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2025-01-13

【相撲編集部が選ぶ初場所2日目の一番】すべてを注ぎ込み執念の1勝。照ノ富士が背中で見せる「綱のプライド」

下半身の不安がありながらも、自分から動き続け、最後は万全の寄りを見せて白星を挙げた照ノ富士。横綱を支えてきた気持ちの強さと執念がそこに垣間見える

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照ノ富士(寄り切り)隆の勝

まさに必死。なりふり構わず、自分のできることをすべて注ぎ込んで、一つの白星を手にした。
 
初日に敗れていた横綱照ノ富士が、昨年名古屋場所の優勝決定戦以来、約半年ぶりの白星を挙げた。相手は同じ隆の勝。しかしその1勝の意味合いは全く違っていた。
 
白星をつかみ、支度部屋に帰ってきた横綱は、激闘の余韻が残る荒い息の中、こう吐き出した。「今場所、自分の中でやれることをやって、ダメだったら、という思いはあったんで。一つ自信になりました。きのう、自分で変なこと(おそらく立ち合いの引っ掛け狙い)を考えて、すごく悔いが残っていた。今までの自分の相撲を、もう一回やりたいと思っていた。今場所で自分のすべてを出し切って、後先を考えずにやりたいと思っていた」
 
この日の相撲は、そんな思いがすべて凝縮されたような、執念の感じられる一番だった。
 
立ち合い、きのうとは打って変わって思い切り当たっていったが、それでも相手をはじき切れず、モロ差しを許した。いったん後退したが、体調面から言っても長い相撲にはしたくない。とにかく攻勢をと右から絞りながら抱えて出るが攻めきれず。それでも右四つに持ち込み「攻めるのがちょっと遅かった。廻しを取られてしまった」と隆の勝に悔やませた左上手に手を掛けた。続いて相手が巻き替えに来たところを出るが、これも攻めきれず、今度は左上手からの投げ。これも強引すぎて決まらず。ただその直後、相手が掬い投げにきて空間ができたところでサッと右を入れることに成功し、そこからは四つに組み止め、腰を落として寄り切った。

今場所、不安視される下半身は、どこまでの動きについてこられるか分からない。それでもとにかく、自分から動いて、できる攻め手を繰り出し続け、手にした白星だった。
 
昨年は6場所のうち、途中休場を含め4場所が休場、しかし皆勤した2場所はともに強さを見せ、優勝を飾った照ノ富士だが、今場所は明らかにちょっと事情が違うように見える。お尻の肉もやや落ちたような印象があり、全体的な力強さ、そして下半身の動きは、昨年出場してきたときのレベルには達していないように見える。
 
このところ休場が多いとはいえ、まだ横審など、周りから進退どうこうまで論じられている立場ではなく、もう一場所休む、という選択肢も、取ろうと思えば取れたかもしれない。それでもこの体調で、今場所、出場に踏み切ってきたのには、やはり横綱なりの何らかの思いがあったのではなかろうか。
 
本人のコメントが取れてはいないので、これは筆者なりの推測だが、思うに、琴櫻、豊昇龍の2大関が綱取りをかける今場所、「そこに俺がいなくてどうする」という思いが、横綱にはあるのではないかと思う。「綱を張るなら、俺をはっきり越えていけ」という、角界の第一人者のメッセージを、そこに見る気がする。
 
今の照ノ富士の状態を見ていると、優勝云々どころか、今場所何勝できるかも分からない、と思うし、綱取り大関との直接対決のある終盤までしっかり土俵に立っていられるかも分からない、とも思う。だがそれでも、この一番に懸けた冒頭の思いと熱を聞けば、長く一人横綱として角界を支えてきた、その自信と気概とプライドには、やはりまだ大関陣と一線を画するものがある、と思わせられることも確かだ。その姿は「横綱とはこうしたものだ」と綱取り大関2人、さらには将来の横綱が期待される大の里に、背中で示しているようにも見える。
 
この日は、豊昇龍が好内容で連勝と星を伸ばした一方で、琴櫻が阿炎の突きにあえなく後退して早くも1敗。取組後は小さな声で「負けは負けなので、また切り替えます」と一言、二言発したのみで、気持ちの整理がつかないことは明らかだったが、まだ2日目。あす以降、踏ん張って、横綱となるにふさわしい、先輩横綱に負けないだけの気持ちの強さを見せられるか。真価を問われるところとなりそうだ。

文=藤本泰祐

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