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2025-10-22

クリス・ブルックスが目論むDDT11・3両国国技館でのおもてなし…ザック・セイバーJrのテクニックをDDT流の混沌に巻き込む【週刊プロレス】

クリス(左)とザック

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11・3両国国技館にて、新日本プロレスより参戦するザック・セイバーJr.と通算4度目となる一騎打ちをおこなうクリス・ブルックス。ファン時代からのあこがれの存在と、いつしか友人関係を築くようになった中で深掘りし、熟考した上で口にしたのが今回の内容だ。お互いの好きなアーティストに裏づけされたスタイルのぶつかり合いの果てに、クリスが求めるものとは――。(聞き手・鈴木健.txt/通訳・Mr. HAKU)


ザック戦はほかが一切介在しない
二人の関係性だけで生成されるもの

――今日はクリス選手のインタビューに来たのですが…なんか、後ろにブンブンもいるんですけど。

クリス いや、プロレスの仕事の時以外はだいたいこの店をベースメントにしているんですよ。ここにはブンブンと僕のアクリルスタンドや、僕のビール(クリスがプロデュースした「EXISTING IS EXHAUSTING」=イグジスティング・イズ・イグゾースティング)、ブンブンのタオルも置いてあるんだ。

――では、このお店「Pintology」(パイントロジー=京王線笹塚駅より徒歩数分)に来れば普段ならブンブンに会えるんですね。

クリス そう、ブンブンにとってはセカンドハウスのようなものだから。まあ、別に口ははさんでこないから安心して。

――わかりました。ザック・セイバーJr.戦の前に、お聞きしたいことがあります。新日本プロレス10・13両国国技館大会でKONOSUKE TAKESHITAがザックからIWGP世界ヘビー級王座を奪取しました。この試合は、どんなマインドで見ていましたか。

クリス いきなりムズカシイね。うーん…ドッチガカツデアッテモ、ダイジョーブトオモッテイマシタ。ザックがチャンピオンであることは嬉しいし誇らしい一方で、タケシタとも僕との間には長い歴史がある。ヒストリーで言ったらどちらとも長いわけで、どちらが勝っても僕は喜べた。ただ、そこに懸けられていたのはDDTのタイトルではない。もしもそうだったら、勝った方と自分のリング上での立ち位置や関係性、もっと具体的に言うと挑戦するか否かを含めて追っていただろう。でも、IWGPタイトルマッチであることによってある意味、自分のプロレスの世界外で展開されているようなものであって、勝敗や誰がチャンピオンであるといったことが僕と直結しないから、その点は切り離して見ていた。だからあの試合及びその結果の受け取り方に関しては、単純にそれぞれとの関係性以外のフィルターはなかったね。それが、どちらが勝ってもハッピーになれた理由だ。

――DDTで同じ時を過ごしてきたTAKESHITA選手がIWGP世界ヘビー級王者になりました。

クリス 3団体同時所属という形であるとはいえ、タケシタが勝ったことでヨソ者が獲ったとか、DDTの人間が勝つとは…という声があがっているようだけど、これまで彼の過程を見てきた人間として言わせてもらうなら、何をおっしゃいますかと。現在のタケシタを見れば、世界のトップ10…いや、トップ5のプロレスラーになっているのはわかりきっていることじゃないか。もちろんその中にザックもいるよ。そんなステータスにいる人間同士が闘ったのだから、僕にとってはタケシタがIWGPチャンピオンになったことは驚きでもなんでもない。

――一つの事実として、自分と闘う前にザックが王座から転落してしまいました。それはシングルマッチへ向かう上でなんらかの影響は及ぶものでしょうか。

クリス ノー。さっきも言った通り、IWGPは僕のプロレスのフィールド外だし、ましてやザックとの対戦は戦績だとかほかの誰かと闘ってどうなったかというのが一切介在しない二人の関係性だけで生成されるものだから。今回のシングルマッチについての僕なりの意味合いを話そうか。プロレスをやる上で感じるいくつものプレッシャーがある中で、僕やザックの場合はそこに海外から日本へ移り住んだことで付随する人生のプレッシャーがある。僕らはこの何年もの間、それを共有してきたわけで、それが今回の試合につながっているのは絶対的なものなんだ。こういう言い方をすればわかってもらえると思うけど、IWGPを落としたとか、今はチャンピオンじゃないとか、そういう要素とは明らかに別次元のテーマだよね。

