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2025-06-27

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第30回「気分転換」その1

平成28年名古屋場所初日、マスタングで場所入りした正代は勢を下手投げで破った

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令和3年はコロナのヤツが猛威を振るっていました。
東京も、神奈川も、大阪も、埼玉も、とにかく日本中が大変です。
三密を避け、不要不急の外出はせず、家の中にジッとしているに限ると言いますが、ほどってものがあります。
こういうときは思い切って気分転換をしちゃいましょう。
この気持ちの切り替え、気分一新は、力士たちの得意技です。
どうやっているんだって? 
じゃあ、紹介しましょう。彼らの個性にあふれた気分転換法を。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

外車で場所入り

令和3年当時はコロナ禍で、以前のような華やかさはありませんが、地方場所は場所入り一つとっても面白い。力士たちは、その地方のいろんな人から借りた、いろんなクルマに乗ってやってくるので。

平成28(2016)年名古屋場所の初日、まだ入幕して4場所目、東前頭5枚目だった正代は、アメリカ製のフォードのマスタングに乗ってさっそうと現れた。師匠の先代時津風親方(元幕内時津海)の友人の会社経営者が、

「このクルマは、オレらの世代のあこがれのクルマなんだ。このクルマに乗って相撲に勝ち、(この年の4月に発生した地震禍にあえぐ)郷里の熊本を少しでも元気にさせてくれ」
 
と提供してくれたのだ。昭和48(1973)年製で、色は目にも鮮やかな黄色だった。
 
ネガティブが売りの正代だったが、周囲の思いがこもったクルマでの場所入りだけに、胸を張り、顔をあげて登場している。この場合は、気分転換、というよりも、気分一新に近かったかもしれない。
 
このマスタング効果は絶大だった。この日の相手は西前頭4枚目の勢(現春日山親方)だった。激しい差し手争いの末、差し勝った正代が小手投げをこらえて下手投げを打ち返し、うれしい白星発進をしたのだ。にこにこ顔で引き揚げてきた正代は、

「自分はまだ知名度がないということで、今日は(場所入りに)粋な計らいをしていただきました。クルマのおかげで勝ったようなものですね」
 
と感謝していた。
 
この余勢を駆って、この場所の正代は自己最高位にもかかわらず9勝6敗と勝ち越し、3場所後の平成29年初場所には関脇に昇進している。

月刊『相撲』令和3年9月号掲載

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