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2024-07-16

クリス・ブルックスがエル・デスペラードを正式にDDTへ招待する「待たせた時間よりも長く語り継がれるものにしたい」【週刊プロレス】

エル・デスペラード主宰「DESPE-invitacional」への招待状を受けたクリス・ブルックスはその試合後、中継席にいたデスペラードをDDT7・21両国国技館大会の対戦相手に指名した。SNS上でお互いが望んでいたものを自分が動くことで実現させるわけだが、彼の中には“待てない理由”があった――。(聞き手・鈴木健.txt)

彼が築いてきた信用によって
今回の試合は形になった 

――昨夏の両国国技館はKING OF DDTで優勝して、火野裕士選手のKO-D無差別級王座に挑戦するというベストな流れで臨めました。それと比べ今年の両国に関しては現時点で、どのような姿勢で向かっている感覚でしょうか。

クリス プレッシャーがあるという点では去年と同じだけど、ちょっと異質かな。前回はタイトルマッチということで、チャンピオンになったら団体を背負うことになる意味で多少の不安がつきまとっていた。それに対し今年は、他団体との試合だからこそのプレッシャーが確かにあるんだけど、去年よりも少しはそのプレッシャーを楽しむことができている気がする。

――けっこう外を経験している今でも対他団体ということでのプレッシャーはあるものなんですね。

クリス そうだね。DDTにとって両国が年間最大のビッグマッチっていうのもあるけど、やはり世間の見方としてニュージャパンプロレスが日本でトップの団体という認識があって、そう意味でDDTは下に見られているというか、対角線上にある印象を持たれている。でも、見る側がそういう受け取り方をしていてもリングの上で闘っているレスラーの資質であったりクオリティーであったりはなんら変わらない。それを自分が示す上でのプレッシャーということになるね。

――プレッシャーと楽しさという対照的な気持ちが同居し得るものだと。

クリス プレッシャーを楽しめるかどうかは、ある種の自信が必要になってくると思っていて。今思い返すと、去年の両国に向かっている時点での僕にその自信はなかった。KO-D無差別級のベルトを獲って、チャンピオンになったことで初めてその自信を手に入れたんだ。それまでは、僕はこの場にふさわしい人間なのか、タイトルマッチに勝ったところでチャンピオンとしてふさわしい選手なんだろうかという葛藤が拭えずにいた。でも、両国でチャンピオンになって、そのあとウエノにベルトは獲られてしまったけれど1年間やってきた中で、自分がデスペラードと対戦するに値する選手なのかどうか悩むことはなかったし、今のプロレス界を見渡した時に、クリス・ブルックスvsエル・デスペラードが両国という舞台にふさわしいかどうかといった類の不安が一切ないんだ。だから、このプレッシャーを楽しめているんだと思う。

――ということは、ジャストなタイミングで実現するわけですね。

クリス うーん、タイミングでいったらむしろちょっと遅すぎるぐらいだと思っている。彼がバックステージコメントとかでクリス・ブルックスやMAOの名前を出して発信し始めたのは2、3年前だったよね。そう考えると、けっこう時間がかかったと思う。もっとも、そのタイミングで僕の方から試合をやろうと持ちかけたところで、当時のプロレス界の流れを考えたら実現しなかったかもしれない。そこからいろんな壁が取り払われてきている感触がだんだん得られて、ドリームマッチはドリームマッチだけど不可能だろうなっていう状況ではすでになくなっていると思う中でのこのタイミング。そこは今までのデスペラードの活動と功績によるところが大きいと思っている。

――デスペラード選手の功績、ですか。

クリス 長い間、求めていたマッチアップが実現するわけだけど、今回に関しては嬉しいという感情とちょっと違う気がするんだ。皆さんがご存知の通り、僕とデスペラードはSNS上でずっとやりとりを続けてきた。その根底にはリスペクト心があったんだ。直接彼から聞いたわけじゃないけど、僕がDDTだけでなくいろんなところで面白いと思ってもらえることをやっている。そこに対してのリスペクトを彼が持ってくれていると僕は勝手に思っているし、僕は僕でニュージャパンだけでなく業界全体を盛り上げてやろうという彼の気概について心から尊敬しているんだ。その点においての意思の疎通は自然とできていて、そんな二人がリング上で対峙して何が起こるのかということに関する期待値は僕ら二人だけでなくファンも大きいと思うんだ。その共通認識があるからこその責任感っていうのかな。僕はデスペラードに対してそれを感じているし、彼もきっと同じことを感じているだろう。その意味で嬉しい、楽しいというよりもやらなきゃいけないという気持ちで臨むことになる。去年の夏と11月とここ2回の両国はタイトルマッチをやってきたけど、それとは違った形の素晴らしいものを提供しなければいけないことへの責任を大きく感じているし、もちろん彼とならそういう試合になるとは信じているけど、オーディエンスが帰る時にまず語られるのがクリスvsデスペラードってなるようにしたいんだ。

