東の空が白み始めたころ、予定より40分以上遅れてようやく小田太賀(2年)が姿を現した。
中継所にいたスタッフ、関係者がほっと胸をなでおろすなか、酒井俊幸監督はたまらず小田のほうに駆け寄っていった。
そして、静寂を切り裂くような檄を飛ばした。
「どれだけみんなに心配をかけたと思っているんだ! 最後まで走れ!」
小田はしっかりとした足取りで力を振り絞って、アンカーの相澤晃(3年)にリレーした。実は、大会運営側のミスがあり、小田は暗闇のなかコースアウトしタイムロスしたのだった。
走り終えて「すいません、すいません……」と泣きじゃくる小田を、酒井監督は、ついさっきの厳しさとは打って変わって「よく帰ってきたな」と優しくいたわっていた。
“この場面、何かに似ている”と記憶を辿ると、ギリギリ繰り上げスタートを免れた箱根駅伝のタスキリレーに思い当たった。優勝を目指しているチームに失礼な表現かもしれないが、それほどまでに真剣に、東洋大の駅伝チームは、世界最大規模の“駅伝” Hood to Coastに挑んでいた。
この夏、東洋大はアメリカ・オレゴン州への遠征を敢行した。本来であれば夏合宿で走り込みをするべき時期だが、それよりも精神面の成長を期待して、経験を積ませることを酒井監督は重視した。
この遠征には、今年の日本選手権1万m4位の西山和弥や同8位の相澤ら、主力メンバーを中心に14人が参加。オレゴンではナイキ本社を見学したほか、男子マラソンで活躍する大迫傑(Nike)と一緒に汗を流す機会も設けられた。
そして、遠征の総仕上げとして出場したのが、一晩かけて199マイル(約320キロ)もの距離を12人(1人3回ずつ走る、計36区間)でリレーするHood to Coastだった。6年前に参加したときには、下級生主体で臨み優勝を果たしているが、主力で挑む今回は大会記録更新を目標に掲げていた。
コースには急勾配の下りや山道もあり、一筋縄には攻略できないレースに、東洋大は奮闘した。結局、前述のアクシデントのほか、選手輸送のバンが中継に間に合わないなど度々タイムロスがあり、目標の記録更新はならなかった。だが、さすがの貫禄を示して2位以下を寄せ付けず優勝を飾った。
「普通じゃ経験できないことが多く、常識がくつがえった大会になり、精神面で大きく成長できた。今年は大学駅伝三冠を目指したいので、その準備としてすごくよかったと思います」と、主将の小笹椋(4年)も確かな手応えをつかんだ様子だった。
『鉄紺の真価でくつがえせ』をスローガンに、「これまでの学生駅伝の流れを東洋大学が変えていきたい」とは酒井監督。
近年は大学三大駅伝(出雲、全日本、箱根)で青学大の後塵を拝すことが多かったが、タフさを磨き上げた今季は、タイトルを獲りに行く覚悟だ。
文・写真=和田悟志
※現在発売中のランニングマガジン・クリール11月号では、Hood to Coastのフォトレポートを掲載します。
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