上野勇希の指名を受け、3・20後楽園ホールでDDT UNIVERSAL王座を懸けて対戦する“プロレス王”鈴木みのる。これまで深い接点がなかった相手に対し、どこにやる意義を見いだしているのか聞いたところ「ほかの人とはまったく違う見方」で上野勇希という男を分析した。(聞き手・鈴木健.txt)
上野はちゃんとDDTの跡取りっぽい。ベルトの方から俺に寄ってきた ――上野選手にはその場にいない時に名前を出された形です。
鈴木 あれ、どこだっけか。大崎? 二人(MAO&上野)との対戦が楽しかったんだよ。MAOとは海外で一緒だったっていうのもあるけどこの二人、ちょっとおもしれえぞって思った。
――どういったところが面白いと思えたんでしょう。
鈴木 細かくは言えない。まあ、ちょっとうまく説明できないかもしれないけど、二人ともちゃんとしたDDTの跡取りっぽいなって思った。それは竹下からは感じなかったことで、そこに違いがある。竹下はもっと別のものを感じる。でも、あいつらからはあいつらの特別なものを感じる。それでMAOがやっているBAKA GAIJINっていう下北沢のちっちゃい飲み屋でやっているやつもちょっと関わりたいと思ったら話が来て、出ることになった(2024年9月24日、アントーニオ本多戦)。そういう中で上野が来たんで「おっ」と思って。これはもう、望むところ。
――名前を出された時点でピンと来たんですね。大崎のタッグマッチはMAO選手の凱旋試合でその日限りという趣きでしたが、続きがある予感はあったんですか。
鈴木 そういうのは、俺にはない。俺は常に一回限りのつもりでやっているから、次があったらいいなーぐらい。次に向けて動くのは俺じゃなく、団体側の人間の考えることであって。
――実際に上野選手の方が動きました。
鈴木 ほかの人間たちには感じないものを感じることができたんだろう。
――はい、そう言っていました。自分の方で今までとは違う痛みや辛さを味わいたくなったと。
鈴木 キ●ガ●っぽいじゃん、顔が。
――本人は否定していました。
鈴木 いや、違うな。巡り巡ってDDTから出てきた純粋培養…髙木三四郎とか男色ディーノ、アントーニオ本多とか、あれが俺の中のDDTだけど、みんな胡散臭いよな。でも、自分たちのプロレスを腐らずにここまで持ってきたのは間違いなく彼らであって、上野もそれを継いでいる感じがする。
――一般的には今あげた3選手は文化系プロレス、上野選手の代はアスリート系と別にカテゴライズされてきました。
鈴木 俺はほかの人と見方がまったく違うから。みんなあの人の髪型がカッコいいとか、最新のファッションをしているとか外側を見ているけど、俺は中を見るんで。誰を見てもプロレスの本質のところをさわっていない。ガワだけ変えて、流行のファッションをみんなでしているだけ。今、世の中では青が流行っているけど、俺も青だけどラメだよって言って着ているのが世界中にいるわけ。でも、そんなものは後ろから見たら全部同じ色だよ。何が違うかっていうのは、もっと中のものだから。
――痛さや強さや怖さを味わいたいと言われる側はどうなんでしょう。本来ならば避けられるものを逆に求められるわけです。
鈴木 今、それを求められているんだよ。殴られたいっていうやつらが来るんだから、意味がわかんない。
――上野選手以外にもそういう人種がいるんですね。
鈴木 世界中にいる。女子プロレスラーからも多いんだよ。なんでだろう?
――ほかにいないからじゃないですか。
鈴木 味わいたいって、そんなどっかの安っぽい漫画のセリフのようなものじゃないから。そんなこと考えなくたって、味わうも何もない。別にこっちが味わわせてやるなんて思わなくても痛いのは痛いんだから。
――意図してやるのではなく、闘えばおのずとそうなると。
鈴木 そういうのって、やる前から言い訳を聞かされているみたいで嫌なんだよ。
――彼としては本心なんでしょうけど。それが自分で動く動機になったわけですから。3・8横浜の前哨戦で肌を合わせた時は、そうした狂気性のようなものは感じられたんですか。
鈴木 それはやらなくても見ればいつも感じるけどね。狂ってんなーって。今風の一般的な見方をすると上野勇希っていうのはさわやかなんでしょ? で、俺はさわやかじゃなくて頭坊主でベテランで、おじさんで怖いっていうのが一般的な見方。そこもみんなと見方が違うんだよ。俺が見ているところは、言葉じゃないところで必ず人の心に伝わっているんで。ウチの店に来る人でもプロレス会場でも、俺のファンってこんなにちっちゃい子から60代まで、男も女もひっくるめて全員が人間として、男として見ている。存在として、ちょっと人と違うものは完全に持っていると思っている。
――DDT UNIVERSALのベルトに対する関心は持っていますか。
鈴木 勝ったらもちろんもらうよ。ベルトに興味ないとか、カッコつけていたんだろうなと思う、昔は。あいつが俺と闘うのにこれが必要だと思って、僕はこれを懸けるんで闘ってくださいということだから、ありがとうってもらう。そりゃあそうだ。興味がなかったらノンタイトルにしてくれっていうもん。それこそ全財産懸けますとか、僕の持っている車を懸けますって言っているのと同じなんで、もらいにいく。
――もらったあとのことは、まだ…。
鈴木 それはあとで考えることだけど、UNIVERSALというタイトルの性質も理解はしているつもりなんで。それを考えたら、ベルトの方から俺に寄ってきたんじゃないの?
