隆の勝(引き落とし)大の里
えらいことになってきた。
11日目、優勝争いの状況が大きく動いた。この日を迎える時点では、大の里と安青錦が1敗でトップ、それを豊昇龍が2敗で追う形だったのが、安青錦と大の里が敗れて豊昇龍が勝ち、大の里、豊昇龍、安青錦がついに横一線に並んだばかりか、3敗の義ノ富士、時疾風、錦富士にもわずかにチャンスが出てくる状況になったのだ。
「3強」の中で、まず土俵に上がったのは新関脇の安青錦。この日は7月場所の初顔合わせで敗れている義ノ富士との対戦だ。
7月場所、先手、先手と攻めて安青錦を破っている義ノ富士の攻めは、この日も速かった。鋭い立ち合いから安青錦を右のノド輪も交えて突き上げた。最初は耐えていた安青錦だが、2発目の右の突きが肩にヒットすると、ついに上体が起きてしまった。そのまま突き出して義ノ富士。あの安青錦が突きだけで完全に起こされてしまうという、非常に珍しい場面となった。
「突き切りました。朝、考えたとおりにできた。(師匠からは)“止まるな”と。結果、止まらず思ったとおりの相撲が取れてよかった。止まらず休まず、手だけじゃなく足も。突くより起こす感じで」と義ノ富士。きのうに続き、理想的な内容で看板力士を連破、その力を見せつけた。
「受けてしまった」とは安青錦。立ち合い少し受けてからの相撲、という弱点が突かれた形で、今後はここへの対策が必要になってくるだろう。
続いて琴櫻が勝ってようやく白星先行とした後、豊昇龍が登場。厳しい立ち合いから右差し一気の寄り倒しと王鵬に何もさせず2敗キープ。終盤戦に入って、持ち前の集中力が研ぎ澄まされてきた印象だ。
そして驚かされたのは結びの大の里のまさかの連敗だ。
「気持ちだけは負けないように」と、ブチかまして右ノド輪、左おっつけの得意の形で押してきた隆の勝に、のけぞらされて体が伸びた状態で押し返そうとしたためか、横綱は左足が一度、二度とスリップ、このため、右足も送れなくなり、その機をとらえた隆の勝の引きにバッタリと土俵に這ってしまった。
「下半身が伸び切ってしまった。しっかり左を使っていたつもりが、攻めていなかった」と大の里。「残り4日間しっかりやることが大切」と切り替えていた。
さあこれでいよいよ優勝を争う「3強」が横一線に並んだ。連日書いているように、この3人は過去の直接対決の相性が「グー、チョキ、パー」の関係なので、これをもし破ることができる力士がいれば、その力士が優勝にぐっと近づくことになる。ただもし3人がまた「グー、チョキ、パー」の状態を繰り返して皆1勝1敗になると、その間隙を縫って義ノ富士ら3敗組も並びかけてくる可能性がある、というところがまた複雑だ。
義ノ富士は「勝ち越したんであと2勝かな」と控えめだが、その無欲さが怖いともいえる。
そしてもう一人、カギを握るのが大関琴櫻だ。あすは義ノ富士、13日目からは、現時点で2敗の3人と順に当たっていくことになる。この日で白星先行とはしたが、まだ勝ち越していないので、こちらも負けられない戦いだ。後半戦に入って、だんだん立ち合いの圧力が出てきただけに、3人の直接対決の裏でキャスティングボートを握る存在と言っていい。
あす12日目は安青錦は欧勝馬、大の里は王鵬、豊昇龍は髙安と対戦。3強直接対決を前にして、あす落とすようでは同じスタートラインに立てないことになるだけに、それぞれ負けられないが、そこは相手のあることなので、どうなるか分からない。自らの気持ちのコントロールの勝負ということになるか。
残りは直接対決を含んであと4日。これだけ役者がそろって、かつどう転ぶか分からない優勝争いは久しぶりだ。優勝ラインは低くなる公算が高いが、この展開ならそれもまたよし、だろう。
文=藤本泰祐