秋は静かに物思う季節。
夏の暑さに痛めつけられて鈍くなっていた神経が生き返るような気がします。
だから、秋は抒情的になるんですね。
神経過敏と言えば、力士たちもそうです。
一瞬のうちで勝負が決する、過酷な世界に住む者は、ボンヤリしていては遅れを取ってしまいます。
常にあたりに注意を払い、空気を読む敏感さが必要です。
感情に流されてもいけません。
自分をコントロールし、相手に弱点を見せない冷静さも大切になってきます。
いかに力士たちがそういう面で長けているか。それを感じさせるエピソードです。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。
廻しを新調したらほんのちょっとしたことで気分転換を図ることを「気は心」という。これも感覚の問題。
平成29(2017)年夏場所後、髙安は大関に昇進した。これまた悲願の昇進だった。新大関デビューの名古屋場所が10日後に迫った6月28日、髙安は、
「一つの節目ですから、変えようと思いました」
と話し、廻しを新調することを明かした。ただし、色は
「見てのお楽しみ、ということで」
と秘密にしたが、間もなく黒であることがあっさりバレた。初日前に体になじますために着用して稽古場に現れたのだ。
「この色を選んだのは直感です。100色ぐらいの色の一覧表の中から、1分で決めました。この色に負けないように気を引き締めてやりたい」
と髙安は決意を露わにしたが、肝心な本番では前言を翻し、それまで使用していた水色の古い廻しで登場した。気が変わったのだ。この過敏さのせいかどうか、分からないが、この場所の髙安は、晴れやかデビューとはいかなかった。いきなり初日に北勝富士(現大山親方)に負けるなど、9勝6敗に終わったのだ。
予告した黒廻し姿をお披露目したのは1場所遅れの翌秋場所から。ところが、たった2日間使用したところで右足太ももの肉離れを起こし、3日目から休場したため、このニュー廻し姿はあっという間に消えた。
廻しにも微妙な浮き沈みがあるのだろう。令和3年秋場所の髙安の廻しは、新十両のときに使用した廻しと同じえんじ色だった。
月刊『相撲』令和3年11月号掲載