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2025-11-04

【連載 泣き笑いどすこい劇場】第34回「前兆」その4

平成22年春場所10日目、食あたりの苦しみを乗り越えた雅山が高見盛(現東関親方)を破って勝ち越し

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人生には理屈では割り切れない、摩訶不思議なことがよく起こります。
なにかあったとき「そう言えば、あの直前にこういうことがあったな」
と、これから起こることを予感させるような出来事に遭遇したことはありませんか。
ちょうど大地震が起こる前の予知現象のように。
ホンのちょっとしたことが、勝負に大きく影響する世界だからかもしれませんが、大相撲界にはよくそれが起こります。
そんな理論を超越した、なんとも神秘的な前兆、前触れにまつわるエピソードです。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。

災い転じて

これは吉兆だったのか、それとも不運のかたまりだったのか。平成22(2010)年春場所の初日前日、東前頭7枚目の雅山(現二子山親方)は食あたりを起こし、腹痛プラス下痢で七転八倒の苦しみをした。

「原因はたぶん、生卵です。後援者に卵を1000個、差し入れてもらったんです。そのうちのたった1個、卵かけご飯にしていただいたんです。この後、急に体調がおかしくなりましたから。ほかの力士はみんな、何個も食べたのになんともなかったのに。1000分の1の食あたり。すごい確率だと思いませんか」

と雅山は話したが、確かにこれはもう不運としかいいようがない。

おかげで体重が1日5キロも減り、相撲どころではない。初日、雅山は栃ノ心にあっさり寄り切られ、2日目はなんとか栃煌山(現清見潟親方)を引き落として勝ったものの、3日目は豊真将(現錣山親方)に逆に引き落とされた。1勝2敗。黒星先行だ。

しかし、この宝くじ級の体調急変で積もり積もった悪いものが体内からすっかり出てしまったのか、4日目からなんと手のひらを返したように7連勝。10日目には時天空に次いで平幕では2番目の勝ち越しを決めてしまった。

こうなると、食あたりを恨んでばかりはいられない。勢いは止まらず、連勝を伸ばし12日目には2場所ぶりの二ケタ勝ち星となる10勝目。

「最近は地方場所のほうが調子いいんですよ。適当に羽を伸ばしてやっているからじゃないですか。まあ、嫁のお母さんも呼んでいるので、その辺は軽めに書いておいてください」

と序盤の暗い顔とは別人のようにご機嫌だった。

月刊『相撲』平成25年8月号掲載

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