強さや怖さは俺に勝ったぐらいじゃ手に入らない ――プロレスラーの強さや怖さは練習量が多ければまとえるものではないですよね。それを持ち続けられているのはどうしてなんだろうと、鈴木みのるを見続けていて思うことなんです。
鈴木 それはわかんないな。俺は発信しているけど、発信する側と受け取る側って、受け取る側のことをどう思いますかって言われても、それは受け取った人の都合なんだよ。ただ、それに関して言うなら俺に勝ったぐらいじゃ手に入らない。俺のデビューから通ってきた道の全部を手に入れられるわけがない。その日の俺しか手に入らない。でも今、俺が出しているのは、今までの鈴木みのるの道があって、その上に成り立っているものだから。
――やる前にこれを読んで得られないと知ったら、上野選手は落胆するかもしれません。
鈴木 その考え方が現代風だな。100連勝のやつとやって勝ちました、だから俺は101連勝の男ですとは言わないでしょ。俺と闘ったぐらいで、勝ったぐらいで手に入るようなものじゃないけど、それが入り口になるんじゃないの、上野にとっては。あいつがこれからなんの道を選択してどういう生き方をするのか知らないけど、触れなきゃ入り口に入ることはないから。
――DDTに限らず、上野選手と同じぐらいの世代の選手に共通しているものは何か感じますか。
鈴木 考え方がスマート。それがよい時もあるし悪い時もある。昭和の根性論だってそうでしょ。あの根性論のトレーニングをしていたから身についた心と魂があるんだけど、あれの悪いところもたくさんあるわけじゃない。それと同じだよね。考え方がスマートっていうのは、理解をするのが速い。言うなれば頭の中が電卓。今も何人か生き残っている昭和のおじさんレスラーは、ものを数える時にリンゴが1個、リンゴが2個、リンゴが3個って数えて、そのうち1個食べちゃいました。残り何個ですっていう数え方しかできない。そういう生き方をしてきているから。でも今の人たちは、ものすごく難しい複雑な計算を頭の中で数字を打って答えを出せる人間が多い。ただ、リンゴを1個、リンゴを2個、リンゴが3個、そのうち1個を食べることでしか得られない数え方っていうのもあるんだよ。それを今のやつらはまったく持っていない。運よく俺はリンゴを1個ずつ数えていた頃から電子計算機の時代までずっとココ(最先端)にいる。いつも最新型を手にしてきた。それは特殊だと思う。デビューしたばかりの頃は負けてばっかりだったけど、その時点での最新型を中にいれた。あの時代の最新型はUWFだったし、その後の格闘技だったり。
――スマートであれば、今回の対戦で100%かどうかは別として鈴木みのるを理解するでしょう。
鈴木 どうかな、周りが見ているような理屈で埋まるのかな、あいつは。たぶん、もっとバカな気がするんだよな。楽しそう、ただそれだけで来ている気がする。これは思い違いかもしれないけど、俺はあいつに対してそういう気持ちがある。それを言葉にすると「もっと痛いのをくれ」とか「もっとこうしたい」とか違う言葉になって出てきているだけなのかもしれない。
――楽しさは求めているでしょうね。プロレスをまったく知らなかった人間がこの道を選んだのも、そこがフックになっていたはずです。
鈴木 ウナギ(サヤカ)と一緒だな。あいつもプロレスなんかまったく興味がなかったのになんとなく始めてどっぷりハマったって。そういう人間の方が先入観なく面白いものを見つけられるんだろう。逆に竹下は子どもの頃からプロレスばっかり見ていたから、違う感覚になるのかもしれない。俺自身、プロレスファンの時代は短くて3年だったからね。たった3年でやる側に変わった。3年分、熱狂的に好きになって、いや違う、俺がいく(やる)ってなった人間だから。でも、俺は年だとかキャリアとか、正直言うとどうでもいいんだよ。よく同世代がどうとかキャリア何年だとか言うけどそんな話、誰が面白いんだって。俺が興味あるのは、今のトップが誰なのかだから。DDTのトップが上野であったり、クリスであったりするわけだけど、そのトップの証がベルトであって。だから上野がベルトを持っていなかったら、ここまで興味はなかったかもしれないな。DDTのトップという紛れもない事実があるわけで、そういう存在はいつの時代もいるんだよ。そこに食いつく、究極のバルタン星人。
――それまでの関係性や物語がなくてもやる意義が見いだせるものなんですね。
鈴木 (スマホに保存してあるこのカードのキービジュアルを見せて)これがすべてなんだよ。これを見た時に「鈴木が出るんだ。この若い選手とやるのか。面白そうだな」と思わせるのが大事なことであって、接点だとか物語だとかは長く見ている人がほしがるもの。だから作ってあげるんだよ。俺からすればどーでもいいんだけど、そんな設定みたいなもんいくらだって作れる。そんなことより、俺が闘って面白いと感じたことの方が重要なんだよ。DDTには、そう思わせるやつがほかにもいる。髙木三四郎ともケリつけなきゃならないし。
――いやいや、もう決着しているじゃないですか。何度も3カウントを獲って完勝していますよ。
鈴木 それが、全然勝った気がしないんだよ。あいつが立ち上がってくるから。まあ、それがプロレスの側面なんだけど。