ウエートトレーニングによる筋肥大で体を大きくすることに主眼が置かれがちな高校野球のトレーニング。しかし、それに偏重することは選手の障害を招きかねない。今年は新型コロナウイルス感染症予防のため、競技活動の自粛期間もあり、今後のオフシーズンでも一層、慎重な体づくりが求められる。そこで、野球日本代表侍ジャパンU-12のアスレティックトレーナーを務め、プロ野球選手のトレーニング指導も行う川島浩史トレーナーに、野球選手にとってふさわしいフィジカルトレーニングの考え方について伺った。
高校野球では広く、バッティングでは「打球速度を上げたい、飛距離を伸ばしたい」、ピッチングでは「球速を上げたい」と、パフォーマンスを上げる目的で「体づくり」が行われています。かつては「体づくり」=「ウエートトレーニング」という認識が強く、今も主流の考え方かもしれません。ベンチプレス、スクワットなど、高重量を上げるトレーニングで筋肥大を起こして、とにかく体を大きくするという考え方です。
一方で、最近はファンクショナルトレーニングを重視するチームも見受けられます。簡単に説明すると、ファンクショナルトレーニングとは、筋量だけにフォーカスするのではなく、「動き=MOVE」を鍛えることでパフォーマンスを最大限に引き出そうとするものです。
野球の場合、「打つ」「投げる」という他競技にはない特異な動作を巧みに、かつ力強く行う必要があります。例えば、バッティングの体重移動(並進運動)は軸脚のふとももの内側にあたる「内転筋」と、お尻の外側の「中殿筋」の筋肉を使い、重心をコントロールしながら行っていきます。それができることで変化球でも体が崩されることなくスイングができたり、体重移動を力強く行えることで鋭いスイングへつながったりします。
その一つひとつのパーツについて、動作に必要な可動性や筋力を高め、最終的には体重移動自体の動作をトレーニングし、バッティングのパフォーマンスを上げていく。この手法がファンクショナルトレーニングです。
一方、一つひとつのパーツの可動性や筋力を高めることをないがしろにして、大筋群を筋肥大させるだけのウエートトレーニングに偏重した体づくりを進めてしまうと、基本的な「人体構造上の動き」が運動異常を起こし、パフォーマンスダウンだけでなく障害を引き起こしてしまう可能性すらあります。
ファンクショナルトレーニングにより、競技特異性に合わせて一つひとつのパーツを稼働できる状態にすることで障害を予防し、全身の筋力を高め、その上で競技種目の「動き」自体を鍛える。それをしっかりと行った体に対して、ウエートトレーニングなどを行っていくことで、さらにパワーが備わり、動作と筋力が合致し、高いパフォーマンスが生み出されるのです。
[解説]
川島浩史
[ワイズ・スポーツ&エンターテインメント所属/
アスレティックトレーナー]
Profile
元プロ野球選手の仁志敏久氏(巨人ほか)と野球におけるフィジカルトレーニングメソッドを開発し、主にジュニア世代の野球チームに普及活動を行っている。2014年から侍ジャパンU-12代表チームのアスレティックトレーナーとして選手のウオーミングアップやクールダウン、トレーニング、リハビリテーション、コンディショニングを担当。また、東北楽天の浅村栄斗や埼玉西武の外崎修汰など、多数のプロ野球選手のトレーニングを指導。
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