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2025-03-13

【サッカー】俺たちのトレーニングプランJクラブ編:ギラヴァンツ北九州 後編

(Photo:©GIRAVANZ)

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サッカークリニック4月号の特集「新時代のトレーニング計画法」の中から、今回はJクラブの取り組みを前・後編に分けて紹介する。J3優勝とJ2昇格を目指し、2025シーズンを戦っているギラヴァンツ北九州では、どのようなトレーニング計画で、強化が進められているのか? このチームを率いている増本浩平監督は、育成年代の指導経験が豊富だが、トップチームを率いる今、一週間のプランニングの仕方などの指揮官の考えは?多岐にわたって迫る。
後編ではトレーニングの計画の決め方や、実際のトレーニング内容について迫る。

取材・構成/土屋雅史

(引用:『サッカークリニック 2025年4月号』- 【特集】新時代のトレーニング計画法 PART2:俺たちのトレーニングプラン-より)

|「立ち上げ」「追い込み」「戦術」「セットプレー」

─長期計画で考えると、プロクラブとしては、フィロソフィーのような部分が関わってきそうですが、その点は意識しますか?

増本 僕は意識しています。北九州はこういう地域で、こういうチームで、こういう生い立ちがあって、だから、こういう考え方の基準があったほうが良いんじゃないかみたいなことは、すごく大事。どういうフットボールが北九州の人たちに愛されるのかを考えています。

現在、クラブは、「ハイインテンシティー」「ハイポゼッション」という標語を掲げた上で、そこを目指してやっています。その中で、「増本さんに監督をやってほしい」という話だったので、そこは、僕が監督として果たすべきミッションだと思います。ただし、(仮に)3年の複数年契約があったとして、3年目から逆算しても、目の前の1年がダメだったら、僕らに3年は与えられません。長期計画をなかなか立てづらい仕事なのかなと思います。

とはいえ、クラブとして、目指すところがあるので、そこに対して、自分がコミットできることを意識するべきです。監督の仕事は、やりたいことだけやって、ダメならダメで良いじゃんというようなものではないのかなと思います。クラブがそこにある理由が絶対にあるはずなので、それを大事にしない限りはうまくいかないんじゃないかなという考え方でいます。

ただ単に勝つだけで応援されないというのでは、意味がありません。愛されて応援されるチームにしていくべきで、なぜ応援されるのかという部分は、地域性とかクラブの生い立ちが大事になると思います。

─試合に向かうにあたっては、目の前の1週間が重要ですが、増本監督は、トレーニングの週間計画をきっちりと決めるタイプですか?

増本 ほぼ決めます。4日間の準備期間で進めたいと考えていて、「立ち上げ」「追い込み」「戦術」「セットプレー」という流れをあまり崩したくありません。流れを変えずに、その中でやることを変えるイメージです(表参照)。


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もちろん、3日間で準備しなければいけない場合がありますし、中2日のケースもあります。そういうときは時間が明らかに足りないわけですが、4日間というのが、自分の中で考える良いサイクルです。

─トレーニングの目的や到達するべきポイントなどは、選手とどこまで共有するものですか?

増本 明確にするときもありますが、しないときのほうが多いと思います。どちらかと言うと、エコロジカルにやりたいですし、全部ははっきりと伝えないところがあります。

去年(2024年)は、制約主導で引っ張り出すところを意識してもらいました。今年は、「トレーニングを考えてね」と伝えた上で、出してきたメニューに対して、「ああだね」「こうだね」と言いながらやっています。

その中で気になったことや、これはちょっとずれそうだなと感じることがあったら、僕が話します。たまに話すほうが、選手は、「あっ、マスさんが何か話してる」みたいな感じで聞いてくれます。そのあたりも、みんなでやる良さかなと思います。

トレーニングをコーチに任せながら、1歩離れて見ると、選手のいいところが多く見える気がします。選手に対しては、ここに立ってほしかった、でも、その判断は面白いと感じることがあります。そのつながりが見えると、そんなことできるのかみたいな発見が、すごく多くなります。

|具体的に何を練習するかは直前まで決めない


ギラヴァンツ北九州は2月22日に今季初戦を迎え、AC長野パルセイロに2-0で勝利を収めた(Photo:J.LEAGUE)

─1日のトレーニングセッションについてですが、どのあたりのタイミングで内容を決めますか?

増本 時期にもよりますが、プレシーズンは理想に向かって準備できる期間ですし、週末のトレーニングマッチにしても、やりたいことを優先できます。そのため、あしたはこれをやりたいなと思ったりすることがあります。一方で、試合期はやらなければならないことが増えます。1つの試合が終わった瞬間から、次の試合までのおおまかなスケジュールを考えます。でも、具体的に何を練習するかは、直前まで決めていません。

例えば、次の日がリカバリーであれば、リカバリーの前に映像を見直してから、トレーニングをやります。次の日がオフだったら、オフ中に映像を見返してから、「どういうところが気になった?」みたいな話をコーチにした上で、「じゃあ、こういうテーマでトレーニングを考えてね」という形が、去年は多かったです。

次の試合までの準備は、「振り返り」「改善」「フィジカル」「対戦相手」という風に、だいたいが決まっているので、それに合わせて考えます。

─1日のセッションの遂行度を100パーセントで考えた場合、何パーセントくらいまでできたら許容できますか?

増本 50パーセントくらいです。でも、コーチたちがどういう考えでそのトレーニングをやったのかという背景は、僕には見えないところ。それなのに、そこを全部バツにしてしまうと、信頼関係が損なわれます。それだったら、僕の中では50パーセントでも良いかなと思うんです。

僕の中では50パーセントでも、コーチの中100パーセントなら、向かっていくところとしては問題ありません。あとは、負荷のところがちゃんとかかっていれば、ゲームに向かう最後のところに持っていけると思います。

─ついつい、自分でトレーニングをやりたくなったりしないでしょうか?

増本 何か面白いことを思いついたら、「こういうこともできるんじゃない?」とコーチと共有することがあります。必要によっては、自分がやることもあります。ああ、これはもう自分がやらなければいけないなという日があって、そこでたまにやると、新鮮かもしれません。選手としては、あっ、きょうの監督はやる気だぞとなるはずです。慣れが1番こわいですし、空気感がちょっと変わるのは大事なことだなと思います。

自分でやりたくなることは、たまにあります。コーチにお願いしている以上は、基本的に自分ではやりませんが、トレーニングをiPadに書きためてはいます。

時代が進化する中で、僕よりも若くて優秀な指導者が、たくさん出てきています。自分が全体をコントロールしながら、その人たちがトレーニングをやれば、もっと旬なものを選手に与えられるかもしれません。

立場が変わって、僕がトレーニングする側の人間にもどる可能性だってあります。ですから、僕は、学ぶことをやめたくありません。こんなのが面白そうだなということは、学びの1つとして、常に考えています。



増本浩平
(ギラヴァンツ北九州監督)
PROFILE
ますもと・こうへい/ 1982年7月11日生まれ、神奈川県出身。ガイナーレ鳥取でプレーした2008年のシーズンを最後に、現役から退いた。09年に横河武蔵野FCジュニアユースのコーチに就任、11年から同ユースの監督を務めた。17年に松本山雅FCに移り、U-15チームの監督やトップチームのコーチなどを歴任。21年から鳥取でヘッドコーチの任にあたり、23年のシーズン途中からチームを率いた。24年から、ギラヴァンツ北九州の指揮官として、采配を振る(Photo:©GIRAVANZ)

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