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2025-10-14

【連載 泣き笑いどすこい劇場】第34回「前兆」その1

初代若乃花、貴ノ花を生んだきゑさん。左は少年時代の貴ノ花

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人生には理屈では割り切れない、摩訶不思議なことがよく起こります。
なにかあったとき「そう言えば、あの直前にこういうことがあったな」
と、これから起こることを予感させるような出来事に遭遇したことはありませんか。
ちょうど大地震が起こる前の予知現象のように。
ホンのちょっとしたことが、勝負に大きく影響する世界だからかもしれませんが、大相撲界にはよくそれが起こります。
そんな理論を超越した、なんとも神秘的な前兆、前触れにまつわるエピソードです。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。

暁の強運児

母子の関係ほど濃密なものはない。大相撲史を彩る大相撲ファミリーの3代目若乃花、貴乃花の祖母であり、初代若乃花、大関貴ノ花の母だった花田きゑさんは10人もの子どもを生んだ。

そのうちの2人、長男の初代若乃花と末っ子の貴ノ花が生まれたのは、まさに夜が白白と明け、真っ赤な太陽が山の向こうから昇るときだったという。ほかの8人は宵の口とか、真夜中ばかりだったそうで、きゑさんは、

「この2人には何かある」

と生まれたときから固く信じていたという。

この思いをさらに強くしたのは初代若乃花が2歳のときだった。自宅の前を流れていた川べりで叔母が初代若乃花をあやしているうちに足をツルッと滑らせ、川の中に落ちてしまった。ところが、いくらも流れていかないとき、着物の裾が杭に引っかかり、運良く命拾いをしたのだ。

この母親ならではの勘が見事に的中し、後年、2人とも大相撲ファンを熱狂させる人気力士になり、孫も日本中に大フィーバーを巻き起こした。

月刊『相撲』平成25年8月号掲載

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