新型コロナウイルスの終息はまだ先になりそうだが、日常生活にサッカーが戻ってきた。7月11日にはU-19日本代表候補がJFA夢フィールドで5日間の合宿をスタートさせた。困難な日々を経て、プレー再開となったいま、チームを指揮する影山雅永監督にサッカーとの向き合い方を聞いた。
出典:サッカークリニック2020年8月号
◎インタビューはビデオ会議システムを介して実施しました
取材・構成/川端暁彦 写真/Getty Images、BBM
影山 英語は毎日オンラインでずっとやっていますが、それに加えていまはドイツ語を勉強し直しています(ドイツ留学経験を持つ)。本はいろいろ読んでいますし、こういうときだからオンラインで繋いでさまざまな方と話しています。日本オリンピック委員会の方に「他競技の年代別代表の指導者に繋いでほしい」と頼み、いま10人くらいで集まってディスカッションしたりしていますが、これはかなり面白いです。新型コロナウイルスが終息したら、どこかで実際に集まろうという話もしています。
影山 『サピエンス全史』を著されたユヴァル・ノア・ハラリさんは、「私は大学の講義をオンラインで受講できるようにするべきと主張してきたのに、なかなか受け入れてもらえなかった。ところが、ウイルスが蔓延したら1週間で世界中の大学で実現してしまった。だから今は新しいことを生み、実現するチャンスだ」と話していました。半分は皮肉だと思いますが、うしろ向きに考えても建設的ではないのは確かです。いまできること、いまだからこそできることにフォーカスするべきと思い、やってきました。
影山 根本的な部分ですが、「スポーツとは何か?」ということを改めて考えました。私が住んでいるところはすごく公園の多い地域です。その公園で、サッカーをする子供たちが日に日に増えていったんですよ。どの公園に行っても、みんなサッカーをやるようになりました。私も息子と公園で一緒にやるわけですが、私よりうまいおとうさんもいるんですよ(笑)。
本当にみんな、サッカーがしたくて仕方ないという感じで楽しそうにやっていました。「これこそスポーツだな」と思ったんです。日本におけるスポーツ観については少し変わっている点があり、「◯◯のためにやる」という発想があります。「健康のために」、「忍耐力を養うために」といった手段としてのスポーツになりがちなんです。
影山 そうですよね。「社会性を学ぶために」とも。でもスポーツとは、そもそも「喜び」なんです。楽しいからやる、楽しいからボールを蹴るわけです。
影山 「体を動かすことは気持ちいい」という原初的な喜びもそうですし、公園でボールを蹴るだけで「サッカーをするのはこんなに楽しいのか」という気づきがありました。もしかすると、世の中のスポーツに対する意識が変わるきっかけになるかもしれませんし、改めてそれを考えた人は多かったのではないかと思います。
影山 ほとんどの選手にとって、これだけ「やれない」時間があるのは初めての経験でしょう。時間の使い方をもう一度考えた選手もいたのではないかと思います。この間に始めたことをリーグ戦が再開されてからも続けていこうとする選手がいたらうれしいです。
影山 それはどうなのかという気もしますが(笑)。しかし、サッカー選手に時間的余裕がないわけではありません。いろいろなことに取り組んでもらいたいですし、そうするきっかけにもなったと思います。
影山 プロ選手ですら難しい精神状態になってしまった選手がいると聞きますし、高校生以下の年代となると余計にそうですよね。
影山 本当に気の毒なことです。しかし、活動がなくなってしまう競技がある一方でサッカーは冬の大会もありますし、何より育成年代のリーグ戦を整備してきました。普段通りの大会形式ではできなくても、試合をやれる土壌はあります。試合数は少なくなると思いますが、「毎週、試合がある」という地点に戻せると思います。
これは、サッカー界が積み上げてきた成果です。子供たちが試合する環境がゼロにはなりません。全国のJFAトレセンコーチが力を結集してそれぞれの地域の方々と集まって議論してくれていますが、「子供たちが試合をできるように」という思いでみなさんが本当に一生懸命に取り組んでくれて、改めて頭が下がる思いになりました。サッカーファミリーの力は本当にすごいと実感します。
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