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2024-12-03

【連載 泣き笑いどすこい劇場】第28回「意地」その1

平成19年夏場所8日目、ついに対安美錦戦の連敗を11で止めた高見盛。胸を張って引き揚げた

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もうすぐ新しい年が始まります。
来年こそ、新天地の開拓を、あるいは心ひそかに念じている目標達成を、
と思っている人も多いのではないでしょうか。
なるか、ならぬか。
カギを握るのは意地です。
意地とは心意気、もっと踏み込んで言えば、思い入れ、こだわり、執念、粘りのことです。
勝負に生きる力士たちの意地もなかなかのものです。
そんな者同士がぶつかり合うのだから、意地の突っ張り合いも並大抵ではありません。
ときには突っ張りすぎて脱線転覆することだってあります。
そんな面白エピソードを。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。

チクショウー!

苦手、というのは誰にでもいる。

平成25(2013)年初場所、力士生命の土俵際に追い詰められていた高見盛(現東関親方)にとって、平成12年名古屋場所に一緒に入幕した安美錦(現安治川親方)は、それこそ顔も見たくない天敵だった。なにしろ入幕した場所の6日目に寄り倒して勝って以来、手も足も出なくなったのだ。

平成19年春場所7日目も頭をつけられて食い下がられ、腰が伸び切ったところを右からの外掛けで仰向けにひっくり返された。これでなんと7年越しの11連敗だった。目も当てられない完敗に肩を落とし、深々と下をうつむくおなじみの負けポーズで引き揚げてきた高見盛は、

「しつこい、しつこい。チョコチョコして嫌な相撲ばかり取ってくる」

とブツブツ。そして、悔しさまぎれにこんな本音も吐いた。

「嫌いだよ、だからプライベートでもできるだけ会わないようにしているんだ」

坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、ということわざがあるが、さしずめこれは、土俵の苦手は私生活でも絶交、と言ったところだ。人生のすべてを投げ売って闘っているだけに、力士の心のうちはこんなものかもしれない。

高見盛がこの安美錦を寄り切ってようやく連敗にピリオドを打ったのは翌夏場所8日目のことだった。今度は顔を大きく上げ、大手を振って引き揚げてくると、

「うれしいな。ずっと胸の中に刺さっていたトゲがやっと取れた感じだ。これでこれからもやれる自信がついた」

とニコニコ顔だった。ちなみに、12連勝を阻止された安美錦はこの翌日、こう言って悔しがっている。

「夕べはあまり眠れなかったよ。アイツ(高見盛)の笑っている顔が目に浮かんでさあ」

新たな意地の誕生だ。だから、毎場所、同じ相手との対戦でも新鮮に映るのかもしれない。

月刊『相撲』平成25年2月号掲載

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