――わかります。

クリス それにザックは、ベルトを失った悔しさや落胆する気持ちも味わっただろうけど、そうしたメンタルが試合に悪影響を及ぼすような、そんなレベルのレスラーじゃないことはわかっているし、僕の方も相手がIWGPチャンピオンじゃなくなったからどうこうなんていう考えは、微塵も湧いてこない。だから影響、ないよ。

――対戦要求をした時に「7年ぶりのシングルマッチ」と言っていましたが、2017年8月17日、ロンドンでおこなわれたRPW(レボリューションプロレスリング)ブリティシュヘビー級タイトルマッチ(ザックがサブミッションからのレフェリーストップで防衛)が前回のシングルマッチですよね。

クリス 申し訳ないんだけど、そのシングルマッチにタイトルが懸かっていたのかどうかも、なんならどういう内容だったかも憶えていなくてね。試合前後の感情ばかりが記憶として残っているんだ。

――そういうものなんですか。

クリス その試合だけじゃなく、その頃の自分がどういうレスラーで、どういう人間だったのかさえ靄がかかって見えない感じでね。というのも、2019年に僕はDDTへやってきたわけだけど、そこからの人生の変化が劇的すぎてそれ以前にあったことが自分の人生じゃないような感覚なんだ。そんなだから点のような記憶って言えばいいかな、自分が何をやったのかはそういう試合結果のようなデータとして存在しているだけで、脳内のメモリーとしてはそれ以後の人生によって記憶が上書きされている。

――プロレスラーになる前からあこがれの存在だったザックと母国のタイトルを懸けて闘ったとあれば、思い出として残っているものだとばかり…。

クリス まあ、ブリティッシュタイトルというもの自体が当時、イギリス国内にあった50~60のプロモーションが似たような看板を掲げてやっていたから、タイトルマッチに漕ぎつけたという意識自体が薄かったんだと思う。ザックと対戦することはもちろん重要だけど、それ以前にやった2試合の方が僕の中では強く刻まれているから、3度目の一騎打ちは印象に残っていないんだろうね。

――2014年6月13日(ファイトクラブプロ・ウェストミッドアイランド大会)と21日(GBP=グレートベアープロモーション・ミドルウィッチ大会)ですね。

クリス そっちはけっこう動画で見返すこともあるんだけど、3度目は映像で見た記憶もない。2度目と3度目の間で変わった僕の立ち位置によるものなのかなんなのか、あるいはその間に心境の変化があったのか…だから今回も3回目と4回目の間に経験したこと、変わったことによってまた違った心境で臨むのかもしれないね。ましてや関係性によって描かれるものであるなら、より反映されてしかるべきだろう。


