close

2025-09-17

【相撲編集部が選ぶ秋場所4日目の一番】大の里に土。気持ちの上で覚醒を遂げた伯桜鵬が2場所連続の金星

横綱相手に動きの激しい相撲に持ち込んだ伯桜鵬は、土俵際で体を預けてきた大の里を突き落とし。2場所連続の金星を挙げた

全ての画像を見る
伯桜鵬(突き落とし)大の里

動きの勝利だった。
 
伯桜鵬が、今場所ここまで安定感抜群の相撲を取り続けていた横綱大の里に土をつけた。先場所に続く2場所連続の金星だ。
 
相手が引いてきたところにつけ込んで押し出した先場所とは違い、今場所は攻められて土俵際での突き落としだったが、盤石の相撲を重ねてきた横綱を崩したという点では、白星の価値はいささかも先場所に劣るものではない。
 
大の里は、攻められて負けたわけではないので、敗因を挙げるとすればただ一つ、そこまでの動きの激しい相撲のリズムに乗せられ、相手をしっかりつかまえないまま体を預けるような形になってしまったことだろう。
 
裏を返せば、伯桜鵬の勝因は、とにかく先に先にと動いて、じっくりした相撲にさせなかったこと、と言えるだろう。

「どういう相撲を取ったか、全然覚えてないんですけど、横綱の馬力、圧力を(正面から)受けずに逃がして、右は差させない、自分は絶対に攻め続ける、というテーマを持ってやった」と伯桜鵬。そこに徹する意識が、この金星を生んだ。
 
立ち合いは低く当たり、モロ手突きにきた大の里の手をはね上げた。一回ハジかれ、そのあと右、左と突かれたが、耐えて左差し。右も差そうとしたところを大の里が嫌って一度離れる。大の里に左に回られ、深い上手に手を掛けられた伯桜鵬が嫌うと大の里も右から突いて再度離れる。そこから左差し、右から抱える形になった大の里が一気に出て決めようとしたところ、伯桜鵬が俵に詰まりながらも右から突き落とした。
 
伯桜鵬はかけた技は最後の突き落としのみと言ってもいいが、自身がテーマとしたことは、すべて最後まで貫き通し、右も一度も差させることなく、白星を手にした。
 
話を聞くと、今場所の伯桜鵬は、どうやら、やろうと決めたことは最後まで貫く、この「貫徹力」が推進力になっているようだ。

「今場所は、自分で腹を決めて、前に出続けられるか、ということで勝負している」と伯桜鵬。確かに、今場所の伯桜鵬は、常に前に出ている。初日は素早く立って大関を狙う若隆景を圧倒、2日目の琴櫻、昨日3日目の豊昇龍には結果としてはかわされたが、前に攻めての負けだ。そしてこの日は、さすがに大の里相手に先手を取って攻め込むには至らなかったが、「横綱の馬力と正面衝突したら勝てないが、仕切りのとき、横綱が自分から見て右にズレていたので、自分はまっすぐいった」という冷静さも併せて、互角の当たり合いを実現させ、その後の動きで白星につなげた。
 
その「貫徹力」のもとになっているのが、現師匠(元横綱照ノ富士の伊勢ケ濱親方)との出会いだ。「師匠に“日々の結果でなく、2年後、3年後をみてやっていこう“と言われている。2日目、3日目も、師匠に“いいぞ”と言ってもらってうれしかった。守りの相撲から、攻めの相撲に変わったのは、師匠のおかげ」なのだという。また、「以前は“カッコいいところを見せたい”と思って土俵に上がっていたところがあった。でも“周りの目なんか気にするな“と。それより、勝った負けたで一喜一憂しないで、一日一日区切って、同じことを続けていく。それを実際やってきた師匠に言ってもらって、楽になったところがありました」とも。どうやら、現師匠との出会いから、精神的な覚醒がなされたようだ。かつては「令和の怪物」と評された男。この精神で努力を続けていけば、近いうちにその覚醒が相撲の上でも、もっとはっきりと形に表れる日がやってくることだろう。
 
一方、先場所に続いて4日目に土がついた大の里は、「もう一回、あした切り替えてやっていきます。(4日目を意識した?)そうは思わない。またあした、一日一番、集中してやっていきます。またあしたですね」と、“あした”を3回繰り返して、切り替えを誓っていた。
 
ともあれ、きのうまで最も安定した相撲を見せ、本命かと思われた大の里に土がつき、前を走る休場明けの豊昇龍と、関脇の霧島の2人を追う形となったことで、優勝争いは様相が一転だ。さあ、何とも面白くなってきた。

文=藤本泰祐

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事