川口 私は体が小さかったので、技術にこだわっていました。足元の技術には自信がありましたし、ブラジルでも通用しました。ただ、ブラジルで10番をつけるような選手は本当に上手でした。それと、勝負に対する執着心が全然違いました。相手の足を削ってでもボールを奪いに行くようなハングリーさには大きな差があったことを今でも覚えています。ボールを持つと、相手は削ってきます。マリーシアなどもかなりありました。
ボールコントロールでは私も負けていませんでした。ところが、試合やミニゲームになると、テクニックでは劣っていなくても最終的にスコアで負けるという状況でした。ブラジルの選手は試合で使えるテクニックが自然と身についているのです。
川口 そうです。そこがブラジルの強さであり、歴史です。日本とブラジルの選手を比べた場合、今は技術だけなら劣っていません。日本人もうまくなっています。ただ、勝負にこだわったテクニックに関してはまだ差があります。本気のブラジルとやれば、圧倒されると思います。ブラジル人はピッチに入るとケンカになるくらいに自主的に声を出し、オープンマインドでプレーします。「声を出そう」などという指示はブラジルではありません。誰もが自主的に取り組みます。誰かが守備をさぼると残りの10人から怒られますが、それは負けたくないからです。「そんなので良いのか」ととがめられ、「グラウンドから出ていけ」と言われるほどです。厳しさが全然違うのです。
川口 そう思います。声が自然と出て技術も出せるというサッカー文化にしないと、世界のトップには追い付けません。日本は指導者が選手の武器を伸ばしつつも指示を出しながらやっているので、まだまだかもしれません。私としては、「声を出してプレーしよう」とある程度は言いますが、自分たちで解決できる環境をつくりたいのです。
川口 技術の質は上がっています。ただ、私たちの現役の頃は先輩たちが本当に上手でした。良い見本がいてマネをするのが静岡学園のスタイル。しかし、今の選手たちを見ると、全体的なレベルは引き上げられたかもしれませんが、驚くようなスキルを持つ選手はいません。
昔はめちゃくちゃうまかったんです。私たちはそういう先輩を見て学びましたし、ブラジルもそうです。プロや下のカテゴリーにすごくうまい選手がいて、近所の道路でマネしています。本当に良い見本がいるんです。今は技術のアベレージは上がりましたが、私たちの時代に良い見本になっていたような本当のテクニシャンはいないかもしれません。
川口 ブラジルにはうまい選手をマネする文化があって、教えてはいないのです。日本にはそういう文化がないので、ドリル形式でやらせるしかありません。トレーニングで取り組んでいるチームも少ないです。読売クラブ(現在の東京ヴェルディ)は本当にうまかったですよね。中学校と高校時代は読売クラブの試合をとにかく見て、静岡の本田技研と対戦するときは必ず観戦したくらいです。特に(元日本代表の)菊原志郎さんに憧れました。ワクワクするものがあったのです。
見て学ぶ方法は本当に大事なのですが、そのためには後輩たちにマネしたいと思われるような選手にならなければいけません。そうならないと、文化として成熟しません。静岡学園には昔からそういうアイデンティティーがあって、今でもうまくなりたい一心で選手たちが入学してきます。チームが勝つだけではなく、やはり、クラッキ(名手)を育てなければいけません。先輩を目標として入ってくる選手が増えて欲しいですし、そういう選手になるためには楽しむ姿勢が必要です。身につけた技術を試合で発揮し、「サッカーが楽しい」と実感できるようになって欲しいと思います。
川口 例えば、アウトサイドを使ったときに「すべてダメだ」と言ってはいけません。そういう指摘をすると、指導者の枠の中に収まる選手にしかなりません。想像を超えるプレーヤーには育たないでしょう。練習メニューとして紹介する「浮き球のみの『3対1』(『4対1』)」(下の動画。動画は「4対1」)は遊び感覚のトレーニングで、本当に楽しいんです。技術は自然に学ばないといけません。それがテクニック取得の本来の形だと思います。
選手はいろいろな発想を持っています。判断ミスがあるかもしれませんが、選手のナチュラルなアイディアを活かすスタンスも大事です。指導者が頭ごなしに指摘するよりも、武器を伸ばす関わり方をしたほうが、より個性的な選手を育てられます。私はその発想で指導しています。選手を押さえ付けませんし、この選択が良いとたとえ感じても強制はしません。もちろん、ヒントを与える場合はあります。ある程度は自由にやらせるために、選択肢を与えて本人に考えさせます。
遊び心はすごく大切です。日本が南米を超えて新しい文化をつくれるようになると良いと思います。南米の選手よりも日本人のほうがうまいよねと言われるようにしたいです。日本全体として取り組めば、実現できるのではないでしょうか。
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