世の中には、ときどき、思いもよらぬことが起こります。
とりわけ、大相撲界はそうです。それもときどきではなく、しょっちゅう。
令和3年秋場所も前場所、全勝優勝して優勝争いの先陣に立つはずだった横綱白鵬がコロナ禍で休場に追い込まれました。
まさか、ですよね。でも、まあ、これが人生でしょうか。
こういうことに直面し、乗り越えていくところに人の世の妙味があるワケですから。
問題は、この予期せぬ出来事に遭遇したときの対処法です。
さあ、力士たちはどうしたでしょうか。
今回はハプニングにまつわるエピソードを集めました。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。
取組前に流血なにごともやり過ぎてはいけない。平成29(2017)年夏場所5日目。東前頭7枚目の北勝富士(現大山親方)は、埼玉栄高の後輩で、相撲教習所でも一緒だった西前頭7枚目の貴景勝(現湊川親方)との一戦を前にウォーミングアップに余念がなかった。
そして、つい熱が入り過ぎ、計算外のことが起こった。壁に額をぶつけているうちに強くぶつけ過ぎ、額がぱっくりと割れてしまったのだ。当然のことながら大出血だ。とりあえず絆創膏で傷口をふさぎ、土俵に上がったが、これが影響したのか、相撲は激しい押し合い、突き合いになったものの、引き落としで負けてしまった。
ケガ負けだ。翌日、北勝富士の額を見ると3本の赤い筋ができていた。白鵬は、
「取組でできた傷は男の勲章だ」
と言ったが、悔しい勲章だ。
翌6日目の相手は西前頭8枚目の蒼国来(現荒汐親方)だった。今度は前日と一転。よく見て冷静に押し出した北勝富士は、勝因を聞かれてこう答えた。
「やっぱり額を割るのはやり過ぎ。今日はウォーミングアップを昨日の半分ぐらいに抑えました。それがよかった」
いろんな勝因があるものですね。
月刊『相撲』令和3年10月号掲載