「超える」ではなく「同じ」を証明
するという熟考した上での結論

――話を聞くまでは、ザックとタイトルを懸けて対戦したことで、自身のステータスが上がったことを実感できたと思えたので意外でした。

クリス なるほどね。今、話を出してもらったことで自己分析すると、実際は逆だったということなんだろう。最初の2試合は、自分なりにできることができたという手応えがあったから、今でもためらいなく映像を見られる。でも3度目は、まさにおっしゃる通りキャリア的にステップアップした分、もっとやれたはずなのにできなかった。それで今も無意識のうちに見ることを拒絶している…そういうことなんだと思う。そうだ、自分自身がザックとの3度目のシングルマッチに求めるレベルに追いついていない現実の歯痒さを味わった記憶が蘇ってきた。おそらくザックも、その2017年の試合は明確に憶えていない気がする。なぜなら、彼は2013年からプロレスリング・ノアへ留学し、あの頃にはかなりプロレスラーとしてステップアップしてアメリカに住んでいた時期だったかもしれないから。PWG(プロレスリングゲリラ=アメリカのインディープロモーション)とかにも出ていて、バタバタしていた中でイギリスに戻ってきての一戦だったはずだ。それと比較すると、2014年の試合はそれこそ今回のようにお互いの中で紡いできた関係性を前面に出せたシチュエーションだったから、彼にとってもそっちの方が印象深いと思う。まだ彼も同じようにイギリス国内のサーキットを回っていて、その時点でキャリアの差を見せつけられてがく然とさせられたのに、そこからさらにステータスをあげて…ザックが新日本のニュージャパンカップに初優勝したのって何年だったっけ?

――2018年です。

クリス ああ、やっぱり3度目のシングルマッチの頃だね。

――その試合の5ヵ月前にザック選手は新日本へ参戦するようになりました。

クリス そんなタイミングでシングルマッチをやったわけだから、4年前以上の差を見せつけられて…目の前に突きつけられた格の差によって身構えてしまった分、全力を出し切れずに終わったトラウマが記憶を消去させたのかもしれない。

――そうなると、逆にドギツいですね。その9ヵ月後に、今度は鈴木みのる&ザックのRPWタッグ王座にCCK(THE CALAMARI DRUNKEN KINGS)として挑戦(パートナーはキッド・ライコス)した時は、その差を縮められたという感触は得られたんですか。

クリス それはスズキサンが怖かったことしか憶えていないです。

――となると、やはり2014年の方になりますね。

クリス あの時点での、人生で一番大きな試合と思えたからね。デビューから7年ぐらいかけて、ようやく肌を合わせるチャンスが巡ってきたというのに、ザックがあまりに強く叩くものだから首から血が出た。だから強烈に憶えている。キビシカッタ。そこは今と変わらない。

――サブミッションよりも叩かれた方が印象に残っていると。

クリス 今の僕がマサダやコウロクに厳しくいくと、それを見たザックが「な、俺がYOUにやったのと同じことをやるだろ? それ、俺との闘いで学んだことだからな」と言うんだ。

――ボコボコにされた初一騎打ちの8日後に2度目の一騎打ちが巡ってくるわけですが、記録を見ると8人参加ジュニアヘビー級トーナメント1回戦で対戦し15分ドロー(両者失格)となっています。結果としては2戦目で引き分けに持ち込んでいます。

クリス そうなの? 憶えていない。1度目は何をやってくるかわからない緊張、2度目はどれほど厳しく来るかがわかっている緊張。それはもはや、恐怖という言い回ししかないぐらいのものだったから、勝とうが負けようが引き分けようがそんなのは二の次だったからメモリーされていないんだろうね。私、この前数えたら1500試合もやっているよ。それじゃ、昔の一つひとつの結果が曖昧になるのも無理ないです。

――前回の一騎打ちのあとに経験したことを踏まえれば、まったく違うメンタルで臨めると思われます。

クリス うん、この前のタッグで対戦している間も、そして試合後も彼に対するリスペクトは何も変わらない一方で、自分が積み上げてきたものによる違いの大きさを実感したんだ。今までは見上げていた存在だったのが、同じ高さの目線に持ってくることができた。初めての一騎打ちで自分を支配していたビビる気持ちは対戦する前からなかったし、試合を終えても同じだったからザックに対する見方はもちろんあの頃とはまるで違う。彼の目にもそう映っただろう。むしろそれは、僕以上に彼の方が大きく感じているんじゃないかな。

――そういう手応えがあったから、その場でシングルマッチを要求したんでしょうか。

クリス よく先輩やあこがれの存在を超えることを目的とするケースがあるけど、僕はザックに対しそういうものを望んでいるのではなく、同じレベルにたどり着きたいという思いの方が強いんだ。あのタッグマッチでは負けたけど(パートナーの正田がザックに獲られる)、次やったら…と思えるレベルにまで自信を積み上げられたのだから、同じレベルまでいける確信が芽生えた。それを証明するためには、1対1で闘う場が必要だろう。

