人生には思いがけないトラブルやハプニングはつきものです。
だから面白い、とも言えます。
何事もなく、淡々と過ぎていく人生なんて、つまらないと思いませんか。
土俵の上も、予想もしない、いや、できない出来事に満ちています。
そんなときの力士たちの表情や反応はまさに一瞬の名優です。
とても筆舌には尽くしがたいものがありますが、あえてその不可能にチャレンジし、
筋書きから外れたハプニングに直面したときの力士たちの表情にスポットを当ててみました。
弓取りにトリ取られる力士たちにとって、横綱や大関を食ったり、早々と勝ち越したりしたときなどにNHKの特設スタジオに呼ばれて受けるヒーローインタビューは、なによりの楽しみであり、また励みだ。
平成22(2010)年春場所8日目、西小結の安美錦(現安治川親方)は結び前の一番で大関琴光喜を寄り切って4勝目を挙げた。この場所、2日目の琴欧洲(現鳴戸親方)に次いで大関戦2勝目。2度目のヒーローインタビューだ。
結びの白鵬対玉鷲戦が終わったあと、インタビュールームに呼ばれ、カメラの前に立った瞬間、館内からどよめきがあがった。なんと弓取り式で男女ノ里(当時三段目、高砂部屋)が弓を客席まで飛ばすハプニングが起こったのだ。
このため、カメラは男女ノ里があわてふためき、大騒ぎになっている土俵に切り替わり、安美錦が楽しみにしていたヒーローインタビューは急きょ、カットされた。首を振りふり支度部屋に戻ってきた安美錦は、
「時間の都合で、(ヒーローインタビューは)なくなったんだって。いやあ、(弓を落とした)男女ノ里に持っていかれたなあ」
としばし苦笑いした。
この失意の出来事にもめげず、安美錦は後半も好調を維持して14日目に8勝目を挙げ、翌場所、関脇に昇進している。
月刊『相撲』平成25年6月号掲載