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2025-09-28

【相撲編集部が選ぶ秋場所千秋楽の一番】本割で惨敗の大の里、素早い切り替え。決定戦で豊昇龍を寄り倒し5回目の優勝

本割では一方的に敗れた大の里だが、わずかな時間で立て直し、優勝決定戦では、結果的に物言いはついたが、内容的には圧勝。豊昇龍を寄り倒して5回目の優勝を遂げた

大の里(寄り倒し)豊昇龍

「大の里の足は返っていません。軍配どおり、大の里の勝ちといたします」
 
九重審判長(元大関千代大海)の場内説明を聞き、ウンウンと小さく2回うなずき、その後、「ヨシッ」と口が動いたように見えた。
 
東横綱大の里が1敗、西横綱豊昇龍が2敗で迎えた千秋楽の横綱対決は、本割で一方的に敗れた大の里が、優勝決定戦では攻め込んで雪辱。横綱になってからは初めてとなる、5回目の優勝を決めた。
 
優勝決定戦は、決定戦としては珍しく物言いのつく相撲となったが、ただスローで画像を見た感じでは「これで大の里の負けや、取り直しはあり得ないだろう」という感じではあったので、あまりドキドキする感じでの物言いではなく、結果的に見ているほうとしては優勝決定の瞬間が間延びしたような印象になってはしまったが、本割であまりにもふがいない相撲を取ってしまった大の里が、面目を施した勝利ではあった。
 
本割の相撲は、あまりにもあっけなかった。きっとちょっとした呼吸の問題なのだろうが、立ち合いは完全に豊昇龍のタイミングになったように見えた。最初の左右の突き2発で完全に起こされてしまい、思わず今場所は一度も見せていなかった立ち合い直後の引き。そのままあっという間に押し出された。
 
決定戦はそこからほんの数分後。「この惨敗から、そんなに早く立て直せるのか?」と思ってしまったが、「なすすべなく、何もさせてもらえなかったんで、もう、すぐ切り替えて、花道に行って、準備することができました」という大の里の対応はさすがだった。また先に両手をついて待ったところまでは同じに見えたが、今度はモロ手突きを繰り出し、そのあと得意の右を入れた。逆に豊昇龍のほうが、今度は立ち合いに気持ちの揺れを見せ、なぜか本割で決まった突きではなく、左に動いて上手を狙いに行く立ち合いに。豊昇龍は左に回って投げようとしたが、大の里が右の差し手を突きつけながら寄り倒した。
 
横綱同士の優勝決定戦は、平成21年9月場所、東横綱白鵬が千秋楽の本割で追いつき、西横綱朝青龍と戦って以来(この時は朝青龍が優勝)16年ぶりとのこと。今場所は、本割、そして決定戦と、いずれも立ち合い勝ちしたほうの一方的な勝利となり、結果的に大熱戦という感じにはならなかったが、まあ、またきっと両横綱が優勝を懸けて激突する機会はあるだろう。そのときはぜひ、互いがベストな立ち合いをしての大熱戦を見せてほしいものだ。
 
勝負がどちらが立ち合い勝ちしたかだけでほぼ決まってしまうのは、まあそれだけ相撲には立ち合いが大事だということではあるのだが、残念ながらそこにどんな勝負のアヤがあるのかが、見ているほうにはあまり分からないので、まあこの日の2番については、あまり分析のしようもない。

大の里は「親方から〝淡々といきなさい〟とアドバイスをいただいたが、本割は淡々とじゃなかった。欲が出てしまった部分もありましたし。〝このままでは終わらない〟ということで、しっかり最後、勝ち切ることができてよかった」と語ったが、そう言われてもやはり何だか……。まあとにかくここは、短時間で気持ちを作り直した大の里の精神力に感嘆するしかなさそうだ。

大の里、豊昇龍と東西に並んだ横綱が、初めて最後までマッチレースを繰り広げた場所が終わった。さてこの先は、このマッチレースが続いて「豊里時代」になるのか、あるいは今場所優勝した大の里が一強時代を作っていくのか、それともほかの力士が割って入ってくるのか。

注目は、今場所を終わって、次期大関コンテンダーの先頭に立った安青錦だろう。今後、どれぐらいのスピードで二人の間に割って入るような存在になってくるのか。そして、そこに行くまでの間も、現状、豊昇龍には強くて大の里には通じていない、という存在であることから、この状態が続くようなら、結果的に大の里一強への流れを加速させる存在になる可能性もある。

さてさて、これから角界の勢力図はどうなっていくのか、ここからしばらくが、分水嶺かもしれない。

文=藤本泰祐

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