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2025-07-01

【連載 泣き笑いどすこい劇場】第32回「ハプニング」その3

大地震の取組前の余震で会場が騒然。異様なムードの中、横綱白鵬が敗れ座布団が舞った

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人生には思いがけないトラブルやハプニングはつきものです。
だから面白い、とも言えます。
何事もなく、淡々と過ぎていく人生なんて、つまらないと思いませんか。
土俵の上も、予想もしない、いや、できない出来事に満ちています。
そんなときの力士たちの表情や反応はまさに一瞬の名優です。
とても筆舌には尽くしがたいものがありますが、あえてその不可能にチャレンジし、
筋書きから外れたハプニングに直面したときの力士たちの表情にスポットを当ててみました。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。

途切れた集中力

平成23(2011)年3月11日に起きた東日本大震災。あのあともしばらく不気味な余震が続き、不安にかられた人も多かった。

この忌まわしい大震災からおよそ2カ月が過ぎた5月の夏場所は、八百長問題のあおりを受けて「技量審査場所」と名前を変え、無料公開で行われた。これまた、相撲関係者には忘れがたい場所だ。

その13日目、結びの横綱白鵬対大関日馬富士が最後の仕切りに入り、両者塩を取り、振り返って大きくまく直前、茨城県南部を震源とする震度2の地震が関東地方を襲い、両国国技館の天井の照明が揺れ、館内は騒然となった。時間は午後5時53分だった。みんな、ナーバスになっていたのだ。

この突然の出来事に、ここまで12連勝で優勝争いのトップに立っていた白鵬は、

「観客がワーッと騒いだので、なにかあったのかと思った。土俵はほとんど揺れなかったので、地震があったとは全然分からなかった」

と話したが、これで高めてきた集中力が途切れ、軍配が返ると前日までとはまるで別人。日馬富士にいいように取られ、最後は左から上手出し投げを打たれて残すところを寄り切られ、初黒星を喫した。

いったん土俵に上がったら、何があっても動じないのが相撲の極意。自分の未熟ぶりを痛感させられた白鵬は、呆然とした表情で支度部屋に引き揚げてくると、

「負けは負け。気持ちが空回りした。勝負は甘くないってことですよ。まだ(自分の相撲は)完成されていない」

と反省しきりだった。しかし、残る2日間、しっかりと締めて優勝し、史上最多タイの7連覇を達成している。

月刊『相撲』平成25年6月号掲載

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