左からの上手投げで大の里を撃破し、2敗を守って優勝争いのトップをキープした琴勝峰。過去に優勝争いをした経験値がモノを言う形になれば面白い
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琴勝峰(上手投げ)大の里
きのうのこのコラムでは、「安青錦が本命」と散々あおったが、いやいや、琴勝峰も負けていない。結びの一番で、横綱大の里を上手投げで破り、初の金星を手にするとともに、2敗をキープ。この日、一山本を降した安青錦とともにしっかりとトップを守った。
琴勝峰は、大の里とは幕内では3回目の対戦になるが、過去は0勝2敗。ただ実は、両者が十両にいた、一昨年の11月場所に、本割で上手出し投げ、優勝決定戦で上手投げと、上手からの投げで連勝したことがある。
そして迎えたこの日の対戦。立ち合いは相四つとあって、ともに右差し狙い、左は琴勝峰は上手を狙い、大の里はおっつけに行くような形で立った。立ち合いの速さと踏み込みで勝ったのは琴勝峰。サッと左上手に手を掛けた。
立ち合い先手を取られた大の里は、右下手をつかみ、左からおっつけての寄りで逆襲に出た。しかし琴勝峰は落ち着いていた。上手を取った左側に回りながら上手投げ。大の里にたたらを踏ませると、そのまま体を入れ替えて横綱を土俵の外に運んだ。
「せっかくのチャンスなので、張り切っていきました。上手をつかんで、起こして。立ち合いで当たることだけ。(あとは)何も考えないでいきました」と、琴勝峰は初金星の一番を振り返った。
大の里はこれで新横綱としては最多となる4個目の金星配給。そして優勝争いの上でも4敗に後退した。2日残してのトップと2差なので、数字上は可能性がゼロにはなっていないが、現在2敗の安青錦と琴勝峰の対戦がもし千秋楽に組まれるとその瞬間に優勝可能性が消滅することになる(ちなみに、千秋楽の安青錦の相手が熱海富士になるケースもあるが、それは14日目に琴勝峰が敗れて熱海富士が勝った場合に限定されるはずなので、その場合も、安青錦と熱海富士の両者ともが4敗になることはない)。
右を差して、廻しを取らずに相手を起こしながら出るときはよく腰が下りる大の里だが、この日の相撲や玉鷲戦を見ていると、むしろ廻しを取って出るときに、腰が下り切らずに逆転を食うケースがあるよう。この辺りは立ち合い直後の引きと同様、今後の課題として残っていきそうだ。
さて琴勝峰。これで13日目を終えて堂々のV争い先頭だ。今場所は、弟の琴栄峰が新入幕、しかも番付が2枚しか違わず、うかうかしていたら抜かされる、という状況になり、刺激を受けているのだろう。動きのよさが目立つ。もともと、相手をふっ飛ばすような相撲を取る力士ではないので、強さが印象に残りづらいタイプだが、懐の深さも生かし、動きの中でうまくタイミングをとらえて自分の有利な形をつくる技術が持ち味の力士だ。この日の相撲もそうだが、動きの中で横についた草野戦、きのうの髙安戦などにも、そのうまさを見ることができる。
一昨年の1月場所では、最後は大関貴景勝(現湊川親方)との相星決戦に敗れたが、千秋楽まで優勝を争った経験がある。「(前回の優勝争いの経験は)生きています。考えすぎてもしょうがない。自分のいいところを出せるように」と琴勝峰。琴勝峰にとって、自身にあって安青錦にないポジティブ要素は、何といってもこの経験値だ。その差を生かすことができれば、チャンスが広がることになる。
先にも触れたように、4敗の力士の優勝が事実上なくなり、安青錦、琴勝峰、そして現在3敗の熱海富士、草野の誰になっても、今場所の平幕優勝は確定的。そしてこの日の結果で、その決着は千秋楽ということも確定した。果たしてだれが初の賜盃を手にするか。ファンはまだあと2日、楽しむことができる。
文=藤本泰佑