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2017-07-10

“WWEスーパースター”イタミ・ヒデオは、なぜほろ苦い初凱旋試合だったのか?

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待望の日本公演で初日は敗北、2日目は屈辱の無効試合

 WWE日本公演6・30&7・1両国2連戦が終わった。今年最大のトピックスは、目玉だったイタミ・ヒデオの初凱旋試合がほろ苦く終わったことである。
 初日はWWEユニバースのクリス・ジェリコ人気に圧倒された上での敗北。試合後〝Y2J〟から「未来のNXTチャンピオンだ」との称賛を得たが、凱旋試合を白星で飾れなかった。特に2日前のシンガポール公演では同一カードで勝っているだけに、ヒデオファンとしては「なんで日本では負けるんだ!」と地団駄を踏むしかなかっただろう。
 2日目はエンツォ・アモーレとのシングルに出場したが、ビッグキャスの乱入で無効試合に。ヒデオはスポットライトが当たらない暗闇の中をひっそりと引き揚げるしかできなかった。まさに屈辱の極みだ。
 現在のヒデオはWWE第3ブランドのNXTでもがき苦しんでいる。5月に中邑真輔がベルトを明け渡したボビー・ルードのNXT王座に挑戦したが敗北。その後、自身へのいらだちから狂暴性を増したファイトを見せ、WWEユニバースから「やりすぎだ!」というブーイングも浴びている。
 そんな中での日本凱旋だ。ヒデオに与えられたのは初日の第1試合、2日目の第3試合。結果は前述の通り。個人的にはNXTでの現状がそのまま表現された形だと思う。
 確かに日本凱旋でKENTA時代のようなスカッとしたファイトを見せてほしかったし、本人もそうしたかったはずだ。だが、現実としてできなかったし、させてもらえなかったことがすべてだった。
 WWEは3年ぶりに母国で試合をするからといって、簡単に花を持たせるほど甘いリングではない。本人とファンにとっては非常につらい現実だったが、決して落胆ばかりだけではないと映ったのは私だけだろうか。
 というのも、ジェリコ戦は去年の中邑真輔や、一昨年のフィン・ベイラー(元・新日本のプリンス・デヴィット)のように大会の〝いい試合枠〟と言われるセミファイナルで組まれていてもおかしくなかった。それならば、ヒデオの凱旋試合もおそらく「おかえり」という感じになったかもしれない。

WWE日本公演は単なるハウスショーではない

 では、なぜそうならなかったのか。その答えは簡単。ヒデオの現状を注目された初の凱旋試合で日本のファンに現実のものとして目の当たりにしてほしかったからだ。
 ハウスショー限定で祝福ムード満載の凱旋試合に仕上げるのではなく、あえて現状を…要するにヒデオがもがき苦しんでいる姿をリング上から提供したのである。それこそWWEが日本というマーケット、プロレス文化を大切にしている表れ。
 すでに日本公演は単なるハウスショーの1つという認識ではないのは近年の公演を見ればわかる。一昨年はベイラーが感動のNXT初戴冠を果たし、昨年12月は中邑がサモア・ジョーに奪われた同王座を奪還した。
 ハウスショーでベルトの移動劇が起こるのは異例中の異例(7・7マディソン・スクエア・ガーデンでAJスタイルズがケビン・オーエンズからユナイテッド・ステーツ王座を奪ったばかりだが)。それが2年連続で起きていたのだ。
 今回、ヒデオのほろ苦い凱旋試合はそんな異例の一環だったと個人的には解釈している。つまり、WWEは日本人スーパースターの〝カムバックストーリー〟序章部分を母国のファンへライブで提供したと考えられなくもない。
 3年前、ヒデオはハルク・ホーガン立ち会いのもとで契約し、ベイラー、ケビン・オーエンズ、ネヴィル、サミ・ゼインと並んで「WWEの未来」と紹介された。現在、ほかの4人はトップ戦線で活躍中だ。
 ヒデオは左肩や首の負傷によって合計1年半もの間、無念の欠場を強いられた。WWEで本領を発揮できずに大きな結果こそ出せていないが、復帰後、NXTで常にTV放送マッチが組まれているので、期待感が下がったわけではなさそうだ。
 陽は沈んでもまた昇る。明けない夜はない。暗くて長いトンネルを抜けた後には、イタミ・ヒデオの輝かしい栄光が待っている。

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