、試合をやってリングに上がった時のお客さんの反応で、安心しました」(沼澤)
心配は杞憂に終わった。その時は沼澤も、7年も続く事業になるとは思っていなかったはず。いまは商店街の各店舗のPRタイムがあったり、ヒップフォーク歌手・ビリケンの熱唱がほぼレギュラーで催されるなど、人と人の縁がつなぐ輪でプロジェクトは発展を遂げてきた。プロレスの試合も「●●(各商店街の名前が入る)・オブ・ザ・デッド」というワルいマスクマンが登場したり、正義のヒーローであるショッピングストリート・スーパースターがいたり、老若男女、誰もが楽しめるわかりやすい闘いが中心。さらに、当時“商店街ベルト”として誕生した横浜ショッピングストリート6人タッグ王座は、いまや商店街限定ではなく、大日本の全国各地の本興行でタイトルマッチが実現しており、“ヨコハマ”の名をとどろかせている。
ただ、長く続けるのはもちろん素晴らしいことながら、一方で商店街プロレスは“マンネリ”にも直面している。加藤さんは今後の課題をこう語った。
「毎年やって盛況だから、というのはあるけど、変化が必要な時期かもしれません。若手選手に(商店街プロレスを)プロデュースしてもらったりという案もそうだし、7年やってきてもう少し変化がほしい。基本は商店街振興、プロレス振興だけど、見せ方の部分は変えていかないと。そうしないと、マンネリが起きてきて、飽きられちゃう」(加藤さん)
無料が基本とはいえ、プロレスの大会である以上、面白くなければ団体にも、商店街にもマイナスの影響を及ぼしてしまう。まして、プロレスを見たことがない客層が中心とあれば、なおさら気が抜けない。その緊張感は、いつになっても不変なのだ。
いずれにせよ横浜の商店街では、大日本プロレスによる地域振興が7年も続いている。六角橋商店街に限定すれば、その関係性は14年におよぶのだ。世の常として、ダメなものは終わり、意義ある企画は続く。もし、地域おこしに悩んでいる方がいるなら、プロレス団体とのコラボを考えてみるのもいいかもしれない。
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