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2025-07-27

【相撲編集部が選ぶ名古屋場所千秋楽の一番】本割で安青錦を突き落とし、琴勝峰が決定戦に持ち込ませず初V

この日も落ち着いた相撲で安青錦を攻め、最後は突き落としで初優勝を決めた琴勝峰。この場所を「大器覚醒の場所」にしていきたいところだ

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琴勝峰(突き落とし)安青錦

優勝は、攻めて決めた。
 
琴勝峰が、「勝てば優勝、負ければ優勝決定戦」の安青錦との一番を、寄っておいての突き落としで快勝。決定戦に持ち込ませることなく、本割一発で初優勝を決めた。
 
きのうのこのコラムでも書いたが、琴勝峰は、どちらかと言えば、相手の攻めをある程度受けながら、動きの中でサッと自分有利に持ち込むきっかけをつくるうまさが特徴の力士。それだけに、自分の体勢になるまでは無理に攻めてこない安青錦などは、却ってさばきにくいのでは? と、素人考えで予想したが、そういうものではなかったようだ。
 
相手が攻めてこないのなら、ということかどうかは分からないが、この日の琴勝峰は立ち合いから攻めた。立ち合いは相四つの右四つではなく、むしろ左を差しにいったようにも見えたが、とにかく下から掬うように立って、突っ張りではなく、四つ身の形で安青錦を起こしにいった。
 
その後、佐渡ケ嶽部屋伝統のガブり、というか、しゃくり、というか、一回、二回と腰を突き上げながらの寄りを見せて、安青錦に圧力を掛ける。おそらく安青錦は、この圧力で、「もっと前傾しないと」というふうに体が反応したのだろう。そうなれば、その機を逃さないのが琴勝峰だ。すかさず、形が変わって外側になっていた左から突き落とし。めったに前に落ちないのがウリの安青錦にバッタリ両手をつかせた。

「立ち上がってから無意識に体が動いた。よく体が動いたと思う」と琴勝峰。場所終盤は髙安、大の里、霧島と上位陣を連破してきていたが、いずれも相手が攻めてくるところをうまくかわして逆襲、という形だっただけに、うまさは感じさせても強さの印象はさほどなかったが、最後に優勝力士らしい力強さを見せてくれたと言えるだろう。
 
そして、そういった相撲内容とともに、優勝のかかった終盤になってからの落ち着きぶりも、優勝を手にできた大きな要因だった。「前回の(優勝争いの)経験を生かして、しっかり力みすぎないようにいこうと思った。(きょうは)あまり考えすぎてもしょうがないので、思い切り当たっていこうと思った」と、プレッシャーに潰されることなく、いつもの相撲を取り切る姿が印象的だった。若手相手の優勝争いの中で、経験値という武器を見事に生かしたと言える。
 
今場所は、場所前に右太ももの肉離れを起こしていたが、それもむしろ、「自分から動いていこう」というふうに、プラスに転じたのだろう。そして何より、今場所は弟の琴栄峰が新入幕(しかも番付が2枚しか変わらず、うかうかしていたら抜かされる危機)、本人も「とても刺激をもらっています」というこの存在が、起爆剤となったことは間違いない。
 
左ヒザを痛めてからは、十両落ちも経験するなど苦しんだが、もともとは「末は横綱・大関」と言われたホープ。この優勝で、再び周囲の期待感も取り戻すことになるだろう。

「上に上に。とりあえず三役、そしてその先を見据えてやっていきたい」と琴勝峰。最高位は前頭3枚目、まだ、上位総当たりの地位で勝ち越したことはないが、今後の頑張りで、この場所を、単に「15枚目の力士が平幕優勝した場所」で終わらせず、「あの場所が琴勝峰が覚醒した場所だったね」と記憶されるように、これからしていかなければならない。

文=藤本泰佑

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