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2025-07-26

【相撲編集部が選ぶ名古屋場所14日目の一番】草野が左右の攻めで安青錦崩す。2敗守った琴勝峰が初優勝に王手

鮮やかな連続攻撃で安青錦を倒した草野。トップ走者の一人を引きずり降ろし、自らの優勝の可能性を千秋楽まで持続させた

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草野(寄り切り)安青錦

なるほど、こういう起こし方があったか。
 
今場所の優勝争いの本命と見られた安青錦が3敗目を喫した。引きずり降ろしたのは、3敗につけていた新入幕の草野だ。
 
今場所、2日目は大の里に突き起こされたが、それ以外はほとんど頭を上げられることがなく、難攻不落と見られた安青錦。この日は身長ではほぼ同じ草野がどう起こしていくかが注目された。
 
立ち合い、相手とほぼ同じ高さで当たった草野は、まずは「起こしの常道」である突っ張りを繰り出す。安青錦が押し返したところで相四つの右四つに。ここで先に左上手をつかんだのは草野。まだ相手の体勢は低いままだったが、すぐに回りながら上手出し投げを打って崩しに出た。
 
その効果で少し相手と間隔が空いたところで再び右を入れ直すと、今度は逆の右からグイグイと掬って、ついに安青錦の上体を起こすことに成功、そのまま差し手を突きつけるようにしながら黒房下に寄り切った。
 
まず左から振って崩し、間髪入れずに入れた右でグイグイ起こす。左右からの連続の攻めが生きた。相手を起こす、というとき、誰もが考えるのは、突いて起こすという「タテの起こし」だが、なるほどこうやって左右から連続で攻めて対応をさせないという、「ヨコの起こし」もあるのか、という、なかなかの技能を見せた草野の相撲ではあった。
 
草野自身は「突いて起こして両方差そうと思った。右を差して左も取れたんで、止まらずに行けてよかった。朝から師匠に止まるなと言われたんで、言われた通りの相撲が取れた。張って差すことも考えたけど、張り差しは自分の上体が高くなると思ったんで、突き起こして上体が上がらないようにと思った」と語っているので、「ヨコの起こし」は意識したわけではなく結果に過ぎないかもしれないが、休まず動く意識が、この日の鮮やかな攻めを生んだ。
 
安青錦が星を落とした一方、もう一人の2敗の琴勝峰は、この日も落ち着いた相撲っぷりで白星をつかんだ。霧島を相手に、立ち合い右を差しにいったが、無理と見るやすぐに突っ張りに作戦変更。動きの中でタイミングよく右から突いて横を向かせて上手をつかみ、そのまま出し投げ気味に上手投げを打って相手を土俵外に送った。きのうも書いたが、懐の深さも生かし、動きの中で勝機をつかむという、持ち味そのままの内容。この落ち着きは、経験値というアドバンテージが効果を発揮する展開に向かっているのか……。
 
これで、琴勝峰が2敗で単独トップ、安青錦と草野が3敗で追う形で千秋楽を迎えることになった。あすは琴勝峰と安青錦が直接対決、草野は髙安との取組が組まれた。琴勝峰は優勝に王手を掛けた形で、あす安青錦に勝てばすんなり優勝。安青錦が勝てば優勝決定戦。そのうえで草野も本割で勝てば優勝決定巴戦となる。
 
まずは琴勝峰と安青錦の勝敗がすべてを握るが、安青錦は自分の体勢が十分にならないうちは無理に攻めないタイプなので、そのあたりが動きの中でチャンスをうかがう琴勝峰にとっては却って取りづらい可能性もある。この日の草野のように、うまく左右からの攻めを繰り出すことができれば、というところだが、さてどうなるか。地力としては安青錦が勝つ可能性も結構ある気がするが、だからと言って決定戦と連勝するほど力が違うかというとどうかという気もする。琴勝峰が優勝のかかった一番でこれまで同様の落ち着きをキープできるかもポイント。
 
草野はまず髙安に勝たねばならず、琴勝峰-安青錦戦の結果が他力本願、さらに巴戦を勝たなければいけないので、条件は圧倒的に厳しいが、「(優勝が懸かっても)土俵に上がれば、やるだけという気持ち。(ビビることは)ないです」と断言しているのが頼もしい。
 
さまざまな結末が考えられるあすの千秋楽。

「どの展開になってくれるのが一番面白いかな」などと夢想するのも、クライマックスを迎えるファンの楽しみと言えるかもしれない。

文=藤本泰佑

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