「昨年の全日本も僕はケガをした。ケガをすると優勝するんですよ」 8月末からの五輪最終予選に、7人ものメンバーを出した栃木日光アイスバックス。五輪予選が終わり、アジアリーグの開幕までは3日間だったが(しかも韓国遠征だった!)、前半戦を2位で終えている。センターの古橋真来は16試合を終わって12ゴール、19アシスト。目下のところアシスト王であり、ポイント王だ。
「僕だけじゃなくて、鈴木健斗もゴールを決めていますし(14得点でリーグ1位)、磯谷奏汰も調子がいい。寺尾勇利、大津晃介、大椋舞人、出口圭太…。点数は取れているかなという感じですね」
今季からイェスパー・ヤロネンがコーチングスタッフに加わった。話題になっているのが「フォーメン・ロー」。攻め出しの時、パックキャリア以外の4人が、ゴールライン付近からフラットに並んで走る戦術だ。相手チームからすると、次にどの選手にパスをつなげていくのかが読みにくくなる。そして、かなりの確率でエントリーしてОゾーンに入るので、バックスとすれば、パックを自分たちの管理下において試合を進められるのだ。
12月5日からは、地元の日光市で「全日本選手権(A)」が行われる。昨年、バックスは全日本で優勝しているが、古橋は決勝の途中でケガを負ってしまい、全日本が終わってしばらくは欠場が続いた。
「2019年にもバックスは優勝しているんですが、あの時も僕はケガで走れなかったんです。ケガをすると、全日本で優勝するんですよ」
古橋らしいブラックジョーク。遠慮せずに思うまましゃべるところが、古橋の個性であり、良さなのだろう。
7月の日本代表合宿。このころは「13番目」のFWとして評価されていて、メンバーに入るかどうか微妙な位置づけだった「僕に与えられた仕事は4つ目。点を決めても3ピリには出られない」 古橋は7月の日本代表合宿までは「13人目のFW」だった。8月にデンマークの直前合宿に入るまで、メンバーから落ちる可能性もあった。
「コンディションはいいけど、ゲーム勘がなかったんです。しかも、代表ではウイング。センターだったらもっと活躍できると思うんですけどね。ここ大事なところなので、目立つように書いておいてください」
古橋は今年、31歳。「最初は、なんで僕を代表に呼んだんだろうと思っちゃいました」と振り返る。「福さん(GK・福藤豊)も、五輪予選は3試合とも出られなかった。代表組はテストマッチが2試合しかないんですから」
五輪予選が始まった。1敗で迎えた、2戦目のデンマーク戦。ここで勝たなければ日本代表のオリンピックの可能性がなくなる。古橋は2点目を奪い、しかし2-2のまま60分間が終わった。
「ベンチで、なんでエンプティをかけないんだろうと思っていました。僕に与えられた仕事は4つ目。3ピリは、ほぼすべての試合で出られないから、見ている人と同じ視線なんです」
延長は63分に決着がついた。デンマークにサヨナラゴールを決められたのだ。
「点数を決めているのに、もう自分は試合に出られない。複雑でしたよ。オーバータイムの3対3は、得意なほうだったんです。相手はNHL選手だったので、自分の力がどれくらいなのか、出てみたかったという気持ちもありました」
最終戦のイギリス戦。古橋はデンマーク戦に続いて、1点差に迫る2点目を挙げた。DF佐藤大翔(栃木日光アイスバックス)がゴール裏を通してパスを送り、それをゴール右でフリーになった古橋がシュートしたのだ。
「相手DFとの駆け引きで勝っていたので、仮にですけど、リバウンドが出ても入っていたと思います。試合は2-3で負けたんですけど、次の世界選手権に向けていいアピールができたと思います」
12月の全日本選手権は日光が開催地。バックスとして「初の地元優勝」を狙っている「代表は旬な選手を連れていけばいい。ベテランに対しても失礼だと思います」 オリンピックは古橋にとって、また日本代表のメンバーにとっても、またしても「遠くにあるもの」になってしまった。
「行ってみたいですけどね。最初は札幌オリンピックもあるって話で、昔は目指していたんですけど」
「次の4年後を考えて、代表は若返りを目指していくんでしょうか。でも、ディビジョンⅠのグループAに上がって、それに選ばれないのは自分でも後悔してしまう。日本代表は一番、旬な選手を連れていけばいいんです。そうしないと代表のレベルが落ちちゃうし、若い選手が僕らを食って、初めて世代交代でいい。ベテラン選手に対しても失礼だと思うんですよ」
言いたいことを言っているように見えて、古橋の弁は的をえている。話を聞いていると言葉の端々に「俺たちはプロだ」というプライドを感じるのだ。
「代表合宿は今のままで十分だと思います。それよりも、外国のユニフォームにはスポンサーがついているじゃないですか。なんで日本代表はそうではないのかなと。アジアリーグも、入場料が3000円だったら3100円にして、100円を代表強化のために使えばいい。選手の側からはちょっと言いにくいんですが、ビジョンとかアイデアはあるんです。でも、僕らが言ったところで変わらないでしょうけど」
プロとして物を考え、プロとして動く。「これが俺たちの仕事だ」という誇りにほかならない。
「目の前に試合があって、見に来てくれる人がいる。僕らは、やるだけじゃないですか」。12月、地元・日光開催の全日本選手権。古橋はそこでプロらしい「勝負」を演じ切れるだろうか。古橋の日本代表ストーリーは、まだ終わっていないように見えるのだ。
古橋真来 ふるはし・まくるH.C.栃木日光アイスバックス、FW。栃木県日光市出身。日光小、日光東中、日光明峰高から中央大学に進学し、アイスバックス入り。1年目からチームの主力として活躍する。日本代表としても高校時代から、マーク・マホン元代表監督からの評価が高かった。昨季は全日本選手権で優勝し、自身はベスト6。実家は日光市内で「けんちん汁 古はし」を経営し、選手も午前中の練習が終わった後に訪れている。