安青錦(首投げ)伯桜鵬二本差されて攻められたが、それでも白星はしっかりとつかんだ。
新関脇の安青錦が、物言いのつくきわどい相撲ではあったが、今場所好調の伯桜鵬を退け、初日から3連勝とした。
21歳(安青錦)と22歳(伯桜鵬)の、期待の若手同士(日本の学年区分なら同学年)の顔合わせ。これまでの対戦成績は安青錦の3連勝だ。伯桜鵬はまだ、低い安青錦の体勢をはっきり起こし切ったことはなく、これができるがどうかが、やはり焦点だと言えた。
伯桜鵬の立ち合いはこの日も、これまで2日間の横綱戦と同様、低い当たり。安青錦も頭を下げており、伯桜鵬の立ち合いの突きはヒジが伸びずに不発気味だったが、次の動きで得意の左を差すことに成功した。さらに前に出ながら右からおっつけ、右を巻き替えてモロ差しになった。
しかし――、安青錦はモロ差しを許してもなお、右からおっつけながら頭を下げてこらえる。
そして、右も入った伯桜鵬がそちらから起こそうとした瞬間だった。安青錦は、左から伯桜鵬の首を巻くと、窮余の一策の逆転の首投げ。軍配は安青錦に挙がり、同体ではないかと物言いがついたが、伯桜鵬の右ヒジが早くついており、軍配どおり安青錦の勝ちとなった。
「相撲としては負けていた。幕内はみんな圧力がある。相手の相撲になってしまった」
と言いながらも、「最後、体が動いてくれた。勝ってよかった」と安青錦。
「(首投げは)あまり出したくない技。しっかり前に攻めて自分の相撲を取りたい」
と、反省も忘れなかったが、モロ差しを許しながらも、簡単に頭を上げず、そこで稼いだわずかな時間で逆転の技を繰り出したこの日の相撲は、何か、体の芯の強さとそこに秘められたパワーを感じさせ、「ピンチを招いてもなお強し」と思わせる内容ではあった。
新入幕からここまでの4場所はいずれも11勝4敗。新関脇の今場所は、三役2場所目なので、通常は大関に向けては「足場固めの場所」という位置づけになるが、あまりの成績の安定度と、三役に上がる直前の11勝も上位陣総当たりの前頭筆頭にいたことから、「優勝に近い成績を挙げれば今場所後の大関昇進ムードも出てくるのでは?」という気の早い話も出てきている。
高田川審判部長(元関脇安芸乃島)は場所前、「そこは見ていかないと分からない。今、どうこう言う話ではない」としながらも、「(大関への)扉は握っている。あとは開いて入るのみ」とも。
そしてここまでの今場所の流れを見ていると、すでに幕内の全勝は横綱大の里、この安青錦、平幕の藤ノ川に朝紅龍と4人のみ。初日に落とした横綱豊昇龍が、どんどん本来の動きを取り戻してきており、ついてきそうな感じを見せているので、まずは両横綱と安青錦による優勝争いになる、と考えるのが順当だ。だとすれば、豊昇龍に強いこともあり、安青錦が優勝に近い成績を残す可能性は、まんざらない話ではないともいえる。
今後に向けては、「これから長いので、しっかり成長していきたい」と安青錦。
この日は、「史上最強の新弟子」の呼び声高く、デビューから何連勝するかが注目されている伊勢ケ濱部屋の旭富士(23歳)が順調に初土俵を白星で飾った。安青錦は21歳と若いと言えども、今の上位陣にとって自身がそうであるように、下から追ってくる者は、次から次へと新たに姿を現してくるもの。勢いがあり、上がれるときにしっかり上に上がっておくに越したことはないだろう。
文=藤本泰祐