元フットサル日本代表監督のミゲル・ロドリゴ氏によるジュニア年代向けのイベントが東京都で開催された。イベントは2部構成で行なわれ、ミゲル・ロドリゴ氏による1時間のトレーニングのあと、第2部として、京都サンガF.C.の育成・普及部での指導など、多岐にわたってジュニア年代を指導する池上正氏が、ミゲル・ロドリゴ氏へ質問を投げかける形によるトーク・セッションを実施。ここでは第2部の内容を紹介する。
(出典『サッカークリニック』2019年8月号)
上のメイン写真=フットサル日本代表監督として7年指導にあたったミゲル・ロドリゴ氏(右)。現在はフットサル・ベトナム代表を率いている (C)鈴木智之
取材・構成/鈴木智之
写真/鈴木智之
協力/イースリー(サカイク)、テレビマンユニオン
池上 (第1部として行なった)トレーニングはすべてゲーム感覚で行なわれ、勝敗も決められていました。その狙いは何だったのでしょうか?
ミゲル 子供たちの中に競争心を芽生えさせ、モチベーションを高めるためでした。また、今回のトレーニングは「遊び」をキー・ワードとしてメニューを組んだのです。遊びの感覚がある中で技術と判断を高める練習にしていきました。
例えば、「丸太と風車の鬼ごっこ」(下の図)には、ボール・キープ、ドリブル、方向転換など、さまざまな要素が入っています。「じゃんけんゲーム」には、足の裏を使ったドリブル、じゃんけんをしたあとの「攻撃か、守備か」の素早い切り替えの要素が含まれていました。以上のことは頭に働きかけること(頭のウオーミングアップ)にもなったと思います。
個々のテクニック向上のためのドリル形式の練習はしませんでした。遊びの要素を必ず入れて、試合の中で起こりそうな場面を詰め込んだつもりです。確かに、勝敗を求めることで実戦に近い状況をつくったかもしれませんが、勝敗に重点を置いたわけではありません。子供たちのモチベーションを高めるために勝敗を意識することを求めたのです。
池上 私は「選手のモチベーションを高める指導」が多くの日本の指導者に伝われば日本サッカーも変わると思っています。ミゲルさんはコーチと子供の関係はどうあるべきだと思いますか? 日本はコーチが「上」にいて、選手が「下」にいるように感じるのです。
ミゲル 私は7年間、(フットサル日本代表監督として)日本にいました。その間、多くの指導者が子供たちを「小さな大人」として扱っている印象を受けたのです。子供は子供です。小さな大人ではありません。子供なりに不安を感じたり、夢を持ったりするのです。コミュニケーションのとり方や関わり方も、大人とは異なる方法で行なわなければいけません。
池上 そうですよね。
ミゲル メニューづくりにおいて注意点があります。子供はエネルギーを発散させる必要があります。そのため、ドリル練習のように列に並ばせて、動いている時間よりも待っている時間のほうが長い練習はやめるべきです。
また指導者の資質としては、子供を笑わせたり、ユーモアを持って接したりすることができない指導者は子供の指導にあまり適していないように思います。子供が必要としているものをなかなか理解できないと思うのです。
さらにピッチ内では、子供に簡単に解決策を与えてはいけません。指導者からの質問を介し、子供に考えさせるのです。子供自身が決断できたのであれば、たとえミスをしたとしても咎めてはいけません。子供はミスから学ぶことができるからです。日本の指導現場では、子供を大人のように扱い、「これをしなさい」と言ってやらせ、万が一ミスをしたら罰を与えているような気がしています。ジュニア年代には自信を持たせることが必要なのですが、そのようなことをしていたら、決断するための自信をつけることができないでしょう。
池上 私もそう思います。
ミゲル 大人である指導者は、子供たちと同じ目線に立ってみてください。「君を信じているよ」などと伝えてあげることが大事なのです。そうしたことが子供たちの自信につながるのです。私が子供を指導するときは、子供のレベルに下がり、同じ目線で接するようにしています。なぜなら、子供は大人のところまで上がって来られないからです。だから、大人が下りるのです。日本の指導者にはそういった姿勢が必要だと思います。
池上 子供たちを自由にするには遊びが大切です。しかし、日本人からすると「遊んでいるだけでうまくなるのですか?」といった気持ちになる方もいるようです。
ミゲル 「学び」は「モチベーション」と「感情」につながっているのです。何かをするときにワクワクする気持ちが「学び」につながります。モチベーションを感じたら、人は学ぼう(身につけよう)とするのです。
子供は、ボールに触る回数が多ければ多いほどモチベーションが高まるものです。加えて、「ゴールを決めること」も子供にとってすごく重要です。私が指導するときは、ゴールを決める経験をしないまま子供たちを帰したりはしません。私は、ゴールを決めることが子供たちのモチベーションを高め、その気持ちが学びにつながるのを理解しているからです。「練習が楽しい」と感じたり、ワクワクしたりした瞬間に子供たちは確実に学んでいるのです。練習で「ゴール」の喜びを得ることができなければ、学びは少ないでしょう。
池上 『フロー理論』という言葉があります。「フロー(時間を忘れるほど没頭している状態)」のときは楽しくて夢中になれる、という考えです。まずは夢中になることが大事なのです。ただし、自分から取り組まないと夢中にはなれないでしょう。指導者に「やれ!」と言われた子供が夢中になれると思いますか? 日本人はその点がなかなか変われていないと思うのです。
ミゲル 人間は誰しも変わることが難しいものです。なぜなら、臆病な生き物だからです。そして、日本には間違いを恐れてしまう文化もあります。「臆病になるか」、「勇敢になれるか」、どちらも皆さんの心の中に存在しているのです。
進め方:(1)各自ボールを1個持ってドリブルをし、2人の鬼から逃げる。(2)鬼に「トロンコ(丸太)!」と言われながらタッチされたら、丸太のようになって地面に転がる。鬼に「風車!」と言われながらタッチされたら、その場で立ち止まって両足を開いて立ち、腰の周りで両手を左右に回す。(3)ほかの選手が逃げているときに「丸太」や「風車」に当たってしまったら、その選手も「丸太」や「風車」になる
ミゲルのアドバイス:(1)「丸太になった選手はドリブルしている人に自分が当たるように向かって行こう(転がって行こう)」。(2)「足の裏を使ってボールをコントロールしよう」。(3)「背中を伸ばして顔を上げよう。どこから丸太が来て、どこに風車があるか、確認しよう」
ミゲル・ロドリゴ(Miguel Rodrigo)/ 1970年7月15日生まれ、スペイン出身。92年に指導者の道に進む。2009年にフットサル日本代表の監督に就任。アジアフットサル選手権の2012、2014を連覇。12年のタイ・ワールドカップでは日本代表を初のベスト16へと導いた。フットサル・タイ代表の監督を経て、17年からフットサル・ベトナム代表の監督を務めている
池上正(いけがみ・ただし)/ 1956年10月31日生まれ、大阪府出身。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAで指導を始め、その後ジェフユナイテッド千葉で普及、育成を担当。退団後、NPO法人I.K.O市原アカデミーを設立。2012年から16年まで京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任した。著書が多数ある
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