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2025-03-24

【サッカー】全国屈指レベルの大学の下部組織、小学生たち[U-12チーム]のトレーニング計画とは。俺たちのトレーニングプランジュニア編:クラブ・ドラゴンズ柏U-12 前編

2024年度全国高校サッカー選手権大会決勝のピッチに立った流通経済大学付属柏高校の幸田爽良(13)のように、全国の舞台で活躍できる選手を育てていく(Photo:小山真司)

チームは生き物。選手たちの変化を見ながら、その都度、設定を変える必要がある

流通経済大学と流通経済大学付属柏高校の下部組織として、2010年に設立されたのが、クラブ・ドラゴンズ柏だ。U-15チームに続く形で、21年にはU-12チームがスタートし、小中高大の一貫した指導体制ができあがった。数々のタイトルを獲得するなど、全国屈指のレベルを誇り、何人ものプロ選手を輩出してきた大学と高校の存在がある中、U-12チームを率いる稲垣雄也監督は、どのようにしてトレーニングを計画し、選手たちの指導にあたっているのだろうか?
前編と後編に分けてすべて公開する。
前編となる今回は、計画方法と重視するポイントを聞いている。

取材・構成/松尾祐希

(引用:『サッカークリニック 2025年4月号』-【特集】新時代のトレーニング計画法 PART2:俺たちのトレーニングプラン-より)

|人生経験が浅い分、メリットがある


クラブ・ドラゴンズ柏U-15(Photo:松尾祐希)

─トレーニングの計画方法を教えてください。


稲垣 サッカーと一緒で、ゴールから逆算して、計画を立てます。長期、中期、短期に分けて立てるのが大切。ただし、長期のプランを練る際は、次のカテゴリーにつなげることはもちろん頭に入れながら、選手たちを見て、ジュニア年代でどこまで引き上げられるかを想定して考えていきます。

ここまでできれば良いよねとか、大会で勝ち上がるための基準とかはありますが、たどり着けないことやもっと先まで行けることがあったりします。チームは生き物。選手たちの変化を見ながら、その都度、設定を変える必要があります。逆算で物事を考えますが、設定は変わると感じています。

─ジュニアユースやユースの年代に対する場合とジュニア年代に対する場合では、考え方は違いますか?

稲垣 違いはあるかもしれませんが、考えようによっては、小学生のほうが中学生や高校生よりも積極的に取り組んでくれるとも言えます。経験値が少ない分、純粋な気持ちを持ち合わせているケースが多いからです。

メンタル面を考慮して、こちらからコントロールすることも考えますが、何も考えずに突っ走れますし、その分、思いきりやってくれます。まだ人生経験が浅い分、知識や知恵は蓄えられていませんが、だからこそのメリットがあるのではないでしょうか。それに、クラブ・ドラゴンズ柏U-15という上のカテゴリーがあるので、昇格したいというモチベーションや意欲があります。

人間なので、多少の浮き沈みはあると思いますが、メンタルが著しく下がって、全然取り組めなくなるみたいなことは、チームを立ち上げてから、すごく少なかったと思います。

─小学生は純粋無垢だからこそ、伸びしろが大きいということでしょうか?

稲垣 小学生ならではの良さです。そこに対して、指導者がどういう刺激を入れてあげるかが大事で、かなり気を遣っています。

何かのきっかけをつくれたら良いなと思うので、いろいろなアプローチをしています。厳しく言うこともあれば、何も言わないこともあります。

─長期的な計画を立てる際のポイントは、人を育てるというところがメインになるのでしょうか?

稲垣 選手に伝えているのは、「サッカー選手は『サッカー×人間力』」ということです。今の世の中は厳しさの中で何かをやる環境が減っていますが、その中で自分を律することができる人間が、上に進めます。

(元プロ野球選手の)イチローさんが言っていたのですが、「他人が何かをしてくれないからこそ、自分でどうにかするしかない」んです。僕も、本当にそうだなと思います。ただし、間違ってはいけないのは、単純に厳しくすれば良いわけではないということ。自分を理解した上で、自分をコントロールして、高めていくしかありません。ジュニア年代ですべてできるわけではありませんが、きっかけをつくったり、準備をしたり、学んだりといったことはやっておくべきだと考えます。

|大事なのは、チームコンセプトからずれないこと

─サッカーに関する計画で心がけていることは何でしょうか?

稲垣 年間トレーニング計画の作成は、基本的に担当コーチに任せています。

まずは、チームのコンセプトをスタッフ間で共有して、そこから、各年代を担当するスタッフが、計画を練っていきます。大事なのは、チームコンセプトからずれないこと。ですから、「軸の部分からはずれないように」と伝えて、あとはスタッフの裁量に任せます。

アプローチのやり方を決める際に、みんなでディスカッションしますが、話した上で、みんなが納得すれば、どんなアプローチでも否定しません。仮にそこで答えが出ないようなら、もう1度、しっかりと話し合います。それを繰り返して、方向性を定めています。

─チームコンセプトで大事にしているのは、どんなことですか?

稲垣 原理原則のところにしても、個人戦術の部分にしても、積み上げて理解していくことが、大事になります。

学年ごとに切り分けると、6年生は、全日本U-12サッカー選手権大会がターゲットになります。他学年は、シーズン終盤にある千葉県大会が、目標の1つです。その中でチームとして決めているのは、公式戦でも、できる限り多くの選手を起用すること。特に最終学年になるまではそういう状況を多くつくるようにします。状況によっては、スタートのメンバーを意図的に2、3週間変えなかったり、逆に、毎日入れ替えたりする場合もありますが、あくまでも選手の状況を見て決めるという考え方です。受け止められるキャパシティーは選手によって違うので、柔らかく伝えたり、ストレートに伝えたりというのはありますが、いずれにしても、選手がどういう状況にあるかを優先的に考えます。

勝つことはもちろん大事ですが、それ以上に大事なのは、人としてもプレーヤーとしても成長することです。例えば、「絶対にかっこよくプレーしたい日があるよね」ということを話して、そこを目標に頑張っていきます。いわゆる、中期的な目標です。そのためにみんなで積み上げていきましょうというスタンスをつくって、そこで力を発揮するためには何が必要なのかを考えてもらいます。

プレーに関しては、ピッチで努力しなければいけませんが、ピッチに立ってトレーニングできる時間は、たかが知れています。プレーには人間力が出るので、生活の部分もしっかりとやらなければいけませんし、そうでなければ、良い振る舞いはできないと考えています。選手には、そういうことも伝えています。

(後編に続く)


稲垣雄也(クラブ・ドラゴンズ柏U-12監督)
PROFILE
いながき・かずや/ 1985年4月3日生まれ、千葉県出身。現役時代のポジションはGKで、流通経済大学付属柏高校卒業後、ウルグアイに活躍の場を求めた。帰国後、指導者に転じ、武相高校(神奈川県)を指導したあと、2008年に流通経済大柏のコーチに就任。本田裕一郎前監督や榎本雅大現監督を支え、中学生選手の発掘にも従事した。16年にジェフユナイテッド千葉の強化部に入り、スカウトとして、新卒選手の獲得に尽力していたが、21年4月にクラブ・ドラゴンズ柏U-12初代監督の座に就いた(Photo:松尾祐希)

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