若隆景(送り倒し)安青錦幕内前半戦の土俵で、まず藤ノ川が電光石火の攻めで連勝を5と伸ばした。
後半戦に入ってすぐ、義ノ富士が、熊本のエースの座をかけた、正代との「火の国ナオヤ対決」に勝って館内を大いに沸かせ、4勝1敗。続いて熱海富士が落ち着いた相撲で1敗キープ、三役登場後は髙安が力強く王鵬を押し出し、1敗を守った。
今場所好調な力士たちが順当に星を伸ばしていく中、だがその次の一番に、まさかの結末が待っていた。きのうまで4連勝し、優勝候補の一角を占めていた安青錦が、若隆景の変化にハマり、あっさりと土がついてしまったのだ。
普段の場所なら好取組に数えられるこの安青錦と若隆景の「超低空対決」だが、こと今場所に関しては若隆景が初日から4連敗、内容的にも残り腰のなさが目立っていただけに、事前の予想としては安青錦の黒星の可能性は低いかと思われた。
しかし……、波乱の目というのはこういうときにこそ潜んでいるものだ。立ち合い、若隆景が少し当たると見せて、サッと左に体をかわすと、安青錦はたたらを踏んで西土俵のあたりで手をついてしまった。決まり手は送り倒し。
「(相手の変化は)全然(頭に)入っていなかった。いつも稽古では真っすぐくるので、自分が悪いだけです」と安青錦。立ち合いはいつもほとんど顔を上げずにうつむいていくタイプではあるが、さほど勢い込んで突っ込むことがないので、相手の立ち合い変化で前にバッタリ、というのはこれまで見た記憶がなく、予想外の出来事ではあった。
特に今場所は、相手の調子から言っても、そんなに勢い込んでいく必要はなかったはずだが、「超低空対決」に、「低く当たらなければ」という意識があり、自ら語っている稽古での印象もあって、頭を下げすぎたのだろう。
ちょっと落とし穴にはまった感じでの1敗。これで今場所後の大関に関しては、残り全勝に近い星が必要となり、かなり可能性が低くなったが、まあこれは周囲が勝手に盛り上がって言っていただけのこと。本来の「大関への足場固めの場所」という形で考えれば、まだまだ意気消沈する黒星ではない。「切り替えて、あしたからまたしっかりやります」の言葉に期待したいところだ。
この日、大の里、豊昇龍の両横綱は、豊昇龍は平戸海に一瞬中に入られそうになったが、振りほどいたところで相手がバランスを崩して白星、大の里は盤石の右四つで若元春を寄り倒した。
5日目を終わって、大の里、藤ノ川の2人が全勝、1敗で豊昇龍、安青錦、髙安、義ノ富士、熱海富士、竜電、時疾風、錦富士、朝紅龍の9人が続く形となった。星勘定と相撲内容から見ると、やはり優勝争いは大の里が少し抜けている感じがあるが、誰がどこまで食いついていけるか。豊昇龍、安青錦のほか、1敗勢では冒頭に名前を挙げた3人(髙安、義ノ富士、熱海富士)が、上位と当たったときにも勝てる可能性をある程度有しており楽しみ。あとは藤ノ川がどこまで頑張れるか、というところか。
とにかく、まずは大の里に土をつける力士が現れるかどうか。あすは今場所悪くない動きを見せている同学年の平戸海が挑戦。先場所は左で前廻しをつかみながら、横綱の落ち着いた引っ張り込みで敗れているだけに、何とか速い攻めで慌てさせたいところだ。
文=藤本泰祐