close

2025-11-18

【相撲編集部が選ぶ九州場所10日目の一番】義ノ富士、初顔で金星! 大の里に土がつき、「3強」が1差内に

見事な速攻で大の里を押し出し、土をつけた義ノ富士。大の里からは初顔合わせでの金星となった。優勝争いは、これで「3強」が1差の中にひしめき、がぜん混戦に

全ての画像を見る
義ノ富士(押し出し)大の里

アッという間だった。
 
こちらがまったく予想もしていない速さで、勝負は決着した。
 
義ノ富士が、これ以上ない速攻で、全勝の大の里に土をつけた。

“ここまで危ない相撲も玉鷲戦だけ、という安定度で勝ってきた大の里が、こんな負け方をするのか”という、にわかには信じがたい結果だったが、そこに至るにはやはり立ち合いにすべてがあった。
 
立ち合い、大の里は差しにいったか、あるいはカチ上げいったか、とにかく右ヒジをたたんで、固めていった。義ノ富士もまた、左ヒジをたたんで固め、そして右も差しにいくモロ差し狙いだ。
 
両者の体がぶつかったとき、それが二人の体格差によるものなのか、それともたまたまこの日のタイミングと当たった角度によるものなのかは分からないが、ちょうど大の里の曲げた右ヒジの下に、義ノ富士の曲げた左ヒジが入る形になった。このため、大の里は右を差すこともできなければ、ハジくこともできなかった。右は注文どおり入っていた義ノ富士は、左も下から掬ってモロ差し。
 
ここに至って大の里は、このところ出ていなかった「毒まんじゅう」(by解説の琴風さん)を食らってしまう。思わず右からの引き技。義ノ富士はサッとついていき、楽々と大の里を押し出した。
 
この立ち合いについては、「少し右にズレて左を差しやすくしたけどハジかれた。もう一回狙った感じ」と義ノ富士。「師匠に朝、どうやって行くんだと言われ、モロ差しで走りますと答えた。“固めてくるし、左は入らないと思う。我慢できずに上手からいくのはやめて、もう一回左を差しにいけ“と言われ、自分もそうするつもりだった」とも語っており、この作戦の徹底が勝利に結びついた。

いずれにしても、立ち合いのちょっとしたかみ合わせでこんなにはっきりした結果が出てしまうとは、いくらアマチュア時代に手合わせがあると言っても、やはり初顔の怖さ、ということが言えるかもしれない。「大相撲に入って自分も相撲スタイルが変わったし、横綱の昔の印象は捨てた」(義ノ富士)というのもよかったのだろう。

義ノ富士は幕下60枚目格付け出しからわずか10場所目での金星ゲット。熊本出身のご当所力士で、この日は父の目の前での殊勲星だったという。九州のニューヒーローの誕生だ。
 
大の里に土がついたことで、優勝争いは、この日勝った安青錦が1敗に並び、豊昇龍が1差で続く形になった。時疾風は3敗目を喫して後退したので、いよいよ1差の中に「3強」がひしめく状態に。豊昇龍にも自力優勝の目が復活、「3強」すべてに自力優勝の権利がある面白い形になってきた。
 
こうなると、きのう書いたとおり、誰が苦手の相手を研究して「グー、チョキ、パー」の関係を破れるかということがポイントにはなるが、まだその直接対決が組まれるまでにはおそらくあと2日ある。両横綱にとっては上位に強い王鵬戦、そして安青錦には、大の里を倒した義ノ富士とのあすの一番がカギになってくると言えよう。
 
とりわけ、安青錦-義ノ富士戦は、7月場所、幕内では唯一の対戦で、優勝争いの中で戦って義ノ富士(当時は草野)が勝っているだけに注目だ。このときは、義ノ富士が突っ張りから左上手をつかんで上手投げで崩しての寄りと、先手先手の攻めで安青錦を倒した。
 
安青錦は相手の攻めにも上体を上げずに耐え抜く力のすごさが特徴だが、逆に、まず相手の攻めを受けてしまう、ところはやはりある。前回の結果は、もしかしたら義ノ富士が、その点を突くことができる数少ない力士であることを示している可能性もあるのだ。
 
果たして安青錦は、自ら突いて先に仕掛けるのか、あるいは徹底してあてがったりおっつけたりして相手の攻めを防ぎにいくのか。そのあたりの対応も見どころだ。
 
優勝争いと、少し沸き上がりつつある大関取りへの緊張の中でのあすの義ノ富士戦。安青錦にとっては、大関への大きな試金石となると言えそうだ。

文=藤本泰祐

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事