――昨年4月7日に、クリス選手とタッグを組む形でザックがこちらのフィールドに足を踏み入れました。その時点で「次は対戦」とはならなかったんですか。

クリス 言われてみれば、あの時点であったかもしれない。というのは、彼と組んだ時点で、もう負け確定なんだよ。オーラやたたずまいによって、タッグパートナーの自分の存在感が消されているのがわかったんだ。これが対戦相手なら試合の結果として勝つ可能性がある。でも、組んだら二人の間に直接的な勝敗はないから印象の差で決まってしまう。それは、あの試合のあとにALL TOGETHERで組んだ時も感じたことだった。だから、どこかのタイミングで対戦するシチュエーションを作らなければと思っていたかもしれない。

――“同じ”を証明したいのと同時に、やはり勝ちたいんですね。でも、それはほかの人に対する「勝ちたい」とは違うニュアンスと見受けられます。

クリス そうなるね。これはけっして軽い気持ちで言っているわけじゃないけど、ザック・セイバーJr.というプロレスラーを超えることは物理的に不可能だというのが僕の結論だ。こういうコメントをすると試合をやる前から勝てないと言っているようなものだととらえる人もいるだろうけど、冷静に現実を見極めた上で自分に対し正直になったら、それ以外の真理にはならない。そこで先ほどから言っている「同じ」という、もう一つの真理を見いだせた。そこには根拠があって、長く彼を見てきた中で自分も同じレベルのパフォーマンスを体現できるケースが、常日頃は無理だとしても時と場合によってはあるんだという感触が、これまでの積み重ねの中で得られているんだ。そこは想像できても、彼を超える、上回る自分の姿は想像できない。

――正直ですね。「超える」ではなく「同じ」を証明するというメンタルの持ち方は、プロレスラーとして独特に思えます。

クリス ノーマルなスタンスだったら、ビッグマッチを前に「絶対に勝って超えてやる!」って勇ましいことを言うべきところだろうね。プロモーションとしてはそれが正しいんだから、そういうワードを使うのは間違いとは言わない。でも、それだとありきたりだよね。物事を深く考えずとも、目標として成り立つ言葉じゃないか。本気でそう思って、本当にそれが実現可能かどうかを検証した上で言っていることなのか? 僕はザックという人間を深く知り、それでもなお考えたからこそ「超えるのは不可能」という結論をつかむことができたんだ。そして、そこまで熟考した上で「ある日、あるタイミング、ある場面で彼と対等のレベルまで自分を持っていけることができる」という、もう一つの結論も得られた。それらの過程に対し僕は正直でありたいし、空っぽの言葉は好きじゃない。このインタビューで、面白いことを求められている? 少し考えれば言えると思うよ。だけど正直な気持ちを吐露することによって、ファンに興味を持ってもらえる試合というのもあると思うんだ。僕にとっては、ザック戦がそれだよね。


プロレス版ブライアン・イーノ
vsナイン・インチ・ネイルズ

――そこまで自分を熟考させるザックですが、日本のプロレスの映像まで漁りまくるほど多くのプロレスラーを見てきた中で、なぜザック・セイバーJr.にもっとも惹かれたのでしょう。

クリス プロレスと出逢った2005年頃のイギリスにおけるシーンでは、みんな体が大きくて、日焼けして、ロッカールームにベビーオイルの匂いが充満していた。つまり、そういう型通りのアメリカンプロレスに走っていたんだ。エントランスシーンも判を押したようにがなり立てて、その都市の名前を叫ぶ。そうすれば声援をもらえるからね。そんな中、ザックはたとえデメリットが生じたとしても頑ななまでに自分のスタイルを崩さなかった。プロモーターから「入場の時、少しぐらいアピールしろよ」と言われても、自分のやりたいことを明確に持っているからそれを実行する方が重要だった。見ての通り安易に体を大きくすることもやらず、技術は一級品だから認められながらも、マジョリティーにヒットするような定番ムーブには見向きもしなかった。ほかとは違うんだから、それは目につくし、興味を持つし、引き込まれていくのも当然のことだった。

