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2025-07-21

【相撲編集部が選ぶ名古屋場所9日目の一番】一山本がただ一人1敗を守って勝ち越し。優勝争いのトップに立つ

立ち合いしっかり当たって豪ノ山の突進を止め、引き落としで勝負を決めた一山本。ただ一人勝ち越しを決めて優勝争いのトップに立ったが、後半戦もどこまで暴れられるか

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一山本(引き落とし)豪ノ山

思わぬ伏兵が、幕内の優勝争いの先頭に躍り出た。西前頭8枚目の一山本だ。
 
きのうまで4人いた1敗力士は、まず新入幕の草野が実力者の隆の勝の右ノド輪の圧力に抗しきれずに黒星。ベテラン玉鷲は阿武剋に廻しを許して食いつかれて敗れ、さらに関脇霧島も引いたところを伯桜鵬についてこられて2敗目を喫した。
 
そんな中、一山本は豪ノ山の強い当たりを受け止め、起こしておいての引き落としで白星。幕内でただ一人、1敗を守り、勝ち越しを決めた。

「(中央大の)後輩だし、負けたくない。立ち合いでしっかり当たれたので、最後決まった。(今場所は)立ち合いだけですね。あとは体に動いてもらうだけ」と一山本。この日の相撲はまさに本人の解説どおりで、さすがに立ち合いは豪ノ山に少し押されたものの、しっかり当たったことで押されるのは最小限にとどめ、突いて起こして距離を取ったことで相手の二の矢の攻めを許さず。相手がなおも出ようとするところをすかさず引き落とした。
 
今場所の一山本で目立つのは、前傾姿勢での押し、あるいは突きが出ているところだ。これまでは、どちらかというと自分の上体も立てながらの上突っ張りで、そのあと引くために相手を起こす、という感じが強かったが、今場所は前傾姿勢で相手を押していくような攻めが出ている。
 
この攻めができていることで、低い宇良にも潜られず(4日目)、立ち合いの強い尊富士(7日目)やこの日の豪ノ山にも、起こしておいての引きが決まっている、と言えるだろう。
 
そればかりか今場所は、初日の佐田の海戦、5日目の狼雅戦、きのうの熱海富士戦と、右四つ得意の相手に、途中右四つになって勝つ相撲もあるなど、幅を広げている。まあ四つ相撲は、「これを磨こう」というわけではないのだろうが、懐が深いので意外に取れる。これまでは組んだら絶望的だったのが、組んでもまだいける、となってくれば、気持ちの余裕にはつながるかもしれない。
 
9日目の時点で単独トップに立つのは、一昨年の11月場所に次いで2度目。これには「過去のいろいろな経験があるから今がある。ここからも生かしていきたい」と一山本。このままいけば後半戦は上位との対戦が予想されるが、さてどこまで暴れてくれるか。まあもちろん、三役陣との対戦となれば、一山本は有利とまではいかないだろうが、琴櫻には3月場所、若隆景には先場所勝っていて、大の里にも十両時代ではあるが一度勝ったことがあるので、まったく勝てない、ということはない(ちなみに霧島には0勝2敗、安青錦とは初顔)。単独トップには、「(夏巡業がある)北海道にいい成績で帰りたいと思うので、自分のことだけ見て頑張ります」と、目の前の一番に集中するが、果たして「何山本」まで白星を伸ばせるかは楽しみだ。
 
全体的な優勝争いの様相としては、1敗が平幕の一山本1人になったことで、この日、髙安との2敗対決に勝って(ちなみにこの日の大の里の太刀持ちは、髙安に代わって一山本が務めた)連敗を阻止した大の里が、またジワリと本命としての存在感を取り戻してきたと言えようか。2敗勢は大の里、霧島、安青錦、玉鷲、草野、琴勝峰、御嶽海の7人だが、この中では大の里のほか、地力では霧島と安青錦が優勝ラインまで星を伸ばしてくる能力を持つと言えよう。そこに、もしあす、大の里を食えれば、玉鷲が一気に飛び込んでくる。若手とベテラン入り乱れての優勝争いは、さてこのあと、どうなっていくのか。まだまだ一番一番の結果次第で、どの方向にも転ぶ可能性があることはある。

文=藤本泰祐

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