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2024-11-29

【サッカー】サッカーにおける状況判断の重要性 森保ジャパンのアタック陣から見る、優れた判断の土台となる技術

【2024年 北中米ワールドカップ・アジア最終予選/バーレーン対日本】64分:相手背後のスペースに走り込み、アシストした三笘(Photo:Getty Images)

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試合を決めるゴールに、勝敗の行方を左右するプレー。記憶に残るシーンが生まれた背景には、選手たちの卓越した状況判断があった。取材歴30年のサッカージャーナリストが、状況判断に優れたシーンを振り返り、彼らが持つ共通点を綴った特別コラムを3回に分けて公開する。
第3回であるこの回では、森保ジャパンのアタック陣を例に、技術の幅がどう判断の土台になるかを解説する。
(引用:『サッカークリニック 2024年12月号』【特集】図解つき!サッカーの優れた状況判断PART4:特別コラム 状況判断に優れたフットボーラーたちより)

文/北條聡(サッカージャーナリスト)

|モダンフットボールにおける司令塔は今やセンターバック

もっとも、モダンフットボールにおける司令塔は今やセンターバックと言っていい。強豪チームが擁する彼らの立ち回りは、それこそアメリカンフットボールのクォーターバックに近い。本業の守備ばかりか、攻撃の初手となるビルドアップの局面でも極めて重要な存在となっているからだ。

とりわけ、スペイン勢はモダンなセンターバックの宝庫。この夏のEURO2024を制したスペイン代表のアイメリク・ラポルト(アルナスル=サウジアラビア)とロビン・ル・ノルマン(アトレティコ・マドリード=スペイン)のペアはもちろん、パウ・トーレス(アストン・ビラ=イングランド)も実力者で、スキルの高さが際立っている。

ライン間(守備側の中盤ラインと最終ラインの間)で待つ味方に縦パスをつけたかと思えば、最奥のライン裏へ走る味方に向けて、タッチダウンバスを繰り出すことも。また、ワイドに大きく張り出す味方を目がけて、高速の対角パスを放つのもお手のものだ。さらにつけ加えると、前方にスペースがあれば、ドライブ(ドリブルでの前進)を試み、やすやすとビルドアップの出口をつくり出す。

そもそも全軍(相手と味方の位置関係)を見渡せるポジションで、なおかつ相手のプレスはほぼ前からしかない。いつ、どこへ、どんなパスをさばくか、端から判断する際に有益な情報を集めやすい利点があるわけだ。それを活かしながら、幅と深さを意識したビルドアップのオプションを判断よく使い分けている。

近年、日本においても冨安健洋(アーセナル=イングランド)を筆頭に、伊藤洋輝(バイエルン・ミュンヘン=ドイツ)や板倉滉(ボルシアMG=ドイツ)らの適材が続々と台頭し、日本代表を格上げする動力源となっている。余談ながら、この3人にはボランチからの転向組という共通点があり、ビルドアップにおける判断と技術に優れているのも納得がいく。

|技術の幅が判断の選択肢を増やしている


左サイドからのカットインと縦突破をうまく使い分ける中村。日本代表において、三笘とポジションを争う存在だ(Photo:Getty Images)

技術の幅が優れた判断の土台となっているという意味では、森保ジャパンのアタック陣も例外ではない。とりわけ、左ワイドで躍動する三笘薫(ブライトン=イングランド)と中村敬斗(スタッド・ランス=フランス)の2人は象徴的存在かもしれない。

何しろ、ひとたびボールを持てば、縦突破を狙って良し、カットインを試みて良し。当然、守備側は最初の段階で彼らの狙いを絞り込めない。縦突破一辺倒やカットイン一本槍という特化型とは明らかに違うからだ。

例えば、相手が5バックでがっちりと守っている場合はガンガン縦に仕掛ける。それというのも、ゴールをめぐる攻防は「5対5」の同数で、1人かわせば、ドミノ式に相手のマークがずれる。その結果、ゴール前で待つ味方の誰かがフリーになりやすいわけだ。

10月15日に開催された北中米ワールドカップ・アジア最終予選のオーストラリア戦(△1-1)における同点ゴールは、これに近い。左サイドを縦に切り裂いた中村の鮮やかな突破からの折り返しが守備側のオウンゴールを誘っている。

中村の売りと言えば、鋭いカットインと、したたかにネットを揺らす得点力。だが、縦に仕掛けて決定機をつくり出すだけの才覚も十分に備わっているわけだ。

日本人アタッカーの中では別格の実力を誇る三笘以外にも卓抜したスキルを持つ左ワイドの適材がいるのだから、何とも贅沢な時代である。無論、当の三笘にも触れないわけにはいくまい。

いつ、どこで、どのようにパスをもらい、仕掛け、ラストパスを送るか、あるいはフィニッシュに持っていけば良いか。一連のアクションにおける判断と技術は、ワールドクラスに近い代物だろう。

1度、うしろに下がり、守備者がつられて前に出てきた瞬間、一気に背後へ走って、パスを引き出す《チェックの動き》もタイミングが絶妙だ(図3も参照)。

図3:ラインの裏へ走ることによって、足元ではなく、スペースでボールをもらおうとした三笘の判断が光った。これにより、たった1本のパスでバーレーンの最終ラインをブレイクするに至った。
図3
※図3の解説はこちら

先に触れた縦への突破とカットインの二択も、敵味方の位置関係や戦況に基づいて、冷徹にジャッジを下す。私利私欲とは無縁なのだ。

また、技術の幅が判断の選択肢を増やしている点では多彩なラストパスも同じ。縦に深々とえぐってからのカットバックに加えて、敵の虚を突くアーリークロスまである。何の前触れもなく、右足のアウトでボールを押し出すから、守備側はお手上げだ。

無論、多彩の意味はパスのアングル(角度)だけにとどまらない。ボールを浮かせるのか、転がすのか。手前か、奥か。速いか、遅いか。高低から距離、速度に至るまで、自由自在にカスタマイズされる。それも、どんなラストパスが最適かを絶えず考えながらプレーしていることの証だろう。

当たり前のようにも思えるが、その実は肝心な場面でアバウトな判断を繰り返し、好機を逃す選手もいる。そもそも適切なジャッジを下すだけの余裕がないからだろう。いかに技術の幅を広げ、有益な情報を手にするかが、優れた判断の出発点かもしれない。

『図解つき!サッカーの優れた状況判断PART4:特別コラム 状況判断に優れたフットボーラーたち』を掲載した「サッカークリニック2024年12月号」は
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