――技術やビジュアルより、姿勢に惹かれたのですか。

クリス いや、最初はほかのプロレスファン同様にあの多彩な技術がフックになったし、当たりの強さも魅力的に映った。でも、追い続ければ続けるほどザックは孤高なまでにザック・セイバーJr.であり続けることを、ここまで一度も曲げずにきた。そこは今も尊敬に値するし、自分もそうなりたいと今も追い続けているんだと思う。レスラーとしての属性は同じじゃなくとも、自分も愚直なまでにクリス・ブルックスであり続けたいと思っている。今はあこがれの対象から友人の距離感に変わった中で、僕がクリス・ブルックスであり続けようとしているのを見て共感してくれている部分が彼にもあるから、今のような関係性を築けているんじゃないかな。マットプロレスをやったり、ちょっと変わった面白いところで試合をやったり、へんてこなグッズを出したりで、そういう部分をザックが認めてくれているから東京ドームで入場するときのコスチュームはどんなものがいいかとか、照明や演出にいたるまで相談してくれるようになったんだと思う。今ではリング外の部分も含めて、お互い話し合えるし影響し合っているけど、お互いのスタイルが好きだとかじゃなくて、そもそもの考え方の共鳴があるからこそ、そういう話もできるようになってきたんだろうね。

――もともとあこがれの存在だった人が、自分の生活圏内にいるようになった今を俯瞰でとらえてみてください。

クリス 今となっては長年連れ添った老夫婦のような感覚かな。距離が近づくほど、お互いの欠点も何もかもがすべて見えてくる。それでもなお一緒にいる関係だからね。なので、当時の関係とは比べようがないよ。あまりに当時と今とでは印象が違いすぎて、それを対比するという考え方ができない。そもそも、僕の中にザックと親しい関係になりたいという願望があったら、見透かされて今のような対等な関係は築けなかっただろう。

――あこがれから友人同士の距離感になったと思えたのはどれぐらいからなんでしょう。

クリス 変化は徐々にあったと思うけど、尊敬心を持ったままそれでも自分を下に見るような部分が払しょくできたのは2、3年前ぐらいだったかな。ザックに言わせれば「クリスは昔からクールなやつだった」ってなるから、彼の観点からはずっと変わっていないのかもしれないけれど、それを誉め言葉として僕自身が受け入れられるようになったのがそれぐらいの時期で、同時により深くなっていったんだと思うよ。

――あれはエル・デスペラード戦前のインタビューだったと記憶しているんですが、クリス選手の取材現場にザックが来たことがありました。その時はまだDDTに上がっていなかったので、新日本の選手が他団体の取材へカジュアルにやってきたのがちょっとした驚きだったんです。

クリス 今はプロレスラーの間でも誰かと会ったらSNSにアップして「いいね」を稼ぐチャンスということをやるけど、ザックはあまりSNS自体をやらない。だからその行動は知られていないけど、お互いがツアーに出ていなくてトーキョーにいる時はほぼ毎日一緒にいる。職業柄ジムにいくという日課がある分、なおさらそういう時間があるわけで。どちらかのモチベーションが上がらなくて、いきたくないって言ったらケツを叩く。ザックがいきたくないと言っても、住んでいるところがわかっているから「ピンポーン」だよ。それから飯を食うなり酒を飲むなりでダラダラと一緒にいるんだ。だいたい、僕らの一日は「ジムにいこう」から始まるね。それほど長い時間を一緒に過ごしているから、取材にポッと現れたのもおそらくその前に二人でジムへいっていた時だったと思うよ。で、終わったらビールを飲みにいくと。その流れの中の一環を見られたわけだ。