――6月10日のエル・デスペラード主宰大会「DESPE-invitacional」への招待状をデスペラード選手から受けた時、これはシングル対決実現に向けての振りだと思いましたか。

クリス もともといつになったら実現するんだっていう気持ちだったんで、招待状によって何かが動き始めたというよりは、これで一歩近づいたなという受け取り方だった。実際、あの日は4WAYマッチで自分が勝てたわけではなかったからフラストレーションがちょっとあったけど、DDTとはなんたるかというのはあの場で知らしめることができたと思って、その勢いでシングルやろうぜって言ってしまったんだよね。

――あの場の判断で動いたんですね。

クリス 会場のお客さんのリアクションもよくて、大会全体としても素晴らしかったから、そこで気持ちが高ぶって言うなら今だという感じで。

――ファンの同意を得ることを形にして提示できたという意味ではいいシチュエーションの選択だなと思いました。

クリス そうだね。試合後の物販でも「クリスさん、今日初めて見ましたけどデスペラード戦は絶対見にいきます!」って言ってくれるファンがたくさんいて、それってデスペラードがファンの人から勝ち得た信頼と彼の力量によるところが大きいって思ったんだ。さっき功績って言ったように、今まで彼がニュージャパンを盛り上げてきて、彼の目に間違いはないという信頼をファンからも会社からも得られた。僕のことを知らないニュージャパンのファンも、デスペラードがやるなら面白いはずだってなるぐらいの信用だよ。DESPE-invitacionalにしても、きっと彼はDDTの選手にスポットライトが当たるようにカードを考えたんだと思うし、実際にそうなったわけで。そういう事実を見れば彼の力量、プロデュース力があってのものだと理解できると思うし、それなくして今回は形にならなかっただろうね。

 
試されるシチュエーションでこそ
僕は生きている実感が得られる

 

――試合に関しては言うまでもなく勝つことが第一になるとして、そこに付随して相手がエル・デスペラードだからこそクリエイトしたいことはありますか。

クリス 個人的な欲求だけに絞って言うなら、プロレスをやっていてもっとも楽しいと思える瞬間は、自分が試されるシチュエーションなんだ。ここは本当にやり遂げてみせなきゃならないという場面でこそ、僕は生きている実感が得られる。その相手がエル・デスペラードとあれば、世界レベルのトップの能力を持ったプロレスラーとの試合で自分が試されるわけで、その結果何が生まれるかっていうのは僕自身も楽しみにしている部分だね。

――DDTにおける通常ルールの試合でも、クリス選手はハードコアな要素であったりサイコロジーによる発想であったりを盛り込んできます。今回もそういった出方を想定していますか。

クリス それはDDTらしさというものにもつながってくると思うんだけど前回、デスペラードはササキと対戦した。あれはDDTそのものというよりも、ダイスケ・ササキを味わったんじゃないかと僕は思っている。だから、正式にエル・デスペラードをDDTにインビテーション(招待)するのは今回だと思ってほしい。それがハードコア的な要素になるか何になるのか、DDTらしさをどういう形で表現するかは、僕自身も現時点では思いついていないし、リングに上がったらどういうインスピレーションが湧いてくるかもやってみないとわからないものだから。ただDDTとしてのおもてなし、DDTにようこそという気持ちでやることだけは確かだよね。

――今年の両国は、昨年末に腫瘍が見つかり摘出手術を受けてそれを乗り越えての出場となります。あれを経てプロレスを続けられていることへの思いがあれば聞かせてください。

クリス あの経験で僕は…次はないかもしれないということを本当に身に染みて感じました。普段でも、来週予定されている試合が急になくなるかもしれないし、毎回これが最後になるかもしれないって思うようになった。こうして今、両国に向けて話しているけど、それさえも確実に迎えられるという保証なんてないんだ。だからこそ、毎日の試合一つひとつが僕にとっては本当に大切な機会だし、そのつど全力を出して、かつ全力で楽しむようになった。僕の場合は、それに気づかされたのが病気によってだけど、先に想定していたものにたどり着けない可能性は誰にもある。ほかのところでも話したと思うんだけど、そういう思いから復帰後は目の前のことを一つひとつ区切って考えて、とにかく全力で楽しむスタンスを続けてきたし、先送りにできない、待てないっていうのはデスペラード戦に限らずすべてに関して思うところで。東京女子プロレスに出場するのもタカナシさんとタイにいくのもあるいはまたアメリカいくのもいつかじゃなくて今実現させなきゃって考えるようになったんです。

――それを聞くと、待てない気持ちが理解できます。

クリス ファンの皆さんを長いこと待たせたけど、それだけじゃなく僕たち自身もこの試合を本当に待っていた。だからこそ、それほど待ち続けた価値があったと思ってもらえるように僕もデスペラードもお互いの持っているものを全力でぶつけ合うから。その上で、待たせた時間よりも長く語り続けられるものにしたいと思う。デスペラード、君だってそうだろ?

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