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2025-11-07

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第33回「力士とは」その2

平成28年秋場所11日目、不戦勝の勝ち名乗りを受ける正代平成28年秋場所11日目、不戦勝の勝ち名乗りを受ける正代

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物思う秋が更けていきます。
それにしても、人間っておもしろいですね。
いろんな面を持ち、見方によって全然違う人間に思えてきます。
力士もそうです。
一瞬の勝負に人生を賭ける力士たちは、実に崇高な精神の持ち主に思えます。
だって、迷ったり、雑念を抱いていては勝負に集中できず、勝てませんもの。
しかし、実際はどうでしょう。力士たちも、やはり同じ人間。
笑ったり、ぼやいたり、ため息をついたり、実にさまざまな顔を持っています。
力士とは何ぞや。
さあ、晩秋、いや、もう初冬ですか。とにかく夜長です。
力士たちの隠れた顔を捜してみましょう。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

不戦勝がきっかけ

他人の不幸は蜜の味。これが力士、というよりも、勝負師の本音と言っていい。
 
平成28(2016)年秋場所11日目、西前頭4枚目の千代鳳(現錦島親方)が休場した。前日の豪風(現尾車親方)戦で左ヒザの半月板を損傷したのだ。おかげで西前頭2枚目の正代は不戦勝になった。
 
この場所の正代はいきなり初日から7連敗するなど、やること、なすこと、裏目、裏目の日を送り、腐りきっていた。そこに、この千代鳳休場の報が飛び込んできた。時間は朝稽古が終わった直後だった。
 
ネガティブで定評のある正代だけに、このなんにもせず、向こうから転がり込んできた勝ち星に大喜び。その喜びぶりも、ひと味違っていた。勝ち名乗りを受けて支度部屋に戻ってくると、

「ああ、今日は昼飯がおいしかった。いつもは、そのあとで昼寝をするんだけど、する気もならなかった」
 
とにっこり。場所入り後もまったく体を動かさず、完全ホリデーを決め込んだそうで、

「さて、この結果がどう出るか」
 
とうそぶいていたが、なんとこれが大大吉。残り4日間を3勝1敗と乗り切り、トータルでも7勝8敗と1つ負け越しただけだった。8日目から手のひらを返したような相撲が続いたのだ。
 
それを勢いづけたのがこの不戦勝。他人の泣き顔は、まさに我が身の笑顔、だ。

月刊『相撲』令和3年12月号掲載

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