――以前、ザック選手にインタビューした時に好きなミュージシャンとしてブライアン・イーノ(アンビエントミュージックの巨匠)をあげたんです。イーノはアーティストとして世界的に評価されながら、イギリスの音楽シーンにおいてはけっして主流ではなく、マニア受けする存在です。そうした嗜好が自身のスタイルやプロレス観につながっていると言っていて、なるほどと思ったんです。

クリス あー、わかります。音楽における方向性がレスリングに反映されるというのはあるかもね。僕はナイン・インチ・ネイルズというインダストリアルロックバンドが好きなんだけど、彼らはステージでボコボコやる、カオスでクレイジーな連中でね。見たらきっと思うよ、クリスのプロレスみたいだって。ワタシハイーノ、アマリスキジャナイ。ザックモ、ナイン・インチ・ネイルズ、スキジャナイヨ。でも、わかるよ。イーノの細部へのこだわりとか、芸術性を表現するあたりはザックのスタイルに通ずるよね。レスリングテクニックの中でもほかの人が見ても気づかなかったり、説明されてもわからなかったりするようなこだわりがザックはとても深い。僕の場合は、そこに消火器があればまず使いたいっていう感覚に見舞われる。ナイン・インチ・ネイルズがまさにそうだ。

――11・3両国はプロレス版ブライアン・イーノvsナイン・インチ・ネイルズですね。実際、イーノばりの細部に神経がいくようなスタイルに対し、どのように向かうつもりでいるんでしょう。

クリス そこはカオスで立ち向かうしかないよ。テクニックに対し、テクニックでぶつかったところでどうにもならないから、DDT流の混沌に巻き込む。せっかくDDTの大会にご来場いただくのだから、そこはDDTのおもてなしをしないとこの試合をやる意味もないだろう。

――ということは、新日本のリングでシングルマッチが組まれたらまた違っていたんですかね。

クリス 発想は違うものになるかもしれないけれど、DDTが新日本へ殴り込むという意味ではやっぱりそこでもDDT流のことはやると思う。そこはなんていうか、盟主に立ち向かう下からの突き上げじゃないけど、自分たちの存在意義を示さなければね。

――わかりました。最後に、これまでプロレスを続けてきたことによってデスペラード戦や今回のように自分が願っていたものがちゃんと形になる人生をクリス選手は歩めています。その中でザック・セイバーJr.は、関係性の長さという意味でおそらく最大級のシチュエーションと言っていい。そんな自身のライフをどう受け取りますか。

クリス そこにたどり着いた今となっては、あとは楽しむだけだから変な気負いのようなものはないかな。今、デスペラードの名前が出たけど、あれから1年以上が経った今でも1週間のうち誰からもその話が上がらないことがないぐらいで、あの時の花束や乳首へのステープルなんかを思い出させてくれると同時に、みんながそれほど楽しんだんだなって改めて実感できる。試合をやることが自己実現につながる部分はもちろんあるけれど、それとともにファンの皆さんに楽しんでもらえたからこそ自分にとってのいい思い出として残るんだと思う。そういう試合が実現するまで、積み上げなければならないことはたくさんあったとしても、漕ぎつけることができたのであればあとは自分も楽しみ、みんなにも楽しんでもらって、いい思い出としていつまでも共有してもらうことが僕自身の思い出になるから…何かをなし得ようと、もっとガツガツした方がいいのかもしれないけど、やっぱりプロレスも人生も楽しむためにあるものだから、そこでナーバスになったりネガティブな気負いを持ったりしても仕方がない。自分の信念に基づいた上で試合を楽しみ、それが思い出となることで永遠に振り返って楽しむことができたら、それこそが人生におけるかけがえのないものになるんじゃないかな。

――ザックとは、試合が終わったあとにまた会話が弾むでしょうね。

クリス うん、その場にいてもらって、今度は3人でインタビューやりましょう。

BBM SPORTS

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