1月号の特集は「『ポケット』の攻略法」。取材歴30年以上のサッカージャーナリストが、「ポケット」という言葉が日本を含む世界中に広まった背景と、イングランド・プレミアリーグなどで見られた、ポケットの攻略における優れたプレーを綴る。
今回は、実際にクラブチームがどんな動きで崩しているのか、具体的な崩し方について公開する。
文/北條聡(サッカージャーナリスト)
(引用:『サッカークリニック 2025年1月号』【特集】今こそ知りたい!「ポケット」の攻略法PART1:プレミアリーグなどに見るポケットを攻略するためのトレンドより)
|相手のサイドバックはつかまえにくい
では、具体的にどんな崩し方が存在するか。デブライネのくだりで触れたオーソドックス(標準)な型を含む4つのパターンを探ってみたい。まずは、現時点で最も盛んに使われているもの。ポケットを攻略する典型的なパターンとして、例として取り上げたのは、今季のUEFAチャンピオンズリーグ(以下、CL)におけるライプツィヒ(ドイツ)とリバプール(イングランド)の一戦でのゴール(図2)だ。27分にリバプールが左ポケットをものの見事に攻略して、決勝ゴールを手繰り寄せている。
図2 (Photo:Getty Images)左の大外で相手のサイドバックを引きつけたFWコーディ・ガクポが、内側から追い越してポケットに走り込む左サイドバックのコスタス・ツィミカスへパス。ライン裏でパスをもらったツィミカスのクロスをFWモハメド・サラーが頭で折り返し、これに素早く反応したFWダルウィン・ヌニェスが難なく押し込んだ。
この事例が物語る通り、守備側にとって、ポケットへの進入を試みる相手チームのサイドバックはつかまえにくい。理由は単純明快。彼らをマークする選手が総じてウイングになりやすいからだ。
そもそも、攻撃の局面で力を発揮するウイングが自陣の深い位置まで戻って守備に関わるのは簡単ではない。そこで彼らに代わって、セントラルMFがサイドバックをつかまえに行くと、今度は相手MF陣のマークが外れる。その意味では、激しいアップダウンを苦にしない旧型のサイドバックにポケットを狙わせるのは、理に適っている。
当然、リスクもある。攻撃途中でボールを失えば、ガラ空きとなったサイド裏は格好のターゲットにされる。それを嫌うなら、マンCのようにデブライネらのインサイドMFをポケット進入の主要キャストに据えるのが好ましい。
続いては、相手チームのサイドバックを外側で釘づけにする役割を担ったウイングが自らポケットに進入するパターンだ。
切り取ったのは、今季のCLにおけるスポルティング(ポルトガル)とマンCの一戦(図3)。65分にワイドのスペースでボールを持ったマンCのMFベルナウド・シウバが、中央に陣取るMFマテオ・コバチッチにボールを預けると、迷わずポケットに進入。コバチッチからのリターンパスを拾い、巧みな切り返しから左足でシュートを放った場面だ。
図3 (Photo:Getty Images)例のコバチッチへパスが渡った瞬間、B・シウバに対する守備側のマークが外れている。興味深いのはウイング(=B・シウバ)のインサイドへの切り込みが、一時的に守備側の渋滞(選手同士の重なり)を引き起こし、マークの受け渡しを含む対応を難しくしたことだろう。実際、守備側の足が止まっていた。
空白地帯を狭めかねない内側への切り込みは本来、ポケットの攻略におけるNG行為。その意味ではレアケースに近いが、崩しのからくりを解けば、あえてセオリーを外すことのメリットが十分に見てとれるはずだ。
|5バックへ切り換えるチームが増えた次も、変則的なパターンに数えられるかもしれない。例として取り上げたのは、今季のイングランド・プレミアリーグにおけるチェルシーとブライトンの一戦でのゴール(図4)。41分、チェルシーのMFコール・パーマーがボックス手前の中央から左のポケットに向かって斜めに走り込み、FWジェイドン・サンチョのスルーパスを豪快にねじ込んだシーンだ。
図4 (Photo:Getty Images)ボール保持者(=サンチョ)は左のハーフスペースにいた。とはいえ、重要なのはブライトンの右サイドバックが外側のスペースにつり出されていたことだ。拠点がどこであれ、肝心の穴さえ開いていれば、十分に攻略できる見本と言えるだろう。
これまでの図2から図4と大きく異なるのは、逆サイドのポケットを狙ったものだ。一例として選んだのは、今季のプレミアリーグにおけるアーセナルとサウサンプトンの一戦でのゴール(図5)。68分、左のポケットでフリーとなっていたFWガブリエウ・マルティネリが、FWブカヨ・サカが繰り出した右からのクロスを押し込んだ。
図5 (Photo:Getty Images)相手側が守備ブロックをボールサイドにスライドさせれば、逆サイドのポケットは空白地帯になりやすい。マルティネリの決勝点がそれを雄弁に物語っている。例によって、カギを握るのはタイミングだろう。このパターンの場合、クロスを放つトリガーは守備側がラインアップ(最終ラインの押し上げ)を試みた瞬間となる。後方へのドリブルやバックパスを意図的に仕掛ければ、守備側のラインアップを誘発しやすい。
ポケットの攻略が定番となった現在では、4バックから5バックへと舵を切り、ハーフスペースの監視を強化するチームが少なくない。実際、今季のJリーグを見てもシーズン途中に5バックへ切り換えるチームが格段に増えた。
攻撃側が5つのレーンに残らず刺客を立てれば、4バックの守備側は常に数的不利(4対5)にさらされるなど、リスクが大きい。ただ、やり方次第では4バックでも十分に守れるはず。基本、両サイドバックを内側にとどめ、両サイドMFにワイドのスペースを守らせる手法がその1つとなる。
いずれにしろ、ポケットをめぐる熾烈な攻防はこの先も続くだろう。とりわけ、Jリーグではまだ発展の余地がある。その意味でも創意工夫を施したいところだ。
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