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2025-07-22

【相撲編集部が選ぶ名古屋場所10日目の一番】40歳玉鷲やった! 大の里を倒す金星。優勝争いは混迷極める展開に

右からのタイミングのいい突き落としで、大の里を転がした玉鷲。なんと40歳での最高齢金星をゲットした

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玉鷲(突き落とし)大の里

「信じられない。軍配が挙がったときも、信じられなかった。座布団が飛んで、やっと信じられた」
 
本人がそういうぐらいだから、周りはもちろんビックリだ。

本当に、勝ってしまった。
 
いやもう、スゴい40歳だ。玉鷲が、25歳の横綱を、ものの見事に転がした。
 
今場所のあまりの元気さに、「ひょっとしたらひょっとするかも」という予感もゼロではなかった玉鷲だが、ホントに勝ってしまうとやはりビックリ以外の表現はない。
 
2敗同士での激突となった、大の里との結びの一番。ただこれまで3度の戦いでは、玉鷲は右を差されたり、得意の右ノド輪を下からあてがってはね上げられたりで、持ち前のパワーを発揮できる展開にはなっていなかった。そのため、見るほうとしては、「今場所の動きのよさなら、何かハマれば大の里を慌てさせることができるかも」という予感はしても「でも勝つにはどうやって?」というイメージはあまり浮かばなかった。しかし現実は、「なるほどこういう勝ち方があったか」と、見るものを納得させる形になった。
 
立ち合い、玉鷲はケレン味なく、右ノド輪、左おっつけの形を狙う。しかしそこは大の里も先刻承知、両手でこれをはね上げていく。
 
分岐点はその後だ。何とかつかまえたい大の里は、左を差して右から抱えた。玉鷲は左を差す形に。もちろん四つを得意とはしない玉鷲だが、右を差されなかったことで、上体を起こされる展開にはならなかった。
 
横綱は、最近は右は差せなければ上手を取って攻める形を開発中。この日も上手に手を掛けながら出てきたが、玉鷲は左から少し掬って大の里の重心を揺さぶると、右からタイミングのいい突き落とし。土俵際、見事にこれが決まって、大の里の巨体は転がった。
 
このところ、右は差すだけでなく、上手からの攻めも、と相撲の幅を広げている大の里。それ自体はいいことだが、まだそれは開発中と言えば開発中で、相手のさまざまな動きに完全に対応できるまでには至っていないのだろう、そこに、玉鷲得意の右からの突き落としが、見事にハマった、と言える。

「(自分の)腰を重くしてやった。それが一番よかった」と玉鷲。通算8個目の金星は、なんと40歳という史上最高齢金星だ。さすが、一時、幕内下位に下がっていたときも老け込まず、「また上位で取りたい」と向上心を燃やしていただけのことはある(とはいえ、「下位は下位で、新しい若い人とやるのは楽しい」とも語っているのだが)。横綱を優勝争いから後退させ、自らは一山本との1差をキープ。過去2度、賜盃を抱いている玉鷲だが、この元気さがあれば、「3度目も⁉」もあながち夢物語ではない。もはや常識では測れない域の存在だけに、何をやっても「この人なら……」と思わせるだけのものはある。
 
この日は、一山本が1敗を守ったほか、きのうまで7人いた2敗力士では、なんと横綱大の里だけが敗れて3敗に後退することとなった。新入幕の草野も宇良を破って勝ち越し決定。霧島、安青錦、玉鷲、草野、琴勝峰、御嶽海が2敗キープだ。
 
こうなると、優勝争いは混迷を極める形になったと言っていいだろう。1敗の一山本はもちろん、2敗勢でも、元大関の霧島はまだしも、ほかのだれが優勝しても、場所前は予想だにしていなかった「ビックリの優勝」ということになる。
 
ただ、では霧島が一番手かというと、あす対戦する大の里にはまだ勝ったことがなく、まずはここに勝ってから、とはなるだろう。では優勝2回の玉鷲は、というと、大の里に勝ったのだから強いのは間違いないが、そうはいっても40歳ではあるので、後半のスタミナには不安はある。そう考えていくと、現在の地力と残っている対戦相手のバランスでは、むしろ安青錦に最も可能性があるのでは、と思えるが……。玉鷲とまだやっていないので、ここは一つのカギか。大の里もトップと2差がついて苦しくはなったが、まだチャンスは残っている。草野がどこまでいけるかも含め、楽しみの多い大混戦は、まだまだ続く。

文=藤本